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ドゥンバレラ / 古代ホタテのこと

皿に山盛りにされていたのは、小さな小さな、でもホタテガイに似た貝だった。

たちのぼるハーブと磯の香りに、濃厚なうまみが混じっている。

皿はまだ、アツアツ。

ぱちぱちとまだ小さな音を立てて爆ぜながら、ぱっくり開けた殻から、少し白濁した黄金色のエキスが滴り落ちている。

ホタテガイそっくり、とは言っても、ベビーホタテどころの話ではない。

もはや、シジミ大である。貝殻に比して身入りが少なく、食べられるところといっても、本当にごく僅か。しかし、少しオレンジ色を帯びた、艶やかな貝柱に、真珠質の光沢をうっすら帯びた真っ白な殻が、じつに美しい。

食べ方はシンプル。

身がついていない方の殻を手でもって、身がついたほうの殻を、殻に溜まったスープと一緒に口に含む。

殻を摘まんだ時、なんとなく、殻の蝶番あたりに違和感があるのが気になった。ホタテに似ているが、これはホタテとは全然違う生き物かもしれない。

ドゥンバレラなのは、わかってる。

だけど――これ、本当に食べていいものか?と思いつつ、口に含んだ。

その瞬間だ。

濃厚なうまみに混じって、ほんの僅かばかりの泥臭さというか、茹ですぎた卵のような、硫化水素の香りが鼻の奥に抜けた気がした。

私はちょっと、顔をしかめていたのかもしれない。

「…これ、どう思う?」

アリアに小声で囁いた。

「え、美味しい貝じゃない?」

屈託のない返事だった。殻に溜まったスープをすすりながら。

「そう。」

ちょっと考えすぎだったか、と思っていると。

「口に合わないなら、食べるけど?殻ばっかりで、全部合わせてもちょっとだし」

「いや、ちょっと他の反応をみたかっただけ」

「ふーん。ところで、この貝は?」

「ドゥンバレラ。ホタテガイの遠い祖先筋みたいなやつ」

「へぇ~。たしかに甘味の強さとか、ちょっと似てるかも?ちっちゃいけど!」

「まぁ、ちっちゃいのは仕方ないでしょ。」

「ねぇ、ホタテの仲間って時代経るほどに大型化する傾向、あったりする?」

「コープの法則?うーん、当てはまる気はする。新生代のはでかいよね。」

「そうなんだ!でっかいホタテとか調査先で見たことないなって思って。」

「あれ、でも中生代にもデカいのいた気がするけど…ジュラ紀とか。どうだっけな…たしか、カンプトネクテスCamptonectes?20センチくらいの化石が知られてるよ。殻の装飾はあんまりホタテっぽくないけど。」

「えっ、20センチ⁉見たことない。7センチくらいまではあるけど…」

「じゃ、少なくとも中生代の大きめのホタテは普通じゃない、って感じかなあ、だって新生代のホタテガイ類とか、15センチ級とかが折り重なるように、ものすごい量産出するし」

「へぇ~」

「500万年前くらいのタカハシホタテとか、ものすごく肉厚で美味しそうだなっておもったり。」

「500万年前かー。猿人いるから渡航禁止な時代ね…」

「アフリカ行かなくてもダメなの?」

「ダメダメ。地球の裏側でやったことがどんな影響起こすかわかんないし、そもそもゲートの整備からしてされてないもん。新生代はわりと、ブラックボックスね」

「あー、じゃあ仕方ないか…」

この貝――ドゥンバレラは、嫌気性の環境を示す黒色頁岩に伴って産出する。さらに、硫黄に富む嫌気条件らしく、黄鉄鉱に置換されて保存されることが多い――そういうよけいな予備知識があったものだから、ちょっと食べるにあたってもそういう想像をしてしまったということなのかもしれない。

ところで個人的には、だが、殻を開いたとき、ホタテのような「耳」の真ん中にある、黒いポッチがないことが気になってならなかった。

あの黒い部分は蝶番というのが定番なのだけど、正確には蝶番といったらあの「耳」の背縁全体を呼ぶはずで、あの黒い部分をいう語ではない。

普通の二枚貝では、蝶番部全体にわたって外靭帯が発達しているのだが、現在のホタテガイ類ではこの外靭帯が退化し、代わりに耳の正中、ディスクの先端に内靭帯を発達させて、これがバネのように殻を開く。この内靭帯こそ、黒い「蝶番」の正体だ。

それが、みあたらない。

代わりに殻は普通の二枚貝と同様に背縁の外靭帯でとじられている。

これではバネ機能が十分には発揮されなかった、のかもしれない。

――ともあれ事実として。古生代のホタテそっくりな貝類に大型種はおらず、貝食グルメにはちょっと苦しい時代だという感想を受けた。この小さくて、やっぱりちょっとゆで卵っぽい香りがする貝を何十個も食べるのが精いっぱいである。

食堂を見回しても、ドゥンバレラやミアリナ、ポシドニアといった小さな貝の山積みがあちこちにできていた。正直、山盛りにしても全然食べた気にならないだろう。

現在なら、普通食用にされないサイズ感の貝たちである。

しかし次の瞬間、堂々たる二枚貝がテーブルに運ばれてきて驚くこととなる。


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