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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
対火災決戦都市―大気と戦え―
83/227

火災スクランブル


けたたましいサイレン。

<火災スクランブル、火災スクランブル 全滑走路を緊急封鎖>

それは、突然だった。

空港全体に、赤灯が回り、アラートが空気を裂く。

警報音は、歯の奥に響くような不快な周波数だった。


フライトデッキの人々は――まるで平然としている。

展望デッキの観光客も、家族連れも。


どこかで子供が叫ぶ。「すごい! 出撃初めて見た!」

なのに親は止めもせず、カメラを構えて撮影を始めた。

――みんなだ。フライトデッキはあっという間に、カメラを構えた人だかり。

みんなカメラ越しに滑走路を覗く。

まるで、お祭りのようだった。


ただ、スタッフだけは、本気で焦っていた。

無線機をがなりながら、右へ左へと駆けずり回っている。


私は窓のそばに立ち尽くし、手すりを握りしめた。


そのとき――

滑走路の向こうから、3機の機影が陽炎を裂いて現れた。


速い。鋭い。獰猛なシルエット。

けばけばしく白と赤に塗られてはいるものの、その鋭くとがったノーズといい、大きなLERXといい、巨大なダイバータレスインテークとジェットエンジンといい、後退角のついた翼に吊られたターゲティング・ポッド。

――どう見ても、あれは、戦闘機じゃないか。


そしてその翼下には、不釣り合いなほど大きな物体が

――増槽ではない、シーカーがちゃんとついた、爆弾だ。

「…あれ、実弾?」

そう尋ねると、


「衝撃波弾頭よ!」隣のリリィが答える。

頬を膨らませて、「ふーっ」と吹くマネをしながら。

「山火事が起こった時に吹き消すのよ、あれで。地球じゃ誕生日には、ロウソクをフ――って、消すらしいじゃない?」

――それにしても、とんでもないスケールの“フー”だ。

「この星じゃ信じられない蛮行ね。誕生日のたびにユニットが一個沈むわ!」

笑うべきか困惑すべきか、判断に迷っていると、

「酸素を一気に燃やし尽くして減圧させて、火を消すの。そこまでしないと消えないのよ。初期火災なら、だけどね。石炭紀の酸素濃度だと、水かけたぐらいじゃビクともしないわ」


――つくづくこの星の常識にはついていけないものがある。


けれど、辺りを見渡しても煙すら見えない。

「で、どこが燃えてるの?」


「さあね」


そう口を挟んできたのはアリアだった。


「遥か彼方の火災でも、放っておけば何百キロも広がって手がつけられない。だから!赤外線衛星で常時監視して、初期の炎を発見したら、即・超音速戦闘爆撃機で爆撃鎮火! 火星の軍事技術の応用よ」


「やけに詳しいね」


「Of course!白亜紀でもこうよ、BLAM!」


そう言って、彼女は腰に手を当てて、ふんぞり返った。


――火星出身だから、ってわけじゃないんだ。

「新しいシステム?」

「ここ、10年くらい? 火事の恐ろしさを思い知ったのよ、人類は」


――馬鹿げてると思うかもしれない。

しかし、後で調べたことには、まだ原油が世界を動かしていた20世紀には、油井火災に対して時折行われてきた方法であるらしい。

ただ、こんなに日常化する日が来るとは、誰が思っていただろうか。


砂漠地帯のカッとした陽が、滑走路を急激に熱していた。

機体が、濛々と立ち上る陽炎に揺らめく。

頬を窓に着けると、徐々に回転数を上げていくエンジンの鼓動が、硝子窓をビリビリと伝わってくる。

爆音は鋭く高くなり、鼓動のような振動が頭の中を打ち付ける。

打ち付けるエンジンの拍動は頭を連続ビートするようで、興奮で瞳孔が散大し、世の中が明るくなった。



離陸――そして、仰ぎ見る。


戦闘爆撃機はキラリとその背を光らせる。

機体を跳ね起こして、ロケットのようなハイレート・クライム。


轟音とともにソニックブームを残し、機体は果てしない青空へ吸い込まれていった。


残ったのは、3本の白い航跡雲だけ。


そして――静寂。


数分後、ゲートの画面が点滅した。

私たちの乗る輸送機が、ようやく滑走路に姿を現した。


鈍重で古めかしい、プロペラ機だった。

まるで、20世紀の映画から抜け出してきたような、葉巻型のボディに、硬く直線的な翼、そして、プロペラ。

翼の付け根には、大きな増槽が積まれていた。

ロングフライトに、耐えるための。

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