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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
異なる惑星ー石炭紀の地球を、宇宙から眺めると―
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<石炭紀紀行> マップとポイント 2

ポータブルマップを見下ろす。

99%以上の地表は――30年前の地図が、そのまま使われている。

地図記号も、撮影も――そのまま。

オーバーレイするごとに、ぽつぽつと違いが出てくる。

湖の大きさ、森の広さ、海岸線の形状――それらはどうも、何かしらの気候変動が、この30年間のうちにおこっていることを意味していた。

現代地球からすると、信じられないことだが――

氷河のサイズはといえば――むしろ僅かに拡大傾向だろうか、誤差もあるのでよくわからない。

海岸線は、遠浅なこともあって測定誤差や潮位で補正しても1~2mは変動している場所もある。

たださすがに速すぎて、これを寒冷化が原因と断じるにはちょっと無理があるだろう。



――さて、この惑星を、どう攻めるか。

事前に調べておいた炭鉱や化石発掘地の分布を、プロットしていく。東から順に――イリノイ、ペンシルバニア、ウェストバージニア、ノバスコシア、南ウェールズ、ヨークシャー、ルール、ザール、上シレジア、ロレーヌ、クラドノ、ドネツ。

赤道直下の巨大な溝に沿って、石炭紀の有力な炭鉱がずらりと並び、ユーラメリカを横断した。シベリアや北中国、南中国にもフラグがたっているが、こちらはまだ泥炭林をあらわす特異な水蒸気フラックスを発生させていない。これらの炭田はもうすこし、後の時代に堆積が盛んになると考えられてきたが、事実そうらしい。面白いのは古テチス沿岸で、炭田がほとんど残っていないにもかかわらず、広汎な湿地林が分布している。どうも、すべての湿地林が石炭を残したというわけでも、ないらしい。よく考えるまでもなく、もちろんのことである。

ついで、後期古生代氷河期における迷子石や氷礫岩の分布をプロット。すると、氷河のほぼ最前縁からやや外縁にかけて並んでいる。インドのラジャスタン州や南アフリカ、南ブラジル、フォークランド、オーストラリア…

つまり、後期古生代氷河期の中でもいま訪れている時代はとりわけ寒冷な時期であり、しかしその中でも最強点ではない、ということらしい。その縁辺、わずかに残った地域には緑があり、こうした植生が間氷期には拡大し、氷期には縮小を繰り返してきたのだろう。

石膏層をやヴァーティソル、蒸発岩といった乾燥をあらわす痕跡も、砂漠らしき、緑に乏しい地域に集中してプロットされる。

――ウェゲナーの答え合わせをしているようで、一つ一つ地図にプロットが追加されるたび、胸が躍った。


しかし、ひとつ困ったことがあった。

宇宙船の降下先、この星の“首都”があるのは――現在で言うところのブラジルに相当する巨大な内海なのである。そこには、炭酸塩台地をあらわす記録はあるものの、いかんせん化石記録に関しては硬質のサンゴやコケムシ、腕足動物、ウミユリ類、フズリナ類、あとはコノドントなどしか報告がない。

うぅむ。

ここで何が見られるかは――行ってからのお楽しみ、ということなのだろうか。


「アリア、旅程について確認したいんだけど」


「初日は首都パラー*で一泊。それから南下してボリビア南部、タリハに2泊、それから大陸中央海に飛んでミズーリ沖で漁船に同乗、翌日からはポカホンタス*川の水上村に滞在、そこからは遡上しつつ定点観測地点を回っていくって感じで、どう?」

【脚注 *Pará, Brazil **Tarija, Bolivia ***Pocahontas, West Virginia, USA 植民惑星での地名、都市名は概地であり、現在の都市や地名に比較的近い場所があてられるが、精度は±100㎞四方未満である。河川に関してはその地の現在の地名があてられることが多い。】


「だいぶハードだね。しかもいったん南に行ってから、赤道またいで北に行くんだ」


「便の都合で仕方ないのよ。だってパラーで3泊しても仕方ないし」


「そんなに何にもないの」


「そんなことないんだけど、こう――化石記録がない種ばっかりで、みんな「〇〇の一種」としか言えないのよ」


「あぁ…」


「アクセスしやすいから記載ラッシュではあるけど、その分…「俺の獲物に手を出すな!」みたいな横やりも多くて。標本届けるのは悪くはないけど敵に塩を送るみたいな感じだし」


「そういうのは気にしないけどな」


「だってさ、動画に映すにしても「これから記載予定の未記載種が映ってるからカットしてくれ」みたいな要望がこれまた多くて…」


「面倒くさいね」


「そう言ってくる人たち、パラーだけ見て帰っちゃうのよ。そりゃそこから調査進めるのも面倒だし、パラーに的絞って滞在したほうがいいのも確かだけど。」


「ってことはそこから先探検するのって…」

「ほとんど私だけ」

そう言って、アリアは腰に手を当てた。

「コパカバナ出身の知り合いに縁あってね。イリノイ海上基地からポカホンタスまで普通は船便で一か月かかるけど、彼女、水上機で行けるから」


「すごい人脈だ」


「でしょ。つまり石炭林の調査は殆ど私が独占してるってわけ。べつに他が来てもいいんだけど、もっとアクセスのいい時代と場所もあるから、どうしても避けられちゃうのよ。」


「その知り合いさんはどう思ってるの?」


「彼女はむしろ来てほしいというか、この動画案件も彼女からの依頼もあったのよ。観光PRしたいから動画出してよって」


「なるほど。――ってこの宇宙船で、観光?」


「・・・それはとりあえず置いといて」


「いやこれで観光ってすごく無理あるでしょ。片道2週間缶詰って」


「このままでいいと思う? パラーには大型空港もできたから、宇宙旅客機の運行も近々可能になる見込み。でも、使う人がいなかったら導入も夢のまた夢」


「そうだね」

――そう思いながらも、もし人が増えたら?と思うとあまりいい気はしなかった。



【脚注 *Pará, Brazil **Tarija, Bolivia ***Pocahontas, West Virginia, USA 植民惑星での地名、都市名は概地であり、現在の都市や地名に比較的近い場所があてられるが、精度は±100㎞四方未満である。河川に関してはその地の現在の地名があてられることが多い。】


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