―描写を支える科学的背景― スーパークロンについて
方位磁針のN極が北を指すことは、地球史においてあたりまえのことではない。地球の歴史において磁極は頻繁に弱まり、反転を繰り返してきた。その磁気の向きが表す時代はクロンChronとよばれ、その地層がどの時代に属するのかという良い指標となることが知られている。最新の地磁気逆転は77.4万年前に起きた松山-ブリュンヌ反転であり、チバニアンの始まりに相当する(正確には松山-ブリュンヌ反転と同時期の白尾火山灰層が始まりとされている。)。
しかしながら、一部の時代において、数千万年にもわたって地球の磁場が同じ向きを向き続けた時代がある。その中で際立って長いのが石炭紀後期からペルム紀前期の5500万年にもわたって続いたキアマンスーパークロン(名前はオーストラリアのキアマという町に由来し、磁場は現代から見て逆向き)、白亜紀前期の3700万年にわたって続いた白亜紀スーパークロン(磁場は現在と同様)、オルドビス紀の2200万年間に生じたモイエロスーパークロン(*磁場は現在の逆だが、その実在には諸説ある)である。
これらのスーパークロンにおいてなぜ磁場が安定し、反転しなかった(正確にはわずかな時期にわたって反転があったことも分かってきたが、大まかには長期間にわたって同じ向きである)のか、ということに関してもまた、さまざまな説がある。
古典的には、こうしたスーパークロンにおいては地磁気が非常に強かったと考えられてきた。しかしながら、そのデータの多くは信ぴょう性にやや疑問があるとする指摘もある。スコットランドから最近得られたデータによれば、この時期に極端に強い磁場はなかったことが示されている(Lloyd et al., 2025)。数千万年にもわたって単一極性を維持しながら、弱く不安定、かつ一時的な極性反転ができるような地球深部の条件に関しては、まだ不明なことが多く、今後の研究が待たれる。
なお、キアマンスーパークロンの強い磁場強度が酸素の散逸を抑制することにより大気酸素レベルの上昇に寄与した可能性、という説も話題に上ることがある。この根拠としてKuang et al., (2025)が挙げられることがあるが、要注意である。この文献はたしかに地磁気強度の指標であるVGADMと酸素濃度が相関を示すことを示している。しかし、本文を読んでみると、地磁気強度により酸素濃度が上昇することに関しては否定している。「そもそも酸素の散逸は火成活動による脱ガス、有機炭素の埋没、有機物の風化などによる酸素の供給・消費(年間1~10 Tmol O₂)と比べて極めて小さく、無視できるレベルである。(中略)顕生代におけるVGADMの比較的緩やかな変化によって、O⁺散逸率が酸素の大気進化に影響を与えるほどの2桁程度の増加を引き起こすとは、理論的にも考えにくい」と述べている。そのうえで、両者ともに影響を与える要因がある可能性を指摘している。たとえばキアマンスーパークロンとの関連性については、「超大陸が地磁気場と大気中のO₂濃度の長期的な進化において重要な役割を果たす可能性もある」としている。
「強い磁場強度が酸素の散逸を抑制することにより大気酸素レベルの上昇に寄与した」とする説は、石炭紀の石炭形成はキノコ(とくに白色腐朽菌)がいなかったからだ、とする説と並んで、一般によく知られた新しい都市伝説になりそうな気配がする。2025年8月現在、一部の生成AIもこの誤解釈を出典を読まずに引用し、しまいには「この知見を加えたほうがいい」と誤解釈を薦めてくる現状である。
ここではっきり否定しておきたい。
Lloyd, S. J., Biggin, A. J., Domeier, M., Lundmark, A. M., & van der Boon, A. (2025). Low geomagnetic paleointensity in the mid‐part of the Kiaman Superchron. Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 130(1), e2024JB030314.
Kuang, W., Kopparapu, R., Krissansen-Totton, J., & Mills, B. J. (2025). Strong link between Earth’s oxygen level and geomagnetic dipole revealed since the last 540 million years. Science Advances, 11(24), eadu8826.
Parrish, J. T. (1993). Climate of the supercontinent Pangea. The Journal of Geology, 101(2), 215-233.




