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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
異なる惑星ー石炭紀の地球を、宇宙から眺めると―
39/231

―描写を支える科学的背景― 大気組成、とくに酸素濃度の推定について

石炭紀の大気は酸素に富んでいた――これは一般にもよく知られた説である。

では、これはどのようにして知ることができるのだろうか?


1つ目は、単純に太古の空気をとってくる方法である。

岩塩に補足された空気の酸素濃度を測定することにより、古生代の酸素濃度を知ることができる。Brandら(2021)は岩塩の流体包埋物中に含まれる空気の直接測定および、現代の岩塩における流体包埋物からの逆算によって古生代後期の酸素濃度をおよそ16.5%と、現在より低い値で安定していたと推定しており、他のモデルで示されている酸素濃度の激変とは矛盾する、としている。

ただし…この研究では石炭紀前期(およそ3億3500万年前)とペルム紀後期(およそ2億6000万年前)で測定しており、これは他のモデル(たとえばGEOCARBやGEOCARBSULF)において示される酸素濃度ピークが起こる前と終わった後の時代に相当する。つまり要するに、酸素濃度がピークに達したと考えられる肝心の時期(石炭紀後期とペルム紀前期)の測定データが抜けているために、酸素濃度ピークがあったのかどうかは判断困難ではなかろうか。今後、石炭紀後期についても調べられてほしいところである。


2つ目は、炭酸塩鉱物における炭素同位体比によるものである。

一般的に化学反応において、すべての基質を反応させる前に生成物を回収すると、生成物は反応前の基質に比べて軽い同位体比が高くなる傾向がある。

たとえば炭素12と炭素13では、炭素12のほうが“先に“反応しやすい。これは質量の大きな原子ほど反応に必要なエネルギーが小さいためと考えられており、すべての基質が反応した場合には生成物の同位体比は反応前と同じになる。これを動的同位体分別という。

もうひとつは平衡関係にある物質において同位体の“交換”が生じることにより、温度依存的に同位体比が変化するものである。これは気温推定に用いられる酸素18と酸素16比などで重要になる(これについてはのちにも触れる)。これを平衡論的同位体分別という。

光合成においては炭素12のほうが植物に取り込まれやすい(炭素13のほうが重く結合が強いために細胞内での拡散速度が遅く、ルビスコでのカルボキシル化のエネルギー障壁が高いため)とされる。そのため通常の場合、有機物と炭酸塩鉱物を比較すると有機物は炭素13の含有量が少なく、炭酸塩鉱物には炭素13の含有量が多いとされる。

つまり、炭酸塩鉱物中の炭素13が多い場合は、炭素12が植物に多く取り込まれ、有機炭素の埋没が盛んになった時代であると推定することができる。


3つ目として、有機物中の炭素同位体を使う方法がある。

高酸素環境ではルビスコの逆反応により光呼吸が起きやすくなるため、気孔のガス交換能力をあげる(気孔コンダクタンスの上昇)ことにより適応する。すると炭素13の拡散速度の遅さによる取り込み低下が抑制される。また、CO2不足下ではCO2の同位体による分別度が低下するため、炭素13も取り込まれやすくなる。つまり、高酸素濃度で栽培した場合、植物体内の炭素13濃度が上がる。つまり、石炭などの有機堆積物に含まれる炭素13比率が高いほど、酸素濃度の高い時代であったと推定できる。

2つ目、3つ目を合わせると、

「酸素濃度が高い時代=炭酸塩鉱物中の炭素13―有機物中の炭素13が減少する」

というモデルが成立する。


4つ目は、黄鉄鉱の同位体比を利用する方法である。

黄鉄鉱においても、硫黄32と硫黄34の比率が重要になる。

硫黄を含む鉱物の酸化風化や有機物の分解によって生じた硫酸イオンは、硫酸還元細菌や硫酸還元古細菌といった、硫酸を電子受容体に用いる嫌気性菌(硫酸で呼吸しているようなものである)によって還元される。この還元された硫黄と鉄が反応すると黄鉄鉱ができる。

酸素豊富な場合は硫黄が酸化されて海洋中の硫酸イオンが豊富になる。すると硫酸還元微生物が利用できる硫酸イオンが増え、硫黄32が選択的に硫化水素になる。(硫黄32は質量が小さいためにおこる動的同位体分別)そのため、硫黄34の比率は当時の酸素濃度を反映して低下する。

黄鉄鉱と炭酸塩鉱物、有機物における硫黄同位体比と炭素同位体比を測定することにより、当時の酸素濃度を推定することができる。これはGEOCARBモデルやGEOCARBSULFモデルなど、古代の酸素濃度を推定するモデルの理論的な背景となる。(Brand, 2006)


5つ目に、燃焼温度を利用した推定方法もある。

酸素濃度が高いほど、燃料は高温で燃焼し、より高温で焼かれた炭ができる。そして、炭は非常に保存されやすく、石炭層などに豊富に保存されている。高温で燃焼した木炭はより光沢を帯びる傾向があり、実験的に得られた木炭の反射率を測定し、時代ごとの木炭の反射率から燃焼温度を推定する。


6つ目はシンプルに、これは、酸素濃度が高いと物がよく燃えることを利用したものである。泥炭に含まれる炭化物の比率を調べることによって酸素濃度を推定する。この方法では石炭紀前期から中生代まで、酸素濃度は概ね26%以上という値を示しているが、落とし穴がある――リンボク類は異常なまでに耐火性に優れていたらしく、リンボク類の優占した石炭紀後期の泥炭においては木炭の含有量が著しく低下するのである。


さて、ここまで様々な酸素濃度の推定方法について述べた。

これらは岩塩中の包摂ガスを除いて、おおむね石炭紀の酸素濃度が少なくとも現在よりも高く、30パーセント前後であったことを示している。では、酸素濃度が高いというのはどういう影響を及ぼすだろうか?有名なのは、酸素濃度が高いとよくものが燃えるとか、酸素濃度が高いと呼吸がしやすくなるというものだが、ほかにも様々なことが起きうる。本文中でも述べたが、大気中の窒素同位体比は安定しており、窒素総量は地球史を通じてほとんど変化していない・・・といわれている。このことは、石炭紀は酸素の増加によって高大気圧条件であったことを示しており、最大で21%増 (Graham et al., 1995)、おおよそ1.1気圧-1.2気圧程度であっただろうと推定される。 しかしながら、窒素総量や大気総量もまた一定ではなく、石炭紀の大気はもっとずっと高大気圧であったとする説すらある。(Cannell et al., 2022)

しかしながら、本書では最も穏当な推定として1.1-1.2気圧前後として石炭紀の環境を記述する。

さて、酸素濃度が高く高大気圧だとどうなるか?ということに関しては、本文のほうである程度述べているので、割愛しよう。


Brand, U., Davis, A. M., Shaver, K. K., Blamey, N. J., Heizler, M., & Lécuyer, C. (2021). Atmospheric oxygen of the Paleozoic. Earth-Science Reviews, 216, 103560.

Berner, R. A. (2006). GEOCARBSULF: a combined model for Phanerozoic atmospheric O2 and CO2. Geochimica et Cosmochimica Acta, 70(23), 5653-5664.

Jones, T. P., & Chaloner, W. G. (1991). Fossil charcoal, its recognition and palaeoatmospheric significance. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 97(1-2), 39-50.

Jones, T. P., Scott, A. C., & Cope, M. I. C. H. A. E. L. (1991). Reflectance measurements and the temperature of formation of modern charcoals and implications for studies of fusain. Bulletin de la Société Géologique de France, 162(2), 193-200.

Cannell, A., Blamey, N., Brand, U., Escapa, I., & Large, R. (2022). A revised sedimentary pyrite proxy for atmospheric oxygen in the Paleozoic: Evaluation for the Silurian-Devonian-Carboniferous period and the relationship of the results to the observed biosphere record. Earth-Science Reviews, 231, 104062.

Graham, J. B., Aguilar, N. M., Dudley, R., & Gans, C. (1995). Implications of the late Palaeozoic oxygen pulse for physiology and evolution. Nature, 375(6527), 117-120.


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・""Hypoxia, global warming, and terrestrial late Permian extinctions."(Raymond B Huey & Peter D Ward…
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