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【白い結婚 -王女ですが婚約者に他に愛する女性がいると言われました-】  作者: ナロー
第2章 アンナの自立

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18 運が良かった


 そんなこんなでアンナの日々は過ぎていった。パン屋のキッチンでの雑用に慣れてきた頃を見計らうようにして、次第にカウンターでの接客業務も担当するようになっていった。

 無論、最初はデニーや店長、手が空いている他の店員と組んで、彼らに教えてもらいながらの接客をしていった。まだ接客に慣れないアンナだったが、そんな彼女を客達も微笑ましく見て、ときには頑張ってねなどと励ましの言葉を掛けてもらっていた。


 その度にアンナは嬉しくもなり、早く一人前になるために頑張ろうと思ったりするのだった。店員のみんなばかりではなく、お客さん達も良い人達が多いと彼女は嬉しくなっていた。

 そんなアンナと入れ替わるようにして、エリスはキッチンでの雑用をこなしていた。いわばいままでの作業に慣れてきたので、アンナとエリスの役割を交換して、新たな業務にも慣れさせようという計らいだったのだ。


 エリスはキッチンでの雑用をそつなくこなしながら、カウンターにいるアンナのことが気掛かりでもあった。


(いまはまだ遭遇していないみたいですが、いずれアンナ様も出会うことになるでしょう……)


 いままでは運が良かったのだ。店員も来客も、皆良い人達ばかりでなにも心配することはなかった。偶然にも、エリスもいまだに遭遇していないのだから。


(しかし……アンナ様は大丈夫でしょうか……もしそのせいでベアトリスの一件を思い出して、取り乱してしまうことになれば……)


 ……もしかしたら、もうパン屋を辞めたい、二度と働きたくないと思ってしまうのではないでしょうか……。

 エリスはそう心配してしまうのだ。いまはまだ遭遇していないが、ベアトリスのような人間は貴族のなかだけの存在ではなく……一般人のなかにも確かに存在しているのだから。

 ……そして……。


「店長、ちょっといいですか?」


 ある日の夕方、その日も店の営業を終えてアンナ達がバックヤードにいたとき、売上の計算をしていたデニーが店長を呼びに来た。アンナも含めた店員達と談笑していた店長が顔を向けて応じる。


「どったの?」

「……ちょっと……」


 その場では用件を言わず、デニーが手招きする。奥で話したいことらしく、デニーと店長は奥へと消えていく。

 アンナと店員達は顔を見合わせた。マネージャーであるデニーがあのような様子になるときは、たいていなにかしらのトラブルが起きたときだと分かっていたからだった。


 ただしこの場で言わないということは、いまここにいる者達が原因というわけではないらしい。

 アンナが働き始めてからデニーがあのような様子になったことがあるトラブルといえば……パンを焼き上げる窯型の魔法具の調子が悪くなったり、あるいは注文していたパンの材料が届かなかったりしたときだろうか。



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