3 アルファロ公爵家
アンナの葬式が終わってから数日後、とある貴族の屋敷で社交パーティーが開催されていた。イワンの側室のベアトリスの実家だった。
「ご機嫌麗しゅう。ベアトリスさんは相変わらずお美しいですね」
「ありがとう。貴女もとってもお綺麗よ」
「まあ嬉しい」
話しかけてきた令嬢にそう答えながら、内心でベアトリスは相手を見下していた。……ふん、私が美しいのは当たり前じゃない、せいぜい馬鹿面下げて私の引き立て役になりなさい。
その社交パーティーにはイワンも出席していた。正妻が亡くなったばかりだというのに……と王宮の両親や使用人達には呆れられていることにも気付かずに、隣に愛するベアトリスがいることだけでニコニコと笑顔を浮かべていた。
そんなイワンを見て、ベアトリスがそっと耳打ちする。
「イワン、いまの貴方も素敵ですけど、そんな素敵な笑顔は私だけの独り占めにさせてくださいな」
「おっと、すまない。もちろん、僕の笑顔は君だけのものだよ、べティ」
イワンが気を引き締めて真面目な顔に戻る。
「その通りですわ」
ベアトリスがニコリと一回だけイワンに笑みを向ける。イワンは言われたばかりなので顔には出さなかったが、心のなかでは舞い上がるくらい嬉しくなっていた。
そんなイワンに対して、ベアトリスは内心で舌打ちしていた。
……チッ、頭の弱い人。でもだからこそ、簡単に手込めに出来たんだけど。これからも精々利用させてもらうわ、私が王妃の座について、この国の全ての権力と財産を握る為にね。
そう、それこそがベアトリスの狙いだった。彼女は最初からイワンを愛してはいなく、彼が将来持ち得る権力と財産が目当てだったのだ。
その目的を果たすために、ベアトリスは出来る限りのことをやってきた。イワンに色仕掛けをして、側室の座につき、そして正室のアンナを追い出すために……。
そのとき、ベアトリス達がいるテーブルに一人の男が歩いてきた。整った顔立ちにフォーマルな服装をして貴族然とした立ち居振舞いだったが、ベアトリスはその男に見覚えがなかった。
その男がベアトリスとイワンの前に立ち、礼儀正しく頭を下げる。
「こんばんは、イワン殿下、ベアトリス王太子妃殿下、ご機嫌麗しゅうございます」
「ああ、こんばんは。えーと、貴方は……?」
イワンも顔見知りではないようだった。男が顔を上げて、その顔を間近で確認するものの、やはりベアトリスもイワンも心当たりのある人物が見つからない。
「私はエドワードと申します。アルファロ公爵家の者です」
「アルファロ公爵家? 聞いたことないな?」
「無理もありません。アルファロ公爵家は隣国のトラルセン王国に属している家系ですので」
「トラルセン王国の……?」
トラルセン王国のことはイワンもベアトリスも知っている、隣国なのだから当然だろう。しかし二人ともなにかを忘れている気がした、いままで知ってきた人間のなかでその国出身の誰かがいたような気がする?と。




