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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
いざ着陸、3億年前の異世界ー石炭紀の地球に、私たちの世界の「あたりまえ」は通用しない―
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<石炭紀紀行> 「LANDING」

――青い星に立った、一本の茶柱のように。

宇宙船は、そのエンジンノズルを大地に向け、屹立した。

高度は300㎞。


パチッ

そんな音とともに、

船内の照明が一斉オフに。

読書灯が消え、緊急時用のオレンジのランプが、ぼんやりと照らす。

<あらためて、固定具の装着を確認してください>

アナウンスとともに、ウォオオンという作動音。

モニタ前面が、カウントダウンでいっぱいになる。

ガシャ、という音。

すると、どぅん!という腹に響く衝撃とともにシートに押し付けられ、一気に血が下に降る。

――懐かしい感触だ。

浮いてたタッチペンが膝に乗って膝をくすぐる。

ごごっごごごご…と全身をうなる重低音の群れ。

すべてをびりつかせる、振動。

何十秒、何分、いや。

「あああああああ」

「なにやってんの」

「いやー声震えるなーって」

「ま、初めてならやる・・・わね」

ひたすら黒い宇宙、直視不能な真っ白い太陽。

時々、残像みたいに映るほかの宇宙船。

高鳴る鼓動で、胃袋が裏返りそうな緊張。

いままで動かなかった汗がたらりと一滴、滴るのを感じる。

轟轟という唸りとともに、宇宙船は沈んでいく――

地球という巨大な重力井戸に。

唸り声とともに、沈んでいく。


高度100㎞。

ふっ

と、唸りが止まり、不気味なまでの静けさ。

モニターに映る視界が、小さな窓からちらりと覗く景色が、動き出す。

見上げた真っ黒い空から、だんだんと青い水平線が、カーテンをかけていく。

何もかもを吸い込んで、消してしまいそうな、青。

ハンモックが揺れるように回転シートが下を向く。

モニターの景色もまた、真っ直ぐ、下を向いた。下界はどうも、快晴らしい。

宇宙からでもくっきりと、ゴンドワナの北西部が見えた。

そして――体が、ふわりと浮く。

クロスバーに縛り付けられた腕が、広げられる。

――大地が見下ろされる。belly flopはさながら、宇宙からのスカイダイビング。

体がふわりと浮き、タッチペンもまた浮き、ペンをつないだ紐が、踊り狂う。

きゅっ、と、手元に巻いた拘束帯を、思わず握り締める。

四方八方からコツン、コココ、カシッと音が。

窓の下側が、溶けたように揺らめく。

そしてから火のような揺らめき。そして微かなぴりつき。

そして、目いっぱい押されたような――全身から風を浴びたような――磔にされたような――押し付けられる。

下は、目いっぱいの大地。砂漠の沖合に、パンサラッサの濃密な青が口を開けている。

そして――モニターが、めらめらと赤く揺らめき始めた。

窓の外はもう業火に焼かれている。

そして――画面が、真っ暗になった。

<CONNECTION LOST> 

<ONBOARD: SOUND ONLY>

<VISION: DISCONNECTION>

重みに張り付けられ、展足された昆虫みたいに、私はその文字を見上げるしかない。

高度はぐんぐん、下がっていく。


高度50㎞。

真っ暗な船内。

動くものは、窓からちらちらと覗くプラズマの炎だけ。


「ケイ?聞こえる?」

「聞こえるよ、アリア。」

「これは、異常じゃないからね」

「わかってるよ、通信途絶とセンサの耐熱シャッターでしょ」

「ならよし。乗った人はみんな言うわー―十字架って、こんなだったんじゃないか――って」

「どっちかというと、大文字焼かな。ほら、手脚広げて大の字になってさ」

真っ暗な船内に、ただただ、ちらちらと光が走るだけだった。

「――それ、人を焼く祭り?」

「さすがにボクでも、そんなタチの悪いたとえはしないよ。ただ思うんだ――」

「何を?」

「大の字になるのも、ときには悪くないなって」

「――普通、大の字にはならないんだけど…」

「そっか。」

――クロスバーは、体格に合わせて自動で耐G姿勢を調節するようになっている。


外はまだ、業火らしい。

赤、橙、紫に輝くプラズマが、ちらちらと窓を揺らす。

――外では炎の嵐みたいだ。

そんな窓は、少しずつ黒く煤けて変色していく。


高度30㎞。

突然、ガコン、という衝撃。

ぞっ、と背筋が寒くなり、息が詰まる。

――なにせ、外はまだ火の海の――はずだ。

あたりはもう、真っ暗といってもいい。

かすかに光を伝えていた窓は、もう煤だらけで、もはや、皆既月食だ。

<OCCUPANT MODULE SEPARATION>

再度、衝撃が走る。

心臓がふわりと浮くような感触。

<VISION:RECONNECTION>

シャッターが開くとともに、真っ青な海面が映る。

<SUBCAMERA ON> 

後方を映すサブカメラを覗けば、

貨物モジュールが、すっ、と群青の空を遠のいていく。

<SEPARATION SUCCESS>

僅かな回転とともに、煤けた窓がさす赤茶色の光が、ゆるゆると回っていく。

回転式シートは常に荷重に向けて垂直に保ち続けるため、あたかも機体の外周がくるくると回っているようだ。ただ、船体の回転軸とシートの回転軸があっていないので、絶妙に揺さぶられる。

雲海の向こうに、大地と大陸の輪郭。砂漠地帯の海。紅海を思わせる。

――私たちの乗る乗員カプセルは、あの、石炭紀のブラジルに広がる巨大な湾へと向かっている。Itaituba-Piaui sea、という、耳慣れない海だ。

いっぽうで、貨物モジュールはそこからやや離れて――ボリビア沖合のパンサラッサへと進んでいた。


高度15㎞。

体がふわりと浮くとともに、視界がぐるりと、空をむく。

妙に鮮やかすぎる青が、目に眩しかった。


バックシェルが、カメラの横を突き抜けていった。

――あぁ、これで無重力体験も、おしまいなんだ――

そんなことを思ったとたん、

パラシュートがぱっと開き、ぎゅっと現実に引き戻された。

一面の青は、布地のけばけばしいオレンジ色に染まる。

LiDAR画面がせり出す。海上基地がどんどん迫ってくる。

99,98,97…

高度はついに、100mを切っている。

その瞬間、バチッという衝撃とともに、視界を覆っていたオレンジの布が流れる。

――そしてまた出会う、透き通ったどこまでも青い空。

一瞬、胃が浮く。

ほっと息をつきたかったが、そんな猶予なく。

カッ、という音とともに轟音と振動。

下から突き上げられるような、鈍い胴上げに、口から息がうぱっ、と漏れる。

腹の下から響く、ガクガクとした響き。体が押し付けられ、粗雑なマッサージチェアみたいに息が揺れる。またばかみたいにああああああとかは、いわない。

――最終減速燃焼。

海上基地のターゲットに合わせて最終調整。

推力偏向で位置がピタリと、ロックオン。


ガシャっ。

衝撃とともに、タッチダウン。

ずっしりとした体の重みとともに、ぷしゅぅ…という、ガス音。

基地のアナウンスが耳に入った。久しぶりに聞くポルトガル語は、よくわからない。


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