20 なにかしたい
その後、店長とデニーが部屋から出る気配を察して、アンナ達は急いで元いた休憩室に戻っていく。店長達は話を聞かれていたことには気付いていないらしく、休憩室にやってくるとアンナ達に笑いながら。
「いや、悪いね、待たせちゃって。新しいパンのアイデアをデニーに聞かれててさ」
そう言ったのだった。アンナ達は嘘だと分かっていたが、店長が心配を掛けないようにと気を遣っていることも理解していたので、問い詰めたりはせずに話に乗っていた。
それからはいつも通り、各種の道具の最終チェックなどをしたのち、退勤となった。アンナとエリスはクロワ達と途中まで同じ道を帰り、分岐路で別れるとその先で待機していたじいやと合流して屋敷へと戻っていった。
そして屋敷内、アンナの私室にて。アンナはベッドの端に座り込んだまま物思いに耽っていた。帰宅してからずっとそうしていたので、そばに控えていたエリスが声を掛ける。
「パン屋の万引きのことですか、アンナ様?」
アンナは一度エリスを見やると、再び前を向いて考えるようにしながら。
「ええ……私に、私達に出来ることはないかなって」
「クロワさん達とも話されていましたね、帰り道で」
「ええ……」
エリスの言う通り、帰り道でクロワ達ともなにか助けになれないか話したが、結局良い案は浮かばなかったのだ。
「エリスは何かない? さっき、帰りでは聞きそびれちゃったけど」
「……万引きされたカツサンドは、確か、置かれていた場所的にショーウィンドウの外からも見えましたよね」
「うん。とはいっても、店外からも私達店員からも見えないように、身体で隠すようにして万引きしたんだろうけど……」
「しかし、なくなったかどうかは判別できるはずです。盗む前後のカツサンドの数を見れば」
「そうだとは思うけど……」
もしかしてと、アンナはエリスの言いたいことを察したようだった。
「もしかして見張るつもり? ショーウィンドウの外から?」
「……私は考えられる策を答えるだけです。どうなさるかは、アンナ様にお任せ致します」
「…………」
……自分は王族であるアンナ様の専属メイドなのですから。そうエリスが思っているのは、アンナにも容易に分かった。
たとえ仮にアンナがなにかしなかったとしても、店長は街の警察に被害届を出すだろうし、万引き犯を捕まえるための策を講じるだろう。
そうなれば遅かれ早かれ万引き犯は捕まるかもしれない。アンナがわざわざ動く必要も義務もないのである。
だがしかし、アンナは意志の固まった真面目な顔で言った。
「見張りましょう。私に出来る限りの範囲で。犯人は現場に戻るって聞いたことあるし、ちょうど明日はシフトが入ってないから、双眼鏡か望遠鏡を持ち出して、向かいの建物の屋上からででも」
アンナが動く必要も義務もない……しかし、アンナが動きたいと思う意志と義理はあった。
「あのショーウィンドウは結構大きいから、たとえ次に盗まれるのがカツサンドじゃないとしても、見える範囲でなら分かるだろうし。やってみる価値はあるはずよ」
働きたいと願った自分を雇ってくれて、優しく仕事を教えてくれて、困ったときには助けてくれる……そんな人達のために、あのパン屋のために、アンナはなにかしたいと思ったのだ。
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