5 自立
アンナが言葉を続ける。
「とにかく私は働きたいのっ。せっかく自由になったのにずっと家にいたら、やっぱり籠の鳥じゃない」
「それは……否定出来ませんが……」
返答を濁してしまうエリスがじいやのほうを見た。じいやは真面目な顔を崩さないままアンナに答える。
「アンジェ様。アンジェ様は正確には働きたいのではなく、屋敷の外に出ていたいのでしょう?」
「そうよ。屋敷の外に出る為に、働く。何か間違ってる?」
「……間違ってはいません。ですが、外に出るだけであれば、散歩や買い物だけで充分でしょう。アンジェ様は働くことの大変さをご理解なさっておりません」
アンナは額に手を当てて息を一つついた。
「じいや、それ、自分で言ってておかしいとは思ってないの?」
「…………」
「仕事が絶対にやりたくないくらいとても大変すぎるものなら、じいやもエリスも私ん家の使用人なんか、とうの昔にやめてるでしょうが」
じいやもエリスも答えなかった。アンナはじいやの気持ちも、エリスの気持ちも分かっていた。
「貴方達が私のことを心配してくれているのはとても理解しているわ。だけどね、心配と過保護は違うの。私はこの国のことや、もっと言えば世界のことを見て、知ってみたいのよ。いままでの私は、ずっとトラルセン王宮やエイバー王宮や、いま住んでる屋敷にいてばっかりだったから」
「「…………」」
……アンナ様は自立しようとしているのだ……。じいやとエリスはそう感じ取っていた。
いままでずっと、それこそ籠のなかの鳥のような生活だったのだ。しかし公には死亡したことになり、ようやく自由を得た。だからこそ、籠を出て世界を見てみたいと。
アンナの決意は固いと理解したじいやが、溜め息を吐きながら首を横に振る。
「……分かりました。元より、使用人である私達は貴女のご意向に背くことは出来ません。貴女の意志と決断を尊重致します」
「やった。さっすがじいや、話が分かるぅ」
アンナが嬉しそうな声を出す。エリスがなにか言いたげにじいやを見たが、じいやは真面目な目で見返して。
「エリス、お前の言いたいことは分かっている。だがいまはあの方の意向を尊重するのだ」
「…………」
エリスは無言で返答した。じいやが再びアンナを見て、子供のような笑顔をしている彼女に付け足して言う。
「しかしアンジェ様、一つ条件がございます」
「げぇっ、何よ、条件って? どーせ面倒なことなんでしょ?」
「ごほん、アンジェ様、あまり美しくない言葉や表現は感心しませんな。特に美しいお顔を玩具のブロックのように崩されるようなことは」
王族としての自覚を持ち、顔芸のようなリアクションはしないようにと言いたいらしい。
「はいはい分かったから。で、条件って何なのよ? さっさと言いなさいよ」
「至極簡単なことでございます。ここにいるエリスも、アンジェ様の職場で共に働くことです」
「えっ?」
アンナがびっくりしたようにエリスを見て、エリスも目を少し見開いてじいやを見た。じいやが続ける。
「それが条件です。アンジェ様にとっては一緒に働き始める知り合いがいた方が良いでしょうし、私達としては護衛の役割を果たすことになります」
「…………」
アンナは口を小さく開けていたが、やがて嬉しそうに言った。
「めずらし、じいやにしては良い提案じゃない」
「私はいつもアンジェ様のことを考え」
「エリスっ、これから一緒に働きましょうねっ。それじゃあ善は急げっていうし、クルージングが終わったら早速募集してるとこを探しましょっ」
じいやの言うことを途中で遮って、アンナは嬉しそうにエリスの手を取るのだった。
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