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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
異なる惑星ー石炭紀の地球を、宇宙から眺めると―
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<石炭紀紀行> マップとポイント 3

「ところで、定点観測だけでちゃんと色々見られる?」


「それは保証できるわ、問題なしって」


「いやなんか…狙い撃ちしない探索ってちょっと経験なかったから。100㎞四方くらいでいそうな環境を絞り込んでいくのが、現代地球の定石」


――そう、環境と空撮からいそうな環境を割り出して、“狙撃”する感覚が、楽しいんだ。私が育った現在の地球では生き物を探すとき、いつもそうしていたから。行動圏は500㎞四方くらいとって、いそうなところにピン立てして、一つずつつぶしていく作業。


「100㎞四方⁉ それ、カルカロドントサウルス類の群れでも追う気?So Cool!」


「えっ…でもさ、狙ってここって探らないと何も見つからないんじゃないかって…怖くない?全部はずれだった時にどうしよう!とか、何も見つからないまま定点を巡る虚無とか…定点観測に全然いい思い出がなくて。5種くらいしか取れない昆虫採集とか」


アリアは笑いながら、

「砂漠じゃないんだから!過去の地球で、“外れ”なんてまず無いの。どうせ色々見れる、査読にも有利、いいことずくめよ」


――そんな構え方だったら、地球じゃあっという間に、ポイントの手持ちがなくなる。

見つかった時には滅びかけているときと思え――それが、人新世大量絶滅真っ只中、現代地球のフィールドワークで得た最大の教訓だ。


「そっかぁ…じゃあ、いつもの場所に行ったら今回はこれが居ました、って感じか…」


「結構アクティブよ。場所を絞ってからは自力で捕まえないとだし。」


「豊かだから定点で十分、と。新規ポイント、開拓したいけどなあ…」


「うん、それはそう。私だって狙い撃ちのほうがワクワクするし、フィールドワークっぽいと思う。でもね――“なぜその地点?”って聞かれたら、“いそうだから!”じゃ通らないんだよね。ほんとやれやれだわ」


「ええ・・・それ、探しようがないじゃん。」

――たしかに、21世紀初頭――まだ地球に生物が点ではなく面で見られた最後の時代の論文には、そういう方面のメソッドがやたら詳しく書いてあったりするものがある。


「「探すな」って意味じゃないんだけど、実質そうなっちゃってるわ。ちゃんと足元を見ろって意味なんだけどね。「この調査地の選定理由は不十分です」って。ポカホンタス流域を調べ始めたときも本当にいろいろ指摘されて…ほんと、参った」


「攻めまくって見つけたとしても、新種でもない限り通らない…ってことか…」


「Exactly. 新種も見つかるのもごく当たり前っていうより記載が全然間に合わないから、それでも通らないかも。短報とかサンプルの一つとしてはいいけど、それをメインに記載するには…。」


「ってなるとやっぱり定点がいいと。」


「そ。定点のどことどこで見つかった、ってほうが有利。偶々見つけました、で書こうとすると「調査範囲が限定的すぎて一般化できません」ってのがもう目にちらつくわ。調査も二度手間だし、ホント nightmare。Reviewer 2 の亡霊ってやつ」


「ところで思ったんだけど、データはやっぱり多いほうが、バイアスなく振り分けるには有効なんじゃない?オーバーレイヤーされた画像データから、バイアスの少ないサンプリング地点を作るとか」


「メソッドにどう書くか次第ね。レビュアーはバイアス大好きだから、“公平に拾いました”って証拠が大事。“環境を代表する”って書いたのに『なぜその区画?』って突っ込まれて机ひっくり返しそうになった!」


「現代地球での調査ではそういう経験はそんなにないけども…確かに思い出した。とある区画を調査したら珍種が出ましたって書いたら、補足資料に調査区画内全部の池のデータを列挙しろと言われたり…したこと。」


「ひどい!やっぱ根は同じね」


「査読するほうもつらいよね、延々と直して給料ゼロ、それじゃ当たりたくなるのもわかる…。」


「なんであれが無償なのかほんとわかんない。」


「なんか、学部時代思い出したよ。査読のために観測するわけじゃないんだけどなあ」


「ほんと、はぁ~ってなりそ。私もいろいろやられて、カラオケで死ぬほど歌ったことが何度あったか…」


「あったね、やけくそカラオケ会」


「ケイも呼んだことあったっわね。たしか――」


「…「雪の進軍」とか歌ってた」


「あー、あれ!あのへんな軍歌。そもそもなんで軍歌??って。しかもびっくりするほど低音出るし。あとで歌詞の意味聞いて二度びっくり」


―雪の進軍 氷を踏んで

どれが川やら 道さえ知れず

馬は倒れる 捨ててもおけず

どうせ生かして帰さぬつもり―

「何が正解なのか、何が地雷なのか、リジェクトされてもデータは捨てられず、どうせ生かして帰さぬつもり…ピッタリすぎて、選曲にシビれた。」


「いや、まあ…。」

――高い声出すたびに周囲からギョッとした目で見られるのがいやで、いつの間にか声を低くするようにし始めて…もう戻る気配がない。


「でも、なんかいろいろ吹っ飛んだ。あのほとんど愚痴の掃きだめみたいな歌聞いて」


「ところでだけどさ、植物調べるんだったらやっぱり定点よりも探索のほうがよくない?」


「確かに!動物しかやってなかったからその視点なかった。植生は全然調べられてないし――樹皮の写真を送って「多分これだろうけどねえ」くらいで済ませちゃってて」


「石炭の時代なのに!」


「それがほんっとうに混沌でどうにも整理つけがたくて、みんな匙投げてるのよ」


「あー…確かにそうだよね、資料調べててもクラクラしてくる。パーツごとに名前付いたり、ものすごい量の記載がされたと思ったらシノニマイズされたり、原記載が散逸してたり…」


「そこまで辿る以前のことも多くて、そもそもどうやって標本にする?とか。今回はドローンで採集試みようと思うんだけど…」


「あーー確かに。樹高20m越えは当たり前で枝が一本もないから登りようもない!」


「そ。だから定点も全然わからないって感じ。」


「何も見つかりませんでした、が大多数な現代地球ならではの視点かもだけど――一生に一度かもしれない石炭紀行き、やっぱりハズレは引きたくないし、環境に変化がありそうなポイントがないか、気にしてみる」


「それよ! 船の生データを先に解析して、『いそうな場所』じゃなく『区画内の代表的な環境』をサンプリング地点に決めてポータブル地図にプロットすればいいんじゃない?だったらメソッドに書きやすいし」


「アリア、それありだね、すごくアリ。あとポータブルマップは、やっぱり必要だと思う…だってこことか湖がだいぶ拡大してるし、あそこは海岸線が後退してる。遠浅だから目立ってるよ」


――あぁ、これがいわゆる石炭林の地盤沈下現象か。1960年代末に地殻の熱収縮と考えられたことが延々と引用されているけど、1960年代となると、プレートテクトニクスもまだ出たてなんだよなぁ…などと思う。


「ほんとだ。地震被害後みたい。海岸線の変化は平均で2メートル?。潮位補正しても無視できないわ」


「更新世のD-Oイベント(Dansgaard–Oeschger event)みたいな突発的な温暖化が有名だけど、一般に氷期って気温がすごく不安定だからさ、年単位でも全然当てにならないかなって。まあ寒冷化でこれだけ動くってちょっと考えにくいけど、積雪範囲の拡大はありそう」


「この気候変化と海岸線変化、でかいファクターね。」


「でしょ?だからみっしり目に焼き付けて、しっかり地図に反映させておきたいんだ」


「あとケイ、ディスカッション書くとき、一緒に見てくれない? 私ひとりだと、発想が硬直するから。アイデア、ほしいから」

普段なら強気に冗談を飛ばすアリアが、語尾を少し落とした。

どこか、すがるような響きだった。

――なんでもうまくやってのけてるように見えて、いまも苦労してるんだな。


端末にメモを取っておく。

「MEMO:データ処理は既にRUN済。Method執筆時の方針:船載MHS+SARの生データから「区画内の代表環境」をクラスタ抽出→各クラスタ代表点を定点に採択(登録とラベリングを確認!!)。執筆時は“いそうだから”でなく“代表だから”の方針で!いない、同じと思ってもサンプリング強度を変えるな!居なくてもあきらめんじゃねえぞ、私…。」

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