9 パン屋に突撃
店外、ガラス製のショーウィンドウの前でまるで歩哨のように辺りに目を配っていたじいやが、アンナ達が出てきたことに気付いて頭を下げる。
「アンジェ様、どうですか、新しい服は?」
「ばっちり。さすがエリスはセンスも良いわよね」
アンナが指でVの形をするなか、じいやは二人の服を観察する。それからエリスに目を向けると。
「……エリスが気落ちしているように見えますが、何かあったのですか? 何か話されていたようには見えたのですが」
アンナ達が店内にいる間、じいやは店外の様子に警戒しながらも店内にもある程度視線を走らせていた。とはいえ、あくまで危険がないか見ていたに過ぎず、二人の会話などの詳しい部分までは把握はしていなかったのだが。
「へーきへーき。ちょっと気にしすぎてるだけだから。さ、行くわよ」
さっきのことなど全然気にしていないようにアンナが歩き出す。パン屋に着くまでの間、アンナが口を開いて言った。
「それにしても魔法ってほんとに便利よねぇ。衣装魔法に収納魔法に異空間を作る魔法に……私も低級のものなら出来るけど、本格的に覚えてみようかな?」
数えるように指折りながら言った彼女に、じいやが答えた。
「アンジェ様、簡単に言っておられますが、高等魔法を使えるようにするのは大変ですぞ」
「低級魔法と基本は一緒でしょ? 魔法を司る存在と契約して、与えられた位階に相当する魔法が使えるようになるっていう」
「その存在と契約すること、及び高等魔法が使える程に認められるようになるのが難しいのです。それらの存在は皆、変わりも……ごほん、個性的な者達ばかりですから」
「本音が漏れてない?」
「……漏れておりません」
エリスも会話に加わってくる。
「アンジェ様の位階は魔法士でしたよね」
「うん。炎と水の魔法士。一番下の位階ね、いまの私じゃ仕方ないけど。契約出来ただけでもラッキーかも」
そんな話をしている間に、三人はパン屋の前に到着する。魔法に関する話を打ち切るようにアンナが言った。
「ま、そーゆーのは後で考えるとして、それじゃあ今度こそパン屋に突撃するわよ。じいやはさっきと同じく店外に待機ね、他のお客さんを怖がらせちゃうかもしれないし」
「……そのようなことは致しませんが」
「貴方は目つきが怖いのよ。もっと笑顔や優しい目をしなさい」
「…………」
……難しいだろうな……とエリスは思った。彼女の心の声に気付いたのか、じいやがエリスに鋭い視線を向ける。
「いま何か思ったか?」
「いえ何も」
アンナがパン屋の入口扉に手を触れながら。
「行くわよ、エリス。ついてきなさい」
「はい」
そうしてアンナとエリスは店内へと入っていく。じいやは一人店外の壁際に立った。ショーウィンドウに並べられたパンを見ていた子供が、不思議そうなつぶらな瞳をじいやに向けていた。
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