―描写を支える科学的背景― 解説と復元メモ 四放サンゴについて
四放サンゴ(四射サンゴとも)は床板サンゴとともに、古生代を代表するサンゴである。オルドビス紀に出現してからペルム紀末に絶滅するまで、さまざまな環境に適応した。床板サンゴよりも長命であり、とくに石炭紀およびペルム紀には最も一般的なサンゴ類であった。
しかしながら、一般にイメージされる「サンゴ」(サンゴ礁を形成するような現在の造礁性サンゴ)とはやや異なった生き物である。
そのため、ここでは改めて、ごく入門的な解説をしておきたい。
まず、四放サンゴは古生代の礁を構成する主要な生物では必ずしもなかった。
古生代の礁は腕足動物やフズリナ類や海綿類(とくに層孔虫)、石灰藻類、ウミユリ類などが主役となり、その間に四放サンゴや床板サンゴが群落が混じることが多かった。デボン紀には床板サンゴのサンゴ礁が発達する時期もあったが、石炭紀の時点では床板サンゴは激減していた。石炭紀において、サンゴといえば基本的に四放サンゴ、時々床板サンゴといったところである。
四放サンゴは現在サンゴ礁を作っている六放サンゴの直径の祖先ではないとも考えられており、四放サンゴが絶滅したペルム紀末から、六放サンゴが出現する三畳紀の間にはギャップがある。さらに、骨格も方解石を主としていたらしく、アラゴナイトからなる現在のサンゴ類とは異なる。なお、これは海中のマグネシウム・カルシウム比の変化に関連するという説もある。これらのことから、四放サンゴから現在の六放サンゴが直接進化したわけではどうもなさそうであると考えられている。
四放サンゴは単体性(個虫が単独で成長する)のものが多く、そうした種では外骨格は逆円錐状で、先端に向けて急激に太くなっていく。明瞭な固着部はないことが多い。角笛のように泥底に突き刺さって成長していたと考えられており、Horn Coralとも呼ばれる。泥底に突き刺さるように育っていたらしく、横倒しになってから向きを変えて成長を続けたケースも多く知られている。個虫の大きさはしばしば直径数センチにも達したことを鑑みれば、現在イメージされるサンゴというより、どちらかというと硬い殻をもったイソギンチャクといったほうが、イメージはつかみやすいだろう。
単体型の四放サンゴは潮下帯の波の影響を受けない環境で見られるものが多い。これは産状からも、また安定性に欠く形態からも裏付けられる。そのことから、現代のサンゴ類のように共生藻類に強く依存していたかどうかにはやや疑問がある。個虫がイソギンチャクのように捕食したり、水中の懸濁物を摂取していたと思われる。
勿論、四放サンゴにも現在の造礁サンゴの大部分を占める六放サンゴに似たような、ぎっちりと詰まった群体を形成するものもある。(少数派ではあるが。)また、出芽を続けて群体となり、筒状の四放サンゴの集塊としてサンゴ礁を形成するものもあった(Fasciculateという)し、密接にくっついて個虫が多角形をなすもの(Massiveという)もあった。
さて、四放サンゴを観察してみよう。
まず、個虫は萼Calyxと呼ばれる先端のくぼみに入っている。この周囲では隔壁が顕著に張り出しており、この中に入った個虫が触手を広げていたはずである。面白いことに、一部の四放サンゴは蓋を持っており、緊急時には開口部をぴったりと閉じることができた。外骨格を横から見ると、英名のRugosa(粗い)の由来となった、ごつごつとしたリング状の隆起がめにつく。特に単独で成長する種に顕著であり、おそらく構造支持に関与したと考えられている。
断面、および軟体部を取り除いた外骨格では、放射状の隔壁がみられる。この構造は床板サンゴとは全く異なるが、いっぽうで一見したところ、現在の六放サンゴと同じように見える。しかし四放サンゴでは個虫の底に位置する床板Tabulaに一本の溝(Fossulaという)ができているなど、顕著な左右対称性を示す。一見放射状に見える隔壁もまた左右対称性で、長い隔壁と短い隔壁が交互に配列し、4の倍数になる。これは最初に四本の大隔壁が挿入されたのちその間に隔壁が挿入されることによって生じると考えられている。
なおあからさまに断面が四角形なGoniophyllumがあると思えば、ヘキサゴナリアHexagonaliaのように、あからさまに六角形に見えるような、密集した群体を作る四放サンゴもあるので、概形が四角形や六角形であることとはあまり関係がない。
今回えがいたアマゾン盆地においては、Itaituba formationからPintoが6種の単体性四放サンゴを、1種の床板サンゴを記載している。(PINTO, I. D. (1977). Corais Carboníferos da Bacia Amazônica. Pesquisas Em Geociências, 8(8), 59–132. https://doi.org/10.22456/1807-9806.21790)
復元メモとして。
現生種で最も似ているのは六放サンゴのキサンゴ科である。
単体性の四放サンゴは、スナギンチャクやカンザシゴカイあたりが少し、大きさの参考になるかもしれない。特に波の影響をあまり受けない砂地や泥底に点々と現れる点はスナギンチャクに似ている。
しかしながら、これらほど深い棲管というわけではないので、急に深く引っ込むことはできないし、職種の長さも限られている。イソギンチャクが台の上に載っているイメージが近いかもしれない。
蓋がついていたものもあるが、それがどう取り付けられていたかは推測の域を出ない。
Fasciculateな群体を作るものに関しても、どちらかというと枝サンゴよりもサツマハオリムシみたいなもののほうがイメージに近い印象を受ける。個虫はかなり大きく、その先端にのみ触手を広げるからだ。
Massiveなものに関しては現在のサンゴがかなりイメージに近いとは思う。ただ、やはり個虫は現生サンゴよりかなり粗い印象を与えるので、注意。
また、おそらくそこまで光合成に依存しないので(FasciculateおよびMassiveはありうるかもしれないが)、きらびやかな色で描く必要は必ずしもない。




