19 万引き
バックヤードに残っていた店員がドアへと向かって、アンナ達に手招きする。クロワという女性の店員だ。クロワは口を閉ざしたまま、親指をドアの先に向けるジェスチャーをした。
……何があったかこっそり聞きに行こーよ。そう言いたいらしかった。
その場にはクロワ、アンナ、エリス、そしてもう一人の店員の計四人がいたのだが、もう一人の店員が小さくうなずいてドアへと向かい、アンナも気になったのでついていく。
エリスはその場に留まっていたが、アンナが手招きすると真顔で近付いていった。
「いいんですか、アンジェ、クロワさん達も。デニーさんは店長だけに話したいはずですが」
みんなの前ではアンジェ呼びであり、『様』も付けないようにとアンナから言われているのである。表向きは友人という関係なのだからと。
エリスにアンナが小さな声で答える。
「デニーさんがああいう時はトラブルがあった時だから、情報共有の為にも把握しといた方がいいでしょ?」
クロワ達もうなずいて、クロワが言った。
「心配しなくてもあたし達が原因じゃないみたいだから、見つかっても堂々としていればいーのいーの」
……そういう問題では……、とエリスは思った。自分達を心配させない為に、あえて店長だけに伝えようとしているのだろうに、と。
そしてクロワを先頭にして、四人は抜き足差し足で廊下を進んでいく。まるで泥棒みたいですねとエリスは思ったが、口には出さなかった。
やがて会計締めの計算をする部屋の前にやってくる。クロワがそーっとドアを開けて隙間を作ると、魔法具のランプの明かりと店長達の姿が見えた。
机の上……そこに置かれている帳簿を覗き込むようにして立っていた店長が、そばの椅子に座るデニーに聞いていた。
「計算が合わない?」
「はい。今日作ったパンの数と売れ残っている数、そして実際の売上の額を計算すると、どうしても計算が合わなくなるんです」
「会計魔法はちゃんと使ってる?」
「もちろん。パンを作る時や売れた時に自動で数や売上を計算するように設定していますし、不具合がないか定期的に確認しています」
「……スタッフのミス、もないか。会計魔法に不備がないなら、お金の受け渡しの時にすぐに分かるはずだからね」
「はい。無論、みんなに賄いとして出している分や店頭に陳列していない分などは除外しています」
「うん、分かってる」
「一応、会計魔法の記録も見せますね」
「うん、お願い」
机の上の空間に、横に長いウィンドウ画面が表示される。会計魔法の記録画面であり、店長は腕組みしながらそれを見つめていた。
デニーが補足するように言った。
「不足しているのはカツサンド三個です」
「……うん」
店長が深刻な顔で言った。
「……万引き、だね」
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