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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
異なる世界、異なる文化――世界が違えば、社会も変わる。そして、旅が始まる。
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<石炭紀紀行> 「現地調達」≪登場古生物: いろいろ≫

超時空ゲートが建設され、過去の惑星に植民市が作られている世界。

石炭紀の地球に降り立ったケイとアリアは、この星育ちの案内人のリリィとともに旅を始める。

ここで問題発生。荷物が全然届いてない上に電子機器のバッテリー、没収。両替も済ませたことだし、さあ買いに行こう。

実を言うと、旅の荷物が全然そろっていない。

明日の着替えすらない、という状況だ。

私たちに3週間先行して出発した荷物は、軌道エレベーターでの2週間に及ぶ長旅を終えてから貨物ロケットに積み込まれ、私たちと同じ船団で約2週間かけてこの星に着陸したはずである。しかしながら、貨物ロケットで着陸してからが、遅いのだ。

ペイロードの大きな貨物ロケットは墜落した際のリスクも大きく、遮るもののないパンサラッサ洋上基地に着陸する。それから2日かけてゴンドワナ西岸の沿岸都市、コパカバーナ港に運ばれる。そこからパラーまでには、さらに3日かかる。

流石に待っていられないので、明日コパカバーナまで飛行機で向かい、荷物を回収してから、石炭紀の熱帯雨林へと向かう、という算段だ。

手荷物で持ち込めばこんなに面倒なことにはならないのではないか?と、はじめは思った。しかし宇宙船の手荷物制限は、今度はスペース的な問題が厳しい。

小さめのバッグひとつでもう、一杯である。

さきほどバッテリー類を軒並み没収されてしまったので、スカスカな鞄はもう羽が生えて飛んで行ってしまいそうだ。

いま、もっているもの。

・電池が抜かれたカメラ

・電池が抜かれた汎用端末

・ペンライト

・ノート、筆記用具

・タオル(汗にまみれたものが多いが、無傷なものが未だ2枚)

・異臭を放つ宇宙服インナー

・透明サンプル袋

・長財布と現金

・パスケース

・救命胴衣(さっき高速船でもらった。ガスカートリッジで膨らむ仕様)

・・・これだけ。

宿につく前にまずは、買い出しをするべきだろう。

日は傾いてはいるが、まだ夕日ではない、いまのうちに。


この海面都市を傍から見ると、あたかも建物の間に、無数の水路が走っているかのようだ。その間を、パドルボートが行き交っている。

ボートというより板に近いような、3mほどの船体の真ん中に立ち、右へ、左へとパドルを漕ぎながら、水面を滑るように移動する。

どうも、自転車のような立ち位置らしい。

もう少し、大きな舟もある。こちらはカヌーのようなもので、3人ほどなら乗ることができる。私たちが乗ったのは、こちらの方だった。塗装の一部剥げたところでは、これが木製であることがうかがい知れる。

何の木材を使ったものなのかまでは、その塗装の剥がれ目からだけでは確認はできなかったものの、おそらく針葉樹に近い裸子植物のコルダイテス類かワルキア類、もしくはあまり可能性は高くないと思うが前裸子植物だろうか。この時代に、船を作るほどの大きさがある、年輪を作るような木材となると相当かぎられているためである。

「この木は何?」と聞くと、「シダーよ」とリリィはいうのだが、シダーなる植物は歴史上あらゆる植物にたいして用いられてきたがために、どの植物のことなのか今市はっきりしない。たとえばアマゾン川流域でシダーといったら、針葉樹ですらない、センダン科のセドロのことである。まあ、そのうちはっきりするだろう。


市場が見えてきた。

というより正確には、市場を内蔵した、ひときわ大きなドームである。

カヌーが横付けされると、むしむしとした熱気とともに口上と値切り交渉の声が響き渡ってきた。魚とコーヒーとレモンとべっこう飴を混ぜたような、独特の香りが胸いっぱいに広がる。ぐらり、とカヌーを揺らしながら足を踏み入れると、ドームいっぱいに、露店がひしめいていた。

「ここなら何でもあるわ。でもスリには気を付けて。」とリリィは言う。

そういえばさっき、できるだけお金は邪魔くさくても分散するようにと言われて、そうしていたのを思い出した。

屋台に並ぶのは食べ物だろうか?薬だろうか?雑貨だろうか?とにかくいろいろがごった返していて、混沌を極めている。

とくに魚が面白い。この辺りでは「イルカ」呼ばわりされるらしいエウゲネオドゥス類は、どの店でも切り身にされて堂々と並んでいた。全貌がよくわからない軟骨魚類だけに、切り身ばかり見せられると余計モヤモヤしてしまう。50㎝ほどもある、直角貝を並べている店もある。その足は意外にも、オウムガイというよりはどっちかというとイカに似ていて、しっかりとしたカメラ眼がこちらを見つめていた。他だと、たとえば頭にハンマーのような奇妙な器官をつけた軟骨魚類がいくらか。ステタカントゥスか、ファルカトゥスの仲間だろうが、おそらくまだその全貌が明らかになっていない種だろう。歯をよく調べれば、既存の化石種のどれかに当てはまる可能性は、まだ残っているとは思うけれど。そもそも――ここに並ぶ種のほとんどが未知の生き物のはずだ。

――とまあ、次々に目移りしてしまって、一つ一つ書き記していったら大変なことになってしまう。魚だけではない。山菜のようにシダ種子植物の枝や実が売られていたり、何の用途に使うのやら、樹皮や気根なども売られている。ただ残念ながら、巨大昆虫に関しては影も形もなかった。

ファッション方面に関しても、実に豊富だ。この星で作られたと思しき簡素な貫頭衣から、おそらく地球から取り寄せたであろう高級ブランドまで混在している。そういう方面はまったくよくわからないが――少なくともこの星の人々は、ある程度の人口はファッションを結構気にするのかもしれない。

天井を見上げると、酸素の多い地だからだろうか、梁が酸化されて真っ黒である。もしくは、もとからそういう錆止めなのだろうか。天井近くでは換気扇が回っているが、ドームの熱気を汲みだすには、全く不十分であるとみえた。

「坊ちゃんこれお似合いだから」

振り返ってみたら、何やらでっかい牙のペンダントをもったおばちゃんがニコニコしながら立っている。よく見てみれば、牙ではなくて四方サンゴだ。

表面が磨かれて、艶々と光っている。色は――ちょっと肌色がかった、暗色。大きさは大体、14㎝くらいだろうか。ナマかと思ったけど、よく見ると鉱物置換がみられる。比較的時代の近い、おそらくは石炭紀前期の化石だろう。

――悪くないな、と思ったけれど、ちょっと聞いてみる。

「よそ者でよくわからないのですが――どういうものですか?」

するとおばちゃんは言うのだった。

「これね、男らしさも活力もギンギンに高まって、牙みたいに立派になれるって評判よ!モテること間違いなし!……もし彼女さんいるなら―」

――いや、いいです。

おばちゃんが妙にテンション高い。“そういうもの”なのだろう。

危うく買って帰って、笑いのネタにされるところだった。

――いや、あれだけ大きくて、杭みたいにデカい四方サンゴは、さすがにちょっと欲しいけど。

他にも「これなんかどうだい」とマチェーテを薦められたり(使えそうだけど、いや明日飛行機に乗るんです!)、よくわからない細長い、甘い揚げ菓子を買い食いしたらびっくりするくらい高額だったり、シダ種子植物の実を買ってみようとしたらなぜか全力で止められたり、いろいろした。

気に入ったのが、ゴワゴワの、業務用防寒着だ。どのくらいゴワゴワかといえば、ファスナーをしめておくと、そのゴワゴワ具合だけで自立してしまうくらいだ。

「これ、どういうものですか?」と聞く。

出てきたおっさんは筋肉が肌を突き破って噴出しそうな漢だった。

野太い声で言う。

「ああ、それな? 防寒着だよ。夜の船の上じゃ、マジで凍えるからな。漁師も土方も、夜中に働くことあんだよ。安いし、頑丈だし、燃えねえ。これが一番だ。」

「こんな防寒着は初めて見ました。こんなに頑丈なのは。」

「綿? あんなもん高ぇし、すぐ潰れるだろ? 背中からスースー冷えてくんだ。けどな、こいつはカッチカチだから、体重かけてもスプリングみてぇに戻る。冷えねぇんだ、これがまた」

「これ、1着ください」

するとおっさんは一瞬目をぱちくりさせて、

「おう、」といった。持ってみると、中身の木くずがどっしりと重い。

黎明期の宇宙服を着ている気分だ。ちょっと落ち着く。

と思っていると全身からどっと汗を噴き出して、ぜえ、ぜえ、と肩で息をする羽目に。性能は十分。

周囲の現地人たちはといえば、そんな変な旅人を見て、大笑いしていた。

――そうこうしているうちに、ようやく目当てのバッテリーに辿り着く。

法外に高額だった――地球で買ったのの、倍くらいする。そして型番も同じで、Made in Japan、と…要するに二度手間だ。手持ちからどう出すかな…と思いつつ、ふと見ると、アリアが大きく親指を立てている。

さっきバッテリー代は出すから、と言っていたからそういう意味だろうか?しかし親指を立てるだけなら、いっちゃえ、の意味かもしれない。

よくわからないので、指でOKのサインを作って見せたら、No!No!No!と叫ばれた。周囲を見たらなんか、すごい目線で睨まれている。よくわからないので買った。

今日の宿代より高くて、長財布の三分の一くらいのお金が無くなった。


買い出しは終わり。

例のボディアーマーみたいな防寒着を引っ提げてカヌーに向かうと、ちょっとギョッとされた。

リリィはといえば、

「たしかに、明日に備えて必要だけど……防寒着ならこちらでもいくつか用意してあるから、もし着心地が合わなかったら、気軽に言ってね?」

と、すでにフォロー体制に入っている。

アリアは、というと、つっついて

「防弾仕様じゃあるまいし!」とけらけら笑っていた。

「そんなにおかしいかな、木くず防寒着…お土産にどうかな、って」

と私が言うと、2人は顔を見合わせた。

少なくとも数十年後には、貴重な民俗資料になると思うのだ。

それに――どういう植物が使われてるのか、気になるじゃないか。

あと、あのグッドサインは、すでに確保したから大丈夫、という意味で、OKサインはここでは、すごく卑猥な意味になるということを知った。

要するに、電池代は高くついたが、いい勉強代だった、ということになる。


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