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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
機械の都、そして凍った町。
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寒い緑に湯気の街

――隣で騒いでいる人のことは、置いておこう。


カルデラを越えると、これまでとは明らかに異質な、濃い緑の広がりが見えた。


そして、茶褐色の大河。流路は幾重もの螺旋を描くように、複雑な網目をなしていた。


それらをひっくるめると、川幅は数百メートルを越えそうだ。


大河の周りやその流路の間に、濃い緑が集中する。


ところどころ合流し、太くなって、濃い緑の島のように見えた。


その外側では、そっと極細のエアブラシで描いたように、夏の石炭紀版ツンドラを染めていた。

不思議なことに、細かい線を描いたように。方向には規則性すら感じられる。


――森だ。現代で言うところの、タイガに相当するものだろうか。


森とは言っても密度は低く、地面はところどころ見えるくらいなのだが。


現代ならカラマツや、もう少し暖かい場所ならハンノキ類やヤナギ類といったところだろう。

しかし石炭紀となると、もう何が生えているのやら見当もつかなかった。



――というのは大ウソだ。



化石は、当時の植生を如実に教えてくれる。


当時の極地植生や、間氷期の植生に至るまで。


植物の胞子や花粉がもつスポロポレニンは、最強の生体分子である。


化学的にも、生物的にもほとんど分解されず、熱にまで強い。

だから元の植物の姿がわからずとも、足元の土には何万年もの期間の胞子や花粉が残っている。

そして、三億年前の胞子や花粉もまた、その例外ではなく、そこに何が生えていたのか忠実に教えてくれるのだ。


その記録によれば、この地帯はこの頃、おおまかにいえばツンドラ地帯に近い気候でったようであり、氷期にはコケ植物と、異型胞子性の小葉植物が優占していたはずだ。そして、間氷期にはコルダイテス類やシダ種子植物が勢力を伸ばし森林になったようである。


さて、目下を見てみれば小規模な森が広がっており、氷期植生の中にポツンと取り残された、間氷期植生の"島"となっていた。


地熱の影響が強く、フェーン現象で風が暖められつつも温泉で加湿され、海の影響もまた強いこの地域は、氷期にある現在でありながらも、間氷期に近い植生の避難所になっているのだろう。


そう思うと、胸が高まって仕方がなかった。


化石記録をもとに、どの緑色がどの種に相当するのかを、全力で演算し続けていた。


Nothorhacopterisをはじめとしたオーストロカリックス科か、Noegelathiopsisなどのコルダイテス類、あるいは少し時代的に早いかもしれないが、Paranocladusのような原始的な針葉樹類か…。


現代の針葉樹林とは、一切関係がないはずだ。


機能・構造的類似物、それだけ。


なにせ古生代後期に発達した永久凍土地帯はこの後溶け、中生代という温室時代のせいで、ツンドラや永久凍土に生える極地植生には1億年近いブランクが生じるのだから。


そんな川と緑のほとりに、その村はあった。

遠くからでも、よく目立つ。

なにせ、のろしのように真っ白な湯気が、常に吹き上がっているからだ。

その白い靄の隙間に、滑走路と、建物が、規則正しい格子を描くのが、くっきりと見えた。


どっ、という揺れが、腹の底を揺らす。


蒸気のたてる上昇気流によってだろうか、機体はわずかだが、たしかに踊った。

ここは、この凍てつく大地において数少ない、年中凍らない場所なのだろう。


数方向から伸びた鉄道と温泉パイプラインの結節点となり、鉱石らしきものを満載した貨車がいくつか、鉄道の脇に置かれ、作業する人々の姿が、点のように映った。


上から見ると、おもしろいことに、植生はドーナツのように分布している。


村を取り囲むように低い植生があり、その外側に樹林があるのだ。温泉は木々にとっては熱すぎるか、成長を妨げる物質を含むのかもしれない。


村が迫ってくる。

目下に見える建物は白く、ひどく簡素な構造であって、ちょうど白いユニットがいくつも積み重ねられ、積み木のようにつなげられて作られたようである。


窓は異様に小さく、この冬は極寒になるであろう土地において、冬場の低温をしのぐためであろうことは容易に想像がついた。


そして、その計画性をもって並べられた、しかし人のぬくもりをまるで感じない、寒々とした建物たちの間には、洗濯物がひらひらと揺れ、建物の隅という隅に作られた四角い水たまりや、街に張り巡らされた水路からは、もくもくと温泉の湯気が上がっていた。


あの過剰なまでの水路配置には、周囲の気温ごと上げる目的もあるのかもしれない。


人工的なものだけでなく、街の周囲やその中にも、夥しい数の自然の水たまりができていて、その多くからもまた、コーヒーくらいには湯気が立っていた。


そして、大河に面して、不釣り合いなほど大きな港が作られている。

 

短い夏は、輸送ラッシュなのだろう。ボールのような天然ガスタンクがコロコロと、次の船を待っていた。

湯気の隙間からは、ちっぽけな作業員が、はぐれたアリのように港を動いているのが見えた。


それを越えると、滑走路が迫ってくる。


――あれだ、シベリアの極地のもと軍用空港に、よく似ている。


タイルのようなものが敷き詰められた滑走路は、素人目にも荒れ始めていた。


そしてヘリコプターは、どすり、という振動とともに、着地した。


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