Supplementary materials 石炭紀の自転と気流について、ざっくりと
ーSupplementary materialsで扱う内容についてー
このコーナーでは、情報量や要求される知識量が多いために作中で<中略>とされてしまった部分や、作中で書かれたエッセイなどを掲載します。
SF考証や設定が好きな方や、石炭紀についてもっと知りたい方に向けての内容となっております。
ストーリーを早く進行させたい方は、次の話にお進みください。
――その時書いた原稿を、見てみよう。
宇宙から見た、石炭紀の惑星。
いま見えているのは、陸ひとつない、海王星のように青い星だ。
海。
それ以外があるとすれば、北と南の端に僅かに覗く、氷のみであった。
――もちろん、石炭紀の地球が海没していた、わけではない。
地球上の大陸は当時、「パンゲア」と呼ばれる一つの大陸に集まってしまっていた。
それゆえ、地球上の反対側を見れば、「陸地の全くない半球」ができてしまったのだ。
この「青い半球」をなす巨大な海洋を、パンサラッサPanthalassaという。
目を凝らせば、どこかに未知の大陸や、未知の島があるのではないか――
そんな夢は、そう簡単にはかなえられそうにない。
目の前の地球離れした星は、ただひたすらに、青い。
――ただ、雲に着目してみると、面白い。
真っ青な惑星に、どうも赤道直下には帯があり、雲の少ない一帯を挟んで、大まかには、温帯と赤道直下に雲が集中している。
木星に見られる縞模様ほどではないとはいえ――うっすらとした白い帯が、真っ青な惑星を彩っている。
こういうのを見ると、もう、わくわくが止まらない。
自然環境というのは、時折出現する――その性質を極めて端的に表した、極端な状態を観測することによって、進展してきた。
そうした、ほかの影響に惑わされない、理屈のはっきりした特例を観測し、理解することによって――一見、不可解かつ予測不可能にも見える世界の理を、人類は一つ一つ、発見してきたのだ。
私はまず、海半球からみたこの惑星に、注目してみることとした。
そこには陸のひとつもなく、純粋に地球の自転が駆動する海流と気流とが支配するのではないか――そう思ったからである。
なに、着陸までまだ、何日もあるのだ。
石炭紀の惑星は、模範的な気流に支配されている。
この「模範的な」流れといっても、なかなかイメージがつかみにくいかと思う。
かつてはこうした面まで義務教育で教えていたというけれど――まずは、まったくの初心者であることを前提として、書き進みたい。
ほんの少し、ちょっとだけでも理解になれば、あるいは、少しでも興味を持っていただければ、幸いである。
まずは鍋に入った、スープを想像してみてほしい。
むろん、宇宙船にスープは用意できない。
だから、いま思いついた、ちょうどよさそうなたとえであって、本当に成り立つのかどうかはわからないけどーー
私は日本の生まれだから、郷土料理としてミソスープなる、沈殿物のやたら入ったスープがある。ちょうど説明にはちょうどいいけれど――知らない方は、任意のスープでOK。ちょっと濁りがあると、なおいい。
ではこれを、カップの中心に熱源を置いて、暖めることを考えよう。
大気は、暖められると上昇する。
ちょうど、それは暖めたスープが沸き上がるのとよく似ている。
そして、カップの周囲にいくにつれて冷やされ、落とし込まれる。
このとき、目の前の地球を見てみよう。
海面には一切の山も陸もないにもかかわらず、赤道に沿ってもくもくと、雲が生じている。これはまさに、熱帯で暖められた、湿った空気の上昇をあらわしている。
これが、目の前の一つ目の雲の帯、赤道に沿った熱帯収束帯の、ざっくりした紹介だ。
ここには風があまりないから、船乗りからはThe Calmsといわれていた。
では――その両側に位置する、雲のない空間は、どういうものだろうか?
その前に、赤道=熱源で熱せられた空気が上昇し、高緯度=カップの縁で下降する動きに、名前を付けておきたい。この流れは、ハドレー循環という。
では――下降するのは、最も冷やされる北極や南極なのだろうか?
――いや、そうではない。
この現象の古典的なたとえとして、回転する円盤の中でピッチャーが回転する円盤上の目標に向かってボールを投げる、というものがある。ピッチャーが投げたボールは回転する円盤上で直進するが、その間に円盤は回転しているため当たらない。これを円盤状から見ると進行方向に対して見かけ上、力が働いて曲がったように見える――というものがある。
これを、コリオリの力という。しかし、好き好んで、回転する円盤の上でボールを投げてみせるピッチャーが、果たしてどの惑星に存在するだろうか??
そこで、先ほど用意したこのスープカップを使うこととしよう。
カップを中央から熱したまま、回転させてみよう。中央から沸き上がったスープの具は、外側に向かって移動するが、スープカップの回転によって横向きに曲げられていき――途中で沈んでしまうのが、見えるはずだ。
このように、回転する地球においてはハドレー循環は極域まで届かず、亜熱帯で乾いた下降気流となって、地上に降ってくるのである。
だから――亜熱帯、おおよそ30度付近には、ほとんど雲のない、ひときわ青の濃い領域ができる。これが亜熱帯高圧帯で――もしこれが陸にかかれば、そこは砂漠となってしまう。
そして、スープのたとえにおいて、「曲げられた表層の具の流れ」が熱帯~亜熱帯において高高度にみられる流れ。これは実際の地球では温度勾配とコリオリの力の影響で、亜熱帯ジェット気流になる。しかし、地上からは、カップの底を流れていて表面からはなかなか見えないものの――熱源に向かって曲げられながら向かっていく風が目立つ。それが、貿易風だ。
あと、貿易風が収束するから、熱帯収束帯は「収束帯」という。
貿易風というのは変な名前だが、これもまた、船乗りの呼び方からきている。
元々は「一定な風」として、航路や進路を示す風という意味だったともいわれる。トレードという言葉が貿易を意味すること自体、この貿易風に由来しているという話すらある。この風が帆船に、大西洋を渡る進路と推力をあたえたからだ。
このように、低緯度における地球の風は、おもに地球の受ける熱と地球の自転によって駆動されている、といえる。
なお、亜熱帯高圧帯の外側には、さらに外側に向かって流れていく流れがあるが――これはおもに気圧差によって駆動される流れだ。気温が高く空気柱の高い亜熱帯から、寒く、空気柱の低く縮こまったところに空気が落ちていくイメージ。
この流れも地球の自転によって曲げられ、西から東へ向かうので偏西風と呼ばれる。
そして両極には、冷却によって駆動される極循環がある。
さすがにこれは、現実問題としてカップに入ったミソスープでは表現しにくい。




