―描写を支える科学的背景― 内海の形成と、パンゲアー古テチス海の交流
石炭紀は氷河期と間氷期が繰り返された時代である。
古生代は概して、海水準が現在よりも高い時代だった。
カンブリア紀後期からオルドビス紀にかけて海水準はピークに達し、その後低下が続き、ペルム紀後期になってはじめて現代の水準を下回る。このサイクルは海嶺における海洋プレートの形成と、大陸プレートの下への沈み込み――ウィルソンサイクルによって、おおよそ2億年オーダーの海水準変動が起こることによって説明されている。石炭紀後期の時点では、大陸衝突期にもかかわらず海嶺の活動が活発であり、さらに古生代初期に発達した海嶺体積が保たれていた。
この高い海水準により、低地に海水が侵入しやすい条件があった。
さらに、現在まで至る新生代氷河時代と同様に、石炭紀の海面も氷期とともにおおよそ10万年周期で上下を繰り返し、氷期には海水面が低下し、間氷期には低地に海が侵入した。これによりユーラメリカをはじめとして、サイクロセムと呼ばれる、陸成層と海成層がサンドイッチ状に連なる特徴的な地層が堆積することとなる。この大規模な海水面変動を引き起こしたのはゴンドワナ氷床の融解である。
今回はイタイツバ層およびピアウイ層をもとに、広大な潮間帯とそれを囲む砂漠を描いた。この海域もまた、激しい海面変動を記録しており、乾燥した砂漠地帯に何度も海水が流入し、間氷期には海中に没したようである。興味深いことに、イタイツバ・ピアウイ海はパンサラッサに開口しながらも、少なくとも一時期、おそらくバシキーリアン・モスコビアン境界で古テチス海とも接続したようである。その証拠として、イタイツバ層からはテチス海から主に知られるコノドントがいくつか産出している。また、海域の識別には、ネオジム同位体も有効である。ネオジムの海水中の滞留時間は500年から2000年と推定されており、世界の海水がおおよそ1000年かけて混合されるのに比べるとやや短い。そのため、海域に面する大陸地殻の風化によってネオジム同位体比が決まり、異なる海域を区別することができる。ネオジム143はサマリウム147の放射壊変によって生成されるため、サマリウム147を多く含むほど高いネオジム143/ネオジム144比をもつことが知られている。古い大陸地殻に影響を強く受ける海域(現在では例えば大西洋北部)ではネオジム143の比率が少なく、海嶺の影響を強く受ける海域(現在では例えば太平洋)ではネオジム143の比率が高い。
このように、石炭紀前期にレイク海が消滅して以降も、パンゲアという巨大な一つの大陸をまたぐ移動が少なくとも一部では起きていたらしいことがうかがえる。
こちらは完全に余談。巨大な干潟をどう航行するか?ということに関して。
スノーモービルのような方法も考えられるが、水陸両用となるとやはりアルキメディアン・スクリューを推したいところである。これを用いた船舶は砕氷船などで用いられており、広大な湿地帯をはじめとして航行困難地域を多く有するソ連ではソユーズ宇宙船のカプセルを回収するため、アルキメディアン・スクリュー駆動のZIL-2906を開発している。
Koester, E., Scomazzon, A. K., Kawashita, K., Macambira, M. J. B., Moutinho, L. P., Nascimento, S., ... & Mantilla, A. F. R. (2021). Sr–Nd isotopic constraints on carbonates, conodonts, and brachiopods of Early-Middle Pennsylvanian Itaituba and Nova Olinda formations, Amazonas Basin, Brazil. Journal of South American Earth Sciences, 112, 103532.
León-Caffroni, M. A., Scomazzon, A. K., Nemyrovska, T. I., Nascimento, S., Mantilla, A. F., Dias, S. K., ... & Lemos, V. B. (2024). Bashkirian-Moscovian (Lower–Middle Pennsylvanian) conodonts from the Amazonas Basin, northern Brazil: Biostratigraphy, biofacies, and paleobiogeographic significance for Western Gondwana. Marine Micropaleontology, 192, 102407.




