フライトデッキの旅人たち
一歩空港に踏み入れると、やはりこれは軍艦だという印象を、より一層強くした。
内装は真っ白に統一されていて、桟橋から滑走路に向けて、ひたすら階段を上る、上る。一歩ゆくたび、低くきしむ、金属音。
スーツケースを持った観光客など、最初から全く考慮されていない造りだった。
そして、上がってからもう一度手荷物検査があった。
今度は手作業ではなく、スキャン方式だ。
もう流石に、何も指摘されなかった。
――そもそもあの桟橋での手荷物検査が、正式なものだったのか、海警隊が勝手にやっているものだったのかは、いまいちよくわからない。
目の前に、滑走路がぱっと開けた。
――もちろん、ガラス越しに、である。
滑走路を一望するフライトデッキに足を踏み入れると、すでに百人ほどの先客が、方々に向かう便の到来を待っていた。
ときおり、くぐもった声の出発案内が響き渡る。
滑走路には――双発のプロペラ旅客機が2機ほど、駐機していた。
滑走路の隅では、衝突防止灯がチカチカと光っている。
「思ったより多い。だってこの星、総人口でも5万人でしょ?」
と聞くと、
リリィは「そりゃ、軌道祭の帰りよ!」と、胸を張る。
確かに人々はどこか浮かれていて、この肌寒いのにタンクトップで、真っ赤に焼けた肌を誇示しているように見えるものもまた、多かった。
まだレースの熱気が冷めやらない人々も、また多い。
「イリノイのやつ、あの勝ち方はなかったよな」
「俺はパラー海警に賭けてたんだけどなぁ」
「おめー、一番勝ちそうな安全杯にかけても面白くもなんともないだろ、賭けってのはなぁ…。祭りなんだぜ?」
「俺にとっちゃあ勝負より賭けよ、負けたらどうにもなんねえもん」
あの熱狂からあけて、壁に寄りかかったり、靴を脱いで床に座り込むものも。子供は眠りこけて、隣に座って、やはりうとうとしている母親に、頭を預けていた。
彼らにとっては、祭りと旅の終わりである。
しかし、私たちにとっては――これが、始まりの一歩なのだ。
「次に行くのって、どんなところ?」
「私の故郷よ。一言でいえば、氷と温泉と緑の街ね!」
「あれ、行先案内だとコンゲラードってあったけど」
「あぁあれね!みんなそう呼ぶのよ。凍ってるから」
「凍った街…」
「温泉に入ってれば、あったかいわ!着いたらみんなで入りましょ?いい湯なのは、保証する!」
リリィは胸を張った。ちょっとグラマラスな胸元が、少し揺れる。
私は少し恥ずかしくなった――人に裸を見られるのは、あまり好きではないのだ。
――ちんちくりんだから。子供と間違われるならまだいいが、性別まで間違われる。
「ま、まぁ、温泉はいいよね。変な微生物もサンプリングできるし。方角としては、アンデスあたり?」
アリアが、がしっと私の肩をひっとらえて、話に乗り込んだ。
「そう、だいたいアンデスのほう!あと、人の目は心配ないわ?鉢合わせしたことなんかないもんね、リリィ?」
「えぇ、いつも独り占めよ…残念なことに。お客がいないのよね。」
「ならよかった、安心」とこぼしてしまい、何か悪いことを言ってしまったな、と反省。
「温泉だけじゃないのよ、地熱発電もあるし燃料資源も鉱産資源もある!海も豊かなのよ。工業に関してはこの星でも有数ね。分散されてるし自動化されてて、人はぜんっぜんいないけど!」
「どんな資源?」
「鉄鉱石、マンガン、鉛、亜鉛、金。あとは天然ガスってとこね!ほかにもあるはずよ」
「ボリビアっていうと、ポトシ銀山の銀は・・・?」
するとリリィはきょとんとして、
「…銀は、聞いたことないわね」
といった。
温泉、ってことはファラロンプレートの沈み込みが関係しているはず、現代でもその破片のナスカプレートが沈みこんでいるから――と話をもっていきそうになって、やめた。
*ポトシ銀山は新生代です(でも熱水活動あるしもしかしたらいけるかも????)




