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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
機械の都、そして凍った町。
95/229

―描写を支える科学的背景― 飛び込み脱線解説:グロッソプテリス類について、語ります!

本作には登場しない植物である。

なにせ、グロッソプテリス類が来てしまうと、今作で描きたい石炭紀ならではの世界が終わってしまうからだ。

石炭紀末期からペルム紀前期にかけて、ゴンドワナの植生は激変する。

ゴンドワナ亜寒帯~温帯域の植生をグロッソプテリス類がほとんど独占し、ほかのグループは殆どがその下層植生に押しやられる。その多様性は石炭紀の低木や草本中心のものに比べると、どうも見劣りするように私には思えてならない。

そして、グロッソプテリス類も地球史上において石炭生成に最も貢献した植物グループのひとつであり、石炭を語るにおいてグロッソプテリス類を避けて通ることはできまい。というかペルム紀のグロッソプテリス類による石炭形成が現在の石炭産出の2割をも占める。ついでに言えば世界の石炭産出量の残りには新生代の水生針葉樹、おもにスイショウ、ヌマスギ、メタセコイアが重要な地位を占めてくる。(具体的な寄与割合を述べた文献は見つけられなかった。)

上記から、やはり石炭は石炭紀にのみ堆積したというような、一般の言説が大きく間違っていることがはっきり見えてくる。

さて、ついつい石炭の話になってしまった!

グロッソプテリス類にもどろう。

グロッソプテリス類といえば、地学の教科書や生物の教科書で目にすることも多く、地学基礎や中学理科にすら出現しうる。そこでの扱いとしては、ゴンドワナ大陸がつながっていた証拠としての説明か、もしくは被子植物の起源について触れる文脈で扱われがちである(後者に関しては現在あまり見かけないが。)グロッソプテリス類がウェゲナーによる大陸移動説の発展に果たした役割は大きいのだが、ゴンドワナという概念をグロッソプテリス類をはじめとして発見したのはエデュアルド・ジュースであることに関してはここで一言書いておいてよいように思う。さて、グロッソプテリス類はシダ種子植物の一員としてもっとも有名な植物であるが、それがどんな植物であったかについては(小難しくてとてもとっつきにくい生殖器官の話をのぞいて)あまり扱われることがないように思う。

今回は脱線解説編として、その見た目がまったくもってシダ的ではない、グロッソプテリス類についてある程度稿を割こうと思う。

●分布

グロッソプテリス類は石炭紀末期にゴンドワナの氷床付近で出現したが、ペルム紀中期から後期にかけては分布を拡大し、カタイシア植物群にも一部で出現することとなった。そして、P-T境界で絶滅した、と考えられている(実はMexiglpssaなど三畳紀~ジュラ紀にも生き残っていたという話はいくつかあるが、一般論として)


本編には出てこないからこそ、ここで話しておく価値があるように思う。

まず、古植物において、各々のパーツはそれぞれ別の名前で呼ばれる。

生殖器官に関しては、既に日本語記述がたくさんあるうえに、書き始めるといわれている以上に多様かつ解釈が複雑なので、ここで敢えて書く必要はないし、書いたとしても本題をさらに逸脱していくだろう。

なので、ほかのパーツについてまとめていこう。

まず、葉について。

グロッソプテリス類の歯は、被子植物の葉にとても良く似ている。

大きさとしてもサイズとしてもよく似ているなぁ、と見るたび思うのが、マテバシイの葉だ。ああいうものをざっくりと想像してもらえばよい。葉が分厚いのも似た雰囲気を感じるが、マテバシイが何年も葉を保持するのに対してグロッソプテリス類は落葉性なのでそこは全く参照にならない。また、グロッソプテリス類は湿地性の傾向が強いので、木としての性質としてはハンノキが近い。

さて、葉にもどろう。

グロッソプテリス、というのは、グロッソプテリス類の一部にみられる、ある形質の葉のことであり、ブロンニャールが1828年に命名したものである。葉の性質としては披針形から舌状で全縁、複数の脈からなる中肋と単純で階層性のなく細長い網目状の葉脈からなることが特徴とされる。葉の長さはG. brownianaなどでは30㎝を越える。気孔はハプロケイリック型で裏面にしかない。どうやら100種前後が記載されているにもかかわらず、その分類的整理はなかなかつくめどを見ない(Taylor & Taylor, 2008)。

さてグロッソプテリスのそっくりさんとして、ガンガモプテリスGangamopterisがある。ガンガモプテリスはグロッソプテリスよりもやや早く、石炭紀最末期には出現している。中肋の発達が弱く網目状の葉脈がより均一であることにより区別される。他に基部が矢じり型のBelemnopterisや、側脈が合流して網目状をなさないRhabdotaeniaなどがある。

次に、枝について。

葉の付き方についてはよくわかっていないが、G. maculataやG. recurvaで知られているものでは、密な(10輪生程度の)輪生、ほかのものでは密な互生であったらしい。落葉性の性質が知られており、これはグロッソプテリス類の寒地性の性質からしても妥当である。

幹について。

グロッソプテリス類の幹は針葉樹のものに似た、仮道管が大部分を占める構造をとっている。(Pycnoxylic。シダ種子植物というと放射組織や柔組織の覆いManoxylic型であるという印象があるが、グロッソプテリスの幹はPycnoxylicであるということ。)

幹はアガトキシロン型で、ナンヨウスギ類の材に最も似ている。はっきりとした年輪を持ち、年輪の幅は1㎝にもなる。季節差が大きい高緯度地帯に生育し、急激に成長したことがわかる。

根について。

グロッソプテリス類の最も特徴的で美しい部分は、根だと思う。

グロッソプテリス類の根は、バーテブラリアVertebrariaという。

名前の通り脊椎を彷彿とさせる、極めて特徴的な根だ。

細い円柱状の原生木部(最初にできる維管束)があり、断面では4~8本の放射状に突き出す“腕”を持っているように見える。その“腕”の周囲に年輪を伴いながら二次木部が発達するので、根の断面はまるで星みたいに見える!非常に美しく印象的だ。

この根組織は、側根を含む円盤状のプラットフォームというによって仕切られている。つまり=||=||=||=…と、こんな感じになる。これは極めて特徴的な根で、木部の周囲(つまり“腕”ないし“星”の間)はきわめて疎な通気組織になっており、湿った貧酸素の湿地土壌(おそらく、しばしば溶けた永久凍土)に適応していた。

生態について

グロッソプテリス類は現在の被子植物に匹敵するほどの繁栄をもって、4000万年にわたってゴンドワナ大陸の温帯から亜寒帯を支配し続けていた。

その出現と拡大は非常にドラマチックなほどで、石炭紀末期グゼリアンに南米でガンガモプテリスが出現すると、ペルム紀最初期のアッセリアンには既に優占種になってしまう。そして温暖な地域にも分布を拡大していき、いっぽうで氷河の後退によって生じたあらゆる堆積盆地の広大な低地を支配した。場合によっては、産出する植物の8割にも達する。

その通気組織が発達した根からもわかるように、亜寒帯から温帯の湿地に生育した植物であり、現在のハンノキ類がその生態の現在における類例だろう。

花粉が現在の針葉樹と似た大きな気嚢を持つことからして、風媒であった。雄生殖器と雌生殖器は別々の葉にあるが、雌雄異株であった可能性もある。種子にも翼をもつことから、おそらくタネもまた、風で運ばれていたのだろう。

動物相はおそらくそれほど多様でなく、骨化石はあまり共産していない。

昆虫に摂食された葉が多く残ることからして、昆虫や菌類ベースの生態系があったと考えられている。

もちろん、寒冷地の石炭蓄積に関与した。ペルム紀前期になると(寒冷化のピークに達したというしばしば語られるストーリーとは逆に)ゴンドワナに大規模な炭田が出現し、その主要な構成員がグロッソプテリス類である。そもそもゴンドワナ氷床のピークは石炭紀にあると考える説もあるしそのほうが地質的に妥当な面すらあるのだが、ここに関してはあまり突っ込まないでおく。

さて、石炭紀中期になるといよいよゴンドワナ氷床が溶け、巨大な湿地が形成されると、そこにいち早く進出したのはやはりグロッソプテリス類だった。カル―盆地の炭田などはそうしたよい例だろう。グロッソプテリス類が主に産出したペルム紀ゴンドワナ低地の石炭はなんと、現在商業採掘されている石炭の2割をも占める。

しかしもちろん、グロッソプテリス類の生育環境は泥炭蓄積環境にかぎらず、さまざまな基質から知られている。

ここで、グロッソプテリス類の優占する森林がどのような植生だったのか見ていこう。

石炭紀前期におけるグロッソプテリス類の森林は、樹冠を形成するグロッソプテリス類の下に“シダ状の“種子植物やシダ植物、小型針葉樹が低木層として生育し、草本性ヒカゲノカズラ類もみられた。この構造は石炭紀後期の赤道域に見られたような、きわめて開放的なリンボク類の森とは全く異なる。いっぽうで地下水位の高い地域などでは、少なくとも石炭紀中期まで、特殊な木本性小葉植物であるブラジロデンドロンBrasilodendronや、リコポディオプシスLycopodiopsis (Cyclodendronと呼ばれることもある)もみられていた。これらはリンボク類とはおそらく似て非なる植物なのかもしれないが、後々にみっちり取り上げたいところである。

石炭紀中期から後期のグロッソプテリス類の森林に関しては保存の良い産地が少なく、グロッソプテリス類が優占しコルダイテス類がそれに続いたこと、その間に小葉植物やトクサ類、シダ植物が生育していたこと以外はよくわかっていない。

ペルム紀後期になると温暖化の影響で針葉樹類やシダ植物、シダ種子植物、ソテツ様の植物群などが優占してくる。

ペルム紀末の極度な温暖化は、それ自体が大量絶滅を起こす要因であったとも考えられる。この極度な温暖化は、寒冷な温帯~亜寒帯落葉樹林として発展してきたグロッソプテリス類を抹消するのに十分であった。

グロッソプテリス類が滅んだ後、500万年間は石炭が全く存在しない。

これは、石炭堆積が3億5000万年前に始まってから、地球史上唯一の空白である。


出典

今回の記述はごくシンプルに、以下の2文献をもととした。

ともにとても良い本なので、ぜひ買おう…ぜひ買うのだ…

Martinetto, E., Tschopp, E., & Gastaldo, R. A. (Eds.). (2020). Nature through Time: Virtual field trips through the Nature of the past. Springer Nature.

Taylor, E. L., Taylor, T. N., & Krings, M. (2009). Paleobotany: the biology and evolution of fossil plants. Academic press.


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