2 セアの港町
「んで? なんでじいやもいるの?」
近くの町へと向かう馬車のなか、アンナは対面に座る白髪の執事にじと目を向けていた。アンナの隣にはエリスが座っている。
「アンナ様がお出掛けなさると聞きましたので、荷物持ちとして同行致しました。おそらく本だけの買い物では済まないでしょうから」
「それはそうかもだけど……どうせ護衛も兼ねて、でしょ?」
「無論です。いいですかアンナ様、町には危険がいっぱいなのですぞ」
身を乗り出しながら白髪の執事が言う。迫力満点の表情だったが、アンナはうへーという顔を浮かべながら答えた。
「はいはい分かってる分かってる、ったく、じいやはいつも心配性なんだから」
「予防しておくに越したことはございません」
「はいはい」
じいやは私が子供の頃からそうだったとアンナは思っていた。ベアトリスの一件があってからは、なおいっそうアンナを心配するようになっていた。
(まぁ、守ってくれるのはありがたいんだけどねぇ……)
初老であり、すでに全盛期は過ぎているとはいえ、じいやの実力はアンナも信用していた。両親や昔のじいやを知っている者の話では、たった一人で魔物の群れを殲滅したこともあるとかないとか。
しかし、だとしても……。
(やっぱり、これからは外出もたくさんしていきたいし、その度にじいやがついてくるのはねぇ……)
もう子供じゃないんだからと思ってしまう。自由に外出するためには、そのじいやはもちろんのこと、エリスや他の使用人達のこともなんとかして説得しなくちゃと考えるアンナだった。
アンナがそんなことを思案しているうちに、隣に座るエリスが窓を見ながら口を開いた。
「町が見えてきました」
アンナもそちらを見やる。海沿いに面した中規模の町であり、港にはいくつもの漁船があり、なかには小さいながらも客船もあった。観光客向けの客船なのだろう。
「へぇー、思っていたよりは大きな町ねぇ」
「セアの港町です。海の幸を使用した料理や、クルージングなどが人気の観光地でもあります」
エリスの説明に、アンナは知らず知らずわくわくしてくる。
「ねえ、せっかくだから料理やクルージングも楽しみましょうよ。買い物だけじゃなくて」
「ですが……」
エリスがちらとじいやを見る。じいやは無愛想な顔をしていた。じいやが言う。
「アンナ様。アンナ様は確かに表向きは鬼籍に入っておられますが、それでも王族としての自覚を」
「はいはい、じいやの言いたいことは分かってるから。でも、だからこそ、今日ぐらい楽しみたいのよ。せっかく久しぶりの外出なんだから」
「…………、やれやれ……」
じいやは諦めたようにかぶりを振る。アンナが嬉しそうな声を出した。
「やった! じゃあ、お買い物にお料理に観光に……いろいろ楽しむわよ!」




