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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
いざ着陸、3億年前の異世界ー石炭紀の地球に、私たちの世界の「あたりまえ」は通用しない―
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<石炭紀紀行> 「RE-ENTRY」

――ずっと続くような、気がしていた。

この2週間と少し――一人でカプセルに閉じ込められ、宇宙を漂いながら。

色々なことを考えた。ときにはやけになったり、飽きたりもしたけれど

――どこか、洗われたようなような気も、していた。

船内に、自動アナウンスが入る。

<まもなく着陸態勢。与圧服の着用、確認済。クロスバーへの四肢拘束を確認せよ>

――クロスバー、というのはこのカプセルにおける、独特なシートのことだ。人間の手足に沿った、クッション付きの外骨格といった感のあるフレームで、四肢を固定するだけでなく、筋力維持のために筋負荷をかけるためにも有効だ。あの全身が攣るような神経筋刺激装置の苦痛の時には、しっかりと拘束具として私を磔にし、宇宙でなまった体を強制的に呼び起こしていた。

手足のリングが、ぎゅっと締まっていることを確認する。

クロスバーにそっと、身をゆだねた。

重みはまるでなく、かるくーー寄り添うようだった。


クロスバーは、ウィン、と音を立てて動き始める。

体を、着陸態勢に合わせた姿勢に自動調整し、視界がくるりと回った

――回転式シートの、試運転。

<クロスバー 作動問題なし スウィーヴェルシート、作動正常>

アナウンスの直後、クロスバーから、手元に2つの機械が添えられた。

着陸視察モニターと、非常機動コンソール。

右手のすぐそば。

みれば、非常機動コンソールには「OFF」の方向に、スイッチが入っている。

ほっと、息をついた。

モニタに通知が走る。アリアからだ。

「ケイ?非常機動コンソールには、絶対に触らないこと。」

「わかったよ」

答えるまでもない。

コンソールにはでかでかと「緊急用!触るな!」と書かれている。

「もし触ったら?」

「緊急時にもしONになっていたら――宇宙船を操縦することになるわ」


その瞬間、次のアナウンスが入る。


<機動開始、5…4…>

高度計は400㎞。

地球が巨大な円弧を描きながら、数ミリの大気膜が青橙黒にグラデーション。

パンゲアが、一望できる。

<3…2…1…>

カシャ、バシッ・・・そんな音が、船内に響いた。

何かの故障音のようにも聞こえて、私の背筋は硬くなる。

クロスバーの骨組みが、ちょっと触れた気がした。

その瞬間――そんなずっと見続けていた光景が、ぐらりと揺らいだ。

「う…うわっ」

青い石炭紀の地球はぐらりと下方に流れていく。

ほんの少しシートに押し付けられる。微弱な重力みたい。

視界がぐるりと回る。

青い惑星が、上から下に、映っていく。

目の前の景色はどんどんと宇宙へと駆け上がり――漆黒の、夜闇へ。

「これよ!スラスタによる180度回転。観覧車みたいで、いいでしょ!」

「これ、すごくゆっくりだけど、どのくらいかかる?」

「5分!」

はあ…はぁ…はあ… 息が荒くなっていた。鼓動が、耳元に聞こえてくる。5分が無限に続くような気がして、時計の針をみたが、その針もまた、ゆっくりだった。

しょうじき、いままでまったく動きがなかっただけに、怖いのだ。

それに――私は、知りすぎてしまっていたから。

まだロケットが不安定だった時代のことを。

暗闇が空を覆いつくした、その瞬間。

窓越しに整列する、針先でひっかいたような光が映る。 

私たちと同時にこの星へやってきた、ほかの船団だ。

互いの距離には驚く――宇宙の広さに。なにせものによっては、船体長が50mもあるのだ。

それにしても――まるで、黎明期のやすっちいCGだ。

太陽は真っ白、影は真っ黒。


星なんて、一つもない。


機外カメラが、一瞬ホワイトアウト。

小さな窓から一瞬、ビームが走る。

機内をなめる、白銀の日光だった。

パキッとした、黒と白の世界。

なんとも人工的で、嘘くさく感じてしまう。

身の置き所が、ない。

――漫画の世界に迷い込んで、紙に張り付けられてしまったような、感覚。


そんな光に、垢と汗でうっすら黄色く染まった船内の汗の染みが映し出される。そのとき、与圧服の中で忘れかけていた、船内に籠りかけていたツン、とした例の異臭を思い出す。

すると、なんだか――よくわからないけど。

私の胸のざわめきも、少し、落ち着いた。


太陽が隠れた瞬間、一瞬星の群れ。

それもまた、太陽の再来とともに、ふっと消える。

カチッ、カシャッとした音。

「この音、大丈夫なやつ?」

「アクチュエータとスラスタの音!あと姿勢制御エンジンの作動音!」

そんな音、というより振動は、座席を伝わって体を伝う。

姿勢変化に伴って浮いていたものがぶつかって、振動でガガガ、と鳴る。

コンコンと小突かれるような音と振動、ゴロゴロ、ゴウンとした響き。


私は、そんな振動のなか、真っ黒な「そら」をただ、みあげるほかなかった。

――外骨格の腕に支えられ、ふわりと、抱きかかえられながら。



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