12 転移魔法で
アンナは深い溜め息を吐いた。
「……じいやの言うこともみんなの気持ちも分かっているつもりよ。でもね、さっきも言ったけど、あの屋敷からこの町まで毎朝早くから通勤するとしたら結構な時間が掛かっちゃうじゃない。だから私はこの町に住んだ方が良いと言っているの……それとも他に何か名案でもあるの?」
じいやが答えるより先にエリスが口を開いた。
「アンジェ様。執事長はこう言いたいのだと思われます。『通勤の手段であれば、自分が転移魔法で送ります』と」
「へ……?」
アンナとじいやがエリスに目を向けた。エリスがじいやに確認する。
「ですよね、執事長。執事長は転移魔法が使えますし、転移魔法であれば屋敷からこの町までの長距離もすぐに移動出来ます。アンジェ様が懸念するような長時間の通勤も、執事長の心配する屋敷から離れて暮らす危険もありません」
「「…………」」
アンナがじいやを見た。
「そうなの、じいや?」
「……肯定します。私が送迎すれば、全ての問題は解決するでしょう」
言葉としては肯定していたのではあるが……その発言には一拍の間があった。その間を見逃さなかったアンナが、疑わしそうに言う。
「うわー、なんかエリスが解決策を言ったから、それに乗っかったって感じが凄いわねぇ」
「……そんなことはございません」
「だったら転移魔法でこの町に来れるんなら、最初に来た時も馬車を使わずに魔法で行きましょうって提案しそうだけど?」
「……うっかり失念していただけでございます。私ももうかなりの年ですので」
「うっわ、じいやが年のせいにするなんて信じられないっ」
アンナがびっくりした声を出すが、じいやは澄まし顔でどこ吹く風という様子だった。上手いこと言い訳したわねとアンナは思ったが、とりあえず通勤の問題は解決したので良しとすることにした。
アンナは再び道の方へと振り返りながら、
「ま、いいけど。それじゃあじいや、通勤はお願いね。転移魔法の準備に遅れて仕事に遅刻とか勘弁してね」
「むしろアンジェ様が寝坊しないことの方をご心配なさるべきかと。目覚まし時計をしっかりと掛けておいてください」
「分かってますよっ。まったく、あー言えばこーゆー」
ぷりぷりと怒りながらアンナが道を歩いていく。彼女についていきながら、じいやは横目でエリスを見た。
「…………」
「何か、執事長?」
「……エリスにも後で転移魔法を使えるようにしてもらおう」
「アンジェ様も使いたいと言われるかもしれませんが」
「その時には教えるつもりだ、契約の方法や習得の仕方をな。実際に使えるようになるかは別だが」
「それを言うなら私もですね」
「…………」
あまりにも小さな声だったので、前を歩くアンナの耳には届いていないようだった。
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