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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
いざ着陸、3億年前の異世界ー石炭紀の地球に、私たちの世界の「あたりまえ」は通用しない―
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<石炭紀紀行> MUD RACE I

バラバラと羽音を立てながら、中継ヘリコプターが旋回する。

海上座席に張り出された巨大なモニターには、干潟に張り巡らされた、らくがきみたいなコースが映っていた。

鉛筆で書きなぐったような、めちゃくちゃなラインどり。しかもあっちこっちに潮だまりができて、クレーターみたいに光を吸い込んでいる。

「おう坊ちゃん、宇宙から来たんか」

振り向くと、まるまると肥えた男が立っていた。塩気を含んだ乾いた風に、彼の頬肉が軽く揺れ、吹き出す汗が頬を伝っている。

手がぬっと伸びてきて、かさぶたの浮かんだぶっとい指が頭に振れた。

頭なでんな。宇宙帰りは、臭いですよ。

――他意はないようなので、赦す。

「そうですね、大学の調査で」

おっさんは、いいカモを見つけたとばかりに、ニカッと笑った。

「んじゃ坊や、このレースは初めてだな」

「そもそも何のレースかも知りません、ボートだとしか」

するとおっさんはさらに気をよくするのだ。肥えた頬が真っ赤になって、いう。

「まずな。ルールがある。あのコースは、全部無視していいんだ。」

「コースなのに、ですか」

「ゴールを見てみろ」

指の先、干潟の奥。

コースからぽつん、と離れて、「陸上に」2本の棒が立てられている。

――サッカーゴールみたいだな。

「あの、2本の棒ですか」

「おうよ。あの棒の間を座席が通ったら、ゴールだ。見てみろ、どのコースからも行けねえだろ?」

「そうですね、たしかに…あれ、ルールとして破綻してませんか、それ」

「あとな、コースのお披露目も今が初めてだ。浚渫船がさっきめちゃくちゃに掘って、潮が引くとこうやって現れる。誰もどんなコースか知らねえ。選手だってな」

「選手たちもこの空撮、見てるんですか?」

「見てねえ。通信機器の持ち込みは禁止だからな」

潮の引きとともに、モニターの空撮が更新される。引き潮の進行とともに、いくつかのコースが、溶けて崩れた。

「このレースはな、宇宙船の落着が未だ命がけだった時代を模してんだ」

おっさんはポケットから干し肉を出してかじる。

「湿地帯に墜ちた宇宙船を回収する。どんな悪路でも、行って、拾って、帰る。ってわけよ」

「じゃあ、なんでゴールが干潟の真ん中なんです」

「そりゃおめえ、見てのお楽しみよ」

その瞬間、ファンファーレが干潟の上空に響き渡った。

画面が切り替わり、モニターにはレース会場に並んだ艇の列が映し出される。だが、どれも「船」と呼ぶには無理があった。

「今回の挑戦者、まずは初参加の《イリノイ漁師連合》!」

白地に青い帯の入った、まるで古い耕耘機のような無骨な艇体がアップになる。船底には、幅広で頑丈そうな、2本のアルキメディアンスクリューが装着されている。

デッキはオープントップ。中央にポツンと座席があり、フレームがむき出しだ。

『今回の抱負は?』

『まずは……完走、でしょうか。明日からも水揚げあるんで』

実況席の声が、やや困惑気味に伝える。モニターの端で、座席の固定を調整していたクルーもまた、どこか素人っぽい。

――なんだありゃ。

アルキメディアンスクリュー推進。たしかに悪路走破にはピッタリ。

オープントップなのが、かろうじて船っぽくはあるけれど…

どちらかといえば、車のたぐいだ。

「ありゃぁ・・・原型機まんまじゃねえか」

「原型?

「火星軍のやつらがバカみたいに量産した全地形揚陸艇。今やジャンク市場に溢れてるやつ、まんまさ」


「続いて登場、漆黒の精鋭《パラー海警隊》!」

モニターが切り替わると、細く長く、刃のように引き締まった黒い艇体が映る。後部からは細く伸びたスキッドが左右に突き出しており、前方には一基だけの巨大なスクリュー。

『切れ味の良い艇体、一本スクリュー、そしてスキッド操舵。これでどんなに細い水路も突破可能!』

『今回の抱負は?』

『逃がさねぇぞ』

「……何を追ってるんですか、あれ」

「ま、警察だからな」

「続いて、毎度上位を争う《アンデス航空整備隊》!」

観客がざわめいた。真紅に塗装された艇体。まるで飛行機のフロート部分をそのまま落としたような、異形のフォルムだ。

下部には左右に長く伸びた双スクリュー。その浮力で、まるで宙に浮いているかのように安定している。

『今回の抱負は?』

『飛びたいですね』

「あの構造…船体のほとんどが宙に浮いてる。後部にエンジンがあって、アンバランスだけど重心は取れてる。水しぶきの跳ね返りを防ぐために、長いビームで座席を高く立ちあげてる…水上飛行機のフロートみたい。スクリュー自体も軽い?」

「おめぇわかるじゃねえか。航空基地だからよ、軽量船体で水に浮くんよ」

「次は、《クロウラー》!」

どっしりとした全高のある艇体、特徴的な四本スクリュー。その足元には、後方にぐるぐると巻かれた粗朶ロールが2巻分。

ほかのチームが水を飛ばす中で、こいつはすでに水に乗る気がない。

「おう、出たな、毎回、水上に一切出ないチーム」

「菱形戦車が塹壕を渡るアレの再発明・・・コースも塹壕みたいなものってことか…えぇと、だいたいよくわかりました。とんちきメカでとにかく何としてでもゴールにたどり着くゲーム、ってことですね。」

「そうだ。全地形揚陸艇ATLLCをベースにしていればなんでもいい、ってわけよ」

――ATLLC:All Terrain Light Landing Craft。

そのとき、号砲が轟く。

一斉に、「ヘンな機械」が飛び出した。


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