3 クルージング
そうして馬車が町の入口に到着し、アンナが小窓越しに御者に言う。
「ここで降ろしてちょうだい。セアの町を見て回りたいから」
さっきまでの話は小窓越しに御者にも聞こえていたのだろう、馬車が町の入口で停車する。御者が開けるドアを潜って外に出ると、アンナはうーんと伸びをした。
「良い空気ねぇ。海が近いから潮の香りもする」
「お気に召したようで何よりです」
続いて降り立ったエリスがアンナへと相槌を打っていた。二人がとりとめもない会話をしているなか、御者がじいやに目を向けて、じいやが小さくうなずく。
「分かっておる。今日は私がこの身に代えてもアンナ様を護衛する。お前は何かあった場合に備えて、ここで待機だ。すぐに町から離れられるようにな」
御者もこくりとうなずきを返した。
じいやと御者のそんなやりとりは聞こえていなかったのだろう、アンナは振り返ると元気よく言った。
「さあ行くわよじいや、今日は思う存分楽しむんだから! イバーも私達が戻ってくるまでは自由時間でいいからね」
イバーとは御者の名前である。中年の御者はうなずくと、町なかへと歩き始める三人に手を振りながら、その背中を見送っていた。
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それから、アンナ達三人は買い物がてら、その港町を見て回っていった。レストランに入り、旬の海産物を使用した料理を食べて舌鼓を打ったり、港の近くで開いていた魚市場で自分達の背丈ほどもある海の生き物を見て驚いたり……主に驚嘆したり感動したりしていたのはアンナではあったが。
無論、港町を観光している最中のアンナは変装魔法によって顔を変えていた。声までは変えていなかったが、すでに死んだ王女が生きているなどとは誰も思わないため、王女としてのアンナの声を聞いたことのある者がいたとしても、よく似た声の女性だなとしか思わなかっただろう。
そうして魚市場を出たアンナ達は、今度は近くの港にあった客船で運航されていたクルージングに参加した。乗ってみたいとお願いするアンナに、じいやが渋々承諾したのである。
クルージングとはいっても、近くの沖を一時間ほど巡航したのちに港に戻るという程度の、小規模の観光航海だった。それでもアンナにとっては珍しい体験であり、たった一時間のクルージングだとしても、とても楽しさに満ちたものだった。
「輝く太陽、広大な大海原、涼しくて気持ちの良い潮風……たとえ一時間のクルージングだとしても、乗って良かったわねぇ」
小型客船の手すりに手を置いて、青々とした海を眺めながらアンナが声をこぼす。他にも数組の観光客が同乗していて、各々が楽しげに海を眺めて笑顔を浮かべていた。




