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【白い結婚 -王女ですが婚約者に他に愛する女性がいると言われました-】  作者: ナロー
第1章 白い結婚

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2 訃報


 結婚後のアンナは自室にひきこもりがちな毎日を送っていた。夫のイワンはアンナの様子など微塵も心配せず、暇さえあれば側室のベアトリスの元を訪れては愛を語らっていた。

 そんな結婚生活はメイドを始めとした使用人達のうわさ話の種になっていた。アンナはお飾りの王太子妃であり、ベアトリスが実質的な次期王妃であり、イワン王子はアンナのことをまったく愛していないと。

 そのうわさ話はアンナの世話を任されていたメイドの耳にも入っていた。


「アンナ様、毎日本を読んでばかりでは気が滅入るのではありませんか? たまには庭園のお散歩やお茶会を楽しまれては……」


 メイドはそう提案するのだが、アンナは悲しそうに首を横に振るのだった。


「……私がそうすれば、あの人は顔をしかめるでしょう。またあの人の愛する方は、私に付き合おうとするでしょう。……私はそれが気が引けてしまうのです」


 それはイワンやベアトリスに対する、アンナの遠回しの拒絶の意志だった。イワンともベアトリスとも会いたくないし、話したくもない。だから部屋にずっといて、自分の好きなことをしているほうがいい……という。

 そのアンナの返答に、メイドはそれ以上なにも言うことができなかった。


 そんな生活が半年間ほど続き……日光をろくに浴びず身体もあまり動かさなかったのが祟ったのか、あるいはイワンやベアトリスに対する心理的ストレスが原因なのか、アンナはベッドに寝込むようになってしまった。

 医師や回復魔法士の手当ても受けたが回復の見込みがなく、症状は徐々に進行していった。やがてアンナの身体は痩せて、頬もこけてしまい、結婚前のような元気な姿は見られなくなってしまった。


 アンナが病床に臥せている間も、イワンは彼女の元を訪れようとはしなかった。アンナの存在自体忘れていたのかもしれないし、覚えていたとしても、むしろ早く死んでほしいと願っていたのかもしれない。

 ベアトリスに関しては表向きはアンナのことを心配する素振りをし、彼女の見舞いをしようとしていたが、アンナ自身がそれを頑なに拒んでいた。私のことなら大丈夫だから心配しないでくださいとメイドに言付けし、そのメイドを通じてベアトリスに伝えていたのである。


 そうしてそんな病床の日々もおよそ半年間ほど続いたあと……アンナの病状が悪化して亡くなったという訃報が、王宮内および王都に伝えられていったのである。



 エイバー王国の王宮、その謁見の間にて。玉座にはイワンの父親であるエイバー王が厳しい目つきで座っていた。


「イワン、何故アンナさんの葬式に出席しなかったのだ?」

「逆に聞きますが、何故僕が出席しなければいけないのですか?」

「……は?」


 エイバー王は我が耳と目を疑った。


「お前、本気か?」


 『本気か?』ではなく『正気か?』と問いたいところであった。


「アンナさんはお前の妻だろう。葬式に出席するのは当たり前ではないか」

「正妻です。しかし僕はあれを愛してはいませんでした」

「…………」


 エイバー王は唖然としてしまった。開いた口が塞がらないとはまさにこのことかと思った。


「僕が本当に愛しているのは、側室のべティ、あ、ベアトリスだけです」


 イワンは後頭部に手を当てて照れた顔をする。何を照れているんだとエイバー王は思った。


「……お前がアンナさんを愛してはいないことは理解した。だが、たとえお前にとっては表向きの正妻だとしても、葬式に出席するのが王太子としてすべきことだろう」

「お言葉ですが父さん、僕は自分に正直でいたいのです。愛してもいない女の葬式などに出たくはありません。そんなことすればべティ、あ、ベアトリスに浮気だと誤解されてしまう」

「…………、はあ?」


 ……浮気も何もアンナさんは正妻だろう。


「とにかく僕はあの女とは、例え死体でも関わりたくないんです。後のことは勝手にやっていてください。じゃ、べティ、あ、ベアトリスが待っているので僕はこれで失礼します」

「おい! ちょっと待て!」


 エイバー王が呼び止めるが、イワンは無視して謁見の間から出ていった。

 エイバー王は額に手を当てる。頭が痛くなっていた。

 ……まさか息子があのようになってしまうとは……。




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