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【白い結婚 -王女ですが婚約者に他に愛する女性がいると言われました-】  作者: ナロー
第2章 アンナの自立

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11 優先するのは


 結局、アンナの初の仕事先は最初に訪れたパン屋に決まった。後日、面接の練習や履歴書の準備を入念にしてから、再びパン屋を訪れてここで働きたい旨を伝えたのである。

 本面接はその二日後だったが、練習の甲斐あって無事にアンナもエリスも合格した。実際に働き始めるのはさらにその二日後からと決まり、その面接の帰り道でアンナはガッツポーズをしていた。


「やった! これで働けるわよ!」


 王宮や屋敷の外に出るために、働く。その希望の第一歩を確かに踏み始めることに、アンナは喜びを感じていたのである。


「それは何よりでございます」


 少し後をついて歩くじいやが応じた。アンナが働くことに少なからず心配はあるものの、それでも彼女が嬉しそうな顔をしているのを見ることは、じいや自身の喜びでもあった。

 じいやは、それこそアンナが赤ん坊のころから面倒を見てきている。彼女は我が娘のような存在であり、屋敷から出て自立しようとしているのは心配でもあるが、同時に娘が一人前になろうとしているようで応援したくもなるのである。


「明後日から初仕事かぁ……それまでにこの町で暮らす場所も探しておかないとね」


 だがしかし、じいやの気持ちはそれはそれとして、進言しておかなければいけないことは言わなければならない。


「アンジェ様、いかにアンジェ様のお言葉といえど、いまのは聞き捨てなりません」

「えっ⁉ この町で働くんだから、この町に居を移すのは当たり前じゃない? 毎日あの距離を馬車で来るとか、面倒だし時間も掛かるし朝早く起きなきゃいけないし」

「もしこの町、もしくはこの町の付近に住むというのであれば、私達使用人も全員移住することに致します」

「えぇ……?」


 アンナは戸惑ってしまう。まさか自分が移り住むという理由だけで、使用人達が全員ついてくるとは思っていなかったからだ。


「いえでも、エリスと一緒に住むつもりだし、じいや達までついてくることは……」


 じいやがエリスにじろりと目を向けた。アンナの言葉はエリスもいま聞いたばかりで初耳であり、顔には出さなかったが気持ちは動揺しており、背中には冷や汗が浮かんでいた。

 努めて冷静な声でエリスがアンナに言う。


「アンジェ様、私も初耳でございますが」

「そうだったっけ? じゃあいま言うわ。この町で働くのならこの町に住んだ方が都合が良いし、私も一人暮らしは不安だからエリスも一緒に暮らすの。いいでしょ?」


 エリスが返事をする前に、じいやが先程よりも強い声音で返答する。


「この町に移住することを否定するわけではありません。しかしエリスと二人だけというのは賛同致しかねます」

「……たとえ私の希望でも?」


 それまでの少女のような明るい雰囲気を潜ませて、真面目で大人びた雰囲気を漂わせてアンナが問う。歩いていた足も止めて、じいやへと振り返っていた。

 歩きながらの話ではなく、真面目に向き合う話し合いとして。

 じいやも足を止めて、真面目さを強くして答える。


「……はい。こればかりは譲ることは出来かねます。可能な限り貴女様のご希望に沿うようにと貴女様のお父上様より言われておりますが、身の安全と平穏な生活を優先するようにとも命じられておりますので」


 アンナの希望と、トラルセン国王の命令……二つがぶつかった場合、使用人達が優先するのは国王の命令なのだからと。


「……私が屋敷や貴方達から離れて暮らすことが、身の危険に繋がると言いたいの?」

「可能性を否定することは出来ません。私達のあずかり知らぬところで、またあのような危機をもたらすわけには参りませぬ」

「…………」


 イワンとの白い結婚やベアトリスの暗殺未遂のことを言っているのはすぐに分かった。

 いまこうしてアンナが生きているのは、エリスがトラルセン王家に状況を報告し、それによってトラルセン国王達がエイバー国に気付かれないように水面下で動いたからだ。アンナの許可を取らずに独断したエリスに対して、アンナは少なからず心にわだかまりはあったものの、結果的に命が助かったので強くは言えなかったのであるが……。



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