10 帰り
パン屋の雰囲気は良い感じだった。店員達は明るく元気で仲が良さそうに見え、来店客も含めた店内の様子は落ち着いていた。
「なかなか良いお店ね」
「そうですね」
店員に聞かれないようにアンナとエリスは小声で話し、怪しまれないようにパンをいくつか買って店を後にする。あとで実食して味を確認するという目的もあった。
その後は先ほどのエリスとじいやのアドバイスを参考にして、他の求人を出しているお店も見て回っていった。雑貨店やレストラン、食料品店や花屋などいろいろな店があった。
「探せば結構あるものねぇ」
「どこも人手が不足しているということでしょう」
それぞれの職場の確認を終えて、帰り道を歩きながらアンナとエリスが会話を交わす。少し後ろからはじいやがついてきている。
太陽はすでに傾いており、オレンジ色の光を道の途上に照らしていた。周りには夕飯の買い出しや仕事帰りと思われる人々が行き交っている。
思い出したようにアンナが声を出した。
「あ、そういえばイバーを待たせすぎちゃった。心配してないかな?」
後ろにいたじいやが言ってくる。
「それならば、最初にアンジェ様達が着替えている時に連絡しておきました。これから町の入口に戻ることも、少し前に通信魔法で言っておきました」
「…………。やっぱりこの人便利すぎない?」
じいやに振り返っていたアンナが半ば呆れたようにつぶやく。気が利いて仕事が早いのは非常に助かるのは確かではあったが。
「なんか完璧超人って感じ。じいやって何者?」
「私はただの執事でございます」
「うわ、出た、いつもの誤魔化し」
「事実ですので」
「はいはい、そーいうことにしておきましょー」
二人の会話を聞きながら、エリスは、
(……私も執事長のように精進しなければ……)
そう思っていた。アンナに付き合って店を見て回っていたとはいえ、イバーへの連絡をじいやに任せっきりにしていたことを反省しているのだった。
トラルセン王家の専属メイドである以上、仕事をミスなく素早くこなし、王族の助けとなるように気配りも欠かしてはいけない。執事長やメイド長を目指すべき手本として、自分も頑張らなければと思うエリスなのであった。
そんなこんなでアンナ達は町の入口へと到着し、そこで待っていた馬車に乗って屋敷に帰っていく。じいやからすでに話を聞いていたのだろう、御者はアンナが服装を着替えたことにも帰りが遅くなったことにも問いを投げず、黙々と馬車を走らせ続けるのだった。
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