8 着替え
服飾店での買い物はほとんどエリスに任せることになってしまった。いままで王族として暮らしてきたからだろう、アンナはいわゆる庶民の一般的な服のセンスがいまいち分からず、アンナ自身が良いと思ってエリスに見せても、
「もう少し落ち着いた色合いの方がよろしいかと」
や、
「やや高級感がある服ですので、もう少し周囲に溶け込めるようなものにした方がよろしいかと」
など、やんわりとではあるが否定され続けてしまったのである。そのため結局エリスに庶民的な服の選定を任せて、アンナはそれを買ってお店の試着室で早速着替えたのである。
「……どう……?」
「お似合いです、アンジェ様」
エリスが選んでくれた服なので、それ自体は大丈夫だとしても、実際に自分に似合っているかは自信のないアンナであり……そんな彼女にエリスは真面目な顔でうなずきを返した。店の店員もにこやかに、とてもお似合いですよと言ってくれたこともあって、アンナはぱあっと嬉しそうな顔になる。
「そう? 良かった。じゃあ今度はエリスが着替える番ね」
「はい。それでは少しお待ちください」
エリスが試着室のカーテンの向こうに消える。……と、ものの三十秒ほどで再びカーテンが開いてエリスが姿を現した。
短時間で着替えを終わらせた彼女に、アンナのみならず近くにいた店員も目を丸くしてしまった。
「エリス? ちょっと早すぎない?」
「衣装替えの魔法を使いました」
「…………」
衣装魔法とは、身に付けている衣服や装飾品などを変更する魔法である。エリスはそれを使って、買ったばかりの服に即座に着替えたのである。
「衣装魔法とか、便利なもの使えるのねぇ。私もそれで着替えさせてもらえばよかったかな?」
「申し訳ありません……私もいま気付きました……」
「あ、いえっ、エリスを責めたわけじゃないのよっ。魔法ってほんとに便利だなぁってだけでっ」
「…………」
アンナがあたふたとフォローをするが、エリスはずーんと落ち込んでしまった。アンナに気を遣わせてしまったことも含めて、まだまだ自分はメイドとして未熟だなと思ってしまう。
エリスを励ますようにアンナが言う。
「ほら、着替えも終わったことだし、それじゃあさっきのパン屋さんに行くわよ」
「……はい、かしこまりました……」
そうは答えたもののいまだに足取りの重いエリスを見かねて、アンナは彼女の手を取って店の入口へと向かっていく。傍目にはまるで姉妹のような二人に、店員達は微笑みながら、ありがとうございましたと見送るのだった。




