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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
機械の都、そして凍った町。
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プロピンキュイティ

駐機場の隅にとまる、一機のヘリコプター。

「ついでだから、ちょっと周遊しましょ。」

そう言って、リリィは軽やかにコクピットに乗り込んだ。

あの身のこなし。体にぴったりの茶色いパイロットスーツ姿。

ようやく彼女は本当にパイロットなのだという、実感が湧いた。

それまでは、正直ずっと「えらく頭がキレて、めずらしく話が通じる人」という認識が強すぎた。話が通じる人に飢えてきたから、あまりにも嬉しかったのだ。

――そう、腹を割って話しできる人は教授クラスか、アリアくらいだったからだ。

正直、底知れないものを感じていた。話せば話すほど、もっと話し込みたくなった。

しかし、そういう好感を取り払ってみると、「アリアの友人で、この旅のガイド」という認識をついついしてしまっていた。

むしろ、認めたくなかったのかもしれない。

――私は、知っているだけ。飛行機の操縦なんて、逆立ちしたってできないから。


ちょっとした、嫉妬心か。

コクピットに除くヘルメット姿は、ちょっとうらやましかった。


リリィの声がインカム越しに響く。

「上空はもっと寒いわよ~!座席に防寒着と毛布があるから、使ってね!」


私は、防寒着に手を伸ばす。厚手で、羽織るとふわりと温かさがにじんだけれど、ぼかぼかだ。袖が長すぎて、手がすっぽり隠れてしまう。


いっぽうでアリアを見れば――今度は袖も裾も、足りていない。

臍のあたりが少し足りていなくて、なんというか、そういうファッションに見えた。

――サイズがあってないだけなのに。


「じゃ、先に入るね」

そういうとアリアはその長身を、狭いキャビンにねじ込む。

そして端っこにぎゅうぎゅうに詰めて、私が乗るのをじっと待っていた。

キャビンは、2席。

大人2人が並ぶには、ちょっと厳しい幅だった。

人工皮革の座席は少しひび割れていて、冷たかった。

乗り込むと、キャビンのドアが、ゆっくりと締まる。

すると、アリアはふっと息をついて、少し縮こまっていた体をようやくもとに戻した。

――あぁ、キャビンのドアに挟まれないように、あけてくれてたんだな。

そう思ったときだった。

アリアはふっと、こちらに身を乗り出してきた。

その大きな肩と背中に、ふっとそこからじんわりとにじむ、体温を感じた。

そして甘く、上品な香りが、ふわりと鼻腔にこだました。そういう体質なのか、柔軟剤だろうか。ほんの控えめで、さりげないけど、心地よかった。

「ちょっと貸して」

そう言って、彼女は私のシートベルトを手に取って、腰に回し、カチッと留めた。

そのとき、指先がふれた。

「…自分でできるよ」

思わずそう言うと、

アリアは私を見て、少し笑った。

「でも、2人きりの旅って、初めてでしょ?」

そう言って、毛布をそっと私の膝にかけた。

毛布をかけたあとも、アリアの腕は私の膝に触れたままだった。

毛布の断熱効果以上に、ポカポカした気がした。

彼女はそのまま片腕をシートに突いたまま、私の顔――いや、もしかしたらその先――を見つめていた。

私は、そっと見上げた。

……近すぎる。

彼女の視線が、まっすぐこちらを捉えていることに気づく。まったく動かない。

逸らしたのは、私のほうだった。

「ありがと」

そう呟いて、私はやたらと窓の外が気になるふりをした。

――はるばるこんなところまで来たのだ、そんなことを気にしている場合ではない。

でも、狭い機内に2人並んで密着するのは、ちょっと――気まずかった。

小型ヘリの狭いキャビンは、どこか、馬車に似たものがあると思う。

プライベートで、どこか、優雅だ。

今まで全然、そういうことを気にしたことはなかった。

けれどどうしても、なんというか…お互いを、意識してしまう。

…なんでこんなに緊張してるんだ、大学時代からもう何年も、友達どうしじゃないか。

気まずい空気を打ち破ったのは、インカムからのリリィの声だった。

「そろそろ、いいかしら?」

キュイーン――というエンジンの高音。

ローターがゆっくりと回り出す。

地面がぐらりと揺れて、体がほんの少し押しつけられるような感覚。

そして、ふわりと――浮いた。

「20分くらい寄り道するわ」

そういうと、ヘリは高々と舞い上がる。

空港は小さくなり、目下を流れる景色が、スピードアップした。


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