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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
異なる惑星ー石炭紀の地球を、宇宙から眺めると―
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<宇宙から見る、石炭紀の地球> 書くこと、伝えること



終わらない、昼とも夜ともつかない時間が、ライフカプセルを覆いつくしている。


シートというより、ベッドというほうが寧ろ的確だった。

――私が今乗っている、宇宙船のライフカプセルのことである。


シートベルトを外すと、ライフカプセルの中にふわり、と体が浮く。

そのまま、何をなすというわけでもなく、カプセルの中でくるくると回った。

配線や、口を紛らわせる程度のほんの少しのレーション、汎用通信端末、コインみたいに小さな窓――それらが、ふわふわと流れ去っていく。

3回転ほどすると栄養チューブや排尿チューブが怪しくなるので、また逆回転。


目の前を流れる石炭紀の地球は、ほとんど1日で一回転している。

青い面をなすパンサラッサと、灰色から緑のパンゲアが、両手を組んでダンスをするように。回る。


そんなとき、端末がきらりと光る。 


「どうしてる?」


アリアからだ。

彼女は隣のライフカプセルに乗っている。


「とりあえず、回ってる」

ぐるぐると回転するカプセルの内装を眺めながら。

長旅でちょっとだけ伸びた髪が、ちらちらと視界に入る。

自分の髪を自分で見るのは、何年ぶりかな。前髪がちょっと、邪魔くさい。


「回る?」


「シートベルトを外したら、回らない??」


「…窮屈で、回るどころか少し動くだけで精一杯」


機内画像が届いた。


――うん、あのシートは普通の人間には、ぴったりと体を包み込むものらしい。

足が微妙に、収まっていなかった。


「あなたは回転子(ローター)、私は固定子(ステイター)。これで発電機(ジェネレーター)ね」


スベッてる、と思いながらも、

「ただこの配線は、ベアリングに問題あるかな」


と返したところで、ハッとする。

あと数日はある。

もしたとえば、尿カテが切れたら――

と思うと、ひゅっと膀胱が寒くなって、またシートベルトをはめるのだった。


地球から、L1まで一週間。L1のゲートから抜けて、石炭紀の地球まで、また一週間。

――暇だ。もう2週間近く、このカプセルに閉じ込められている。



「ところでだけど」

「ところで?」

「もう、語れるポイント、あるんじゃない?」

「それ、自分で撮るの」

「そのためにタフカメラ持ち込んでたのかな、って」

「…出来栄えは、保証しないよ。 カメラはほんと素人だから」

――てっきり「撮られる側」だ、としか思っていなかった。

「ケイ、POV映画って、知ってる?」

「――素人が素人っぽく撮ったと装うホラー映画でしょ、ほら古典でよくある」

「そうそう。ああいうのって、品質じゃないのよ」

「そういやアリアの動画も「画面が揺れすぎる」って叔父が文句言ってた」

「そりゃ、走って逃げながらとってたりするもん。」

「それは…そうだよね」

「あと叔父さんにはAI補正をONにしてって。バチっと揺れ収まるけど、臨場感も――さよなら」


――という通信が、2日ほど前にあった。

以後、何回か試行錯誤しながら、自分なりの動画撮影を試みている。


たしかに――被写体なら、目の前にでかでかとあったし、逃げもしなかった。


ええ、石炭紀の地球そのものである。

大海がパンサラッサとして一つにまとまっているせいで、海半球には大陸が一つもない。

おかげで、気流と雲の動きが、極めて明瞭に見えた。

見事なまでに発達した熱帯収束帯の雲の帯と、これまた発達した亜熱帯高圧帯がつくる雲の空白地帯が目立ち、そこから極側には温帯低気圧が点々と、数珠繋ぎになっている。


海流もまた、この極めて単純な大陸、海洋配置の中で、シンプルな流路をとっているのであろう。


「テストテスト、マイクテスト…」

いや、違う。配信になってない。

「Hi!いま私は、石炭紀の地球に来ています!」

絶対違う。

結局―― いい冒頭が、何も思いつかなかった。


さらには、カメラの前でなにかを口に出すこと自体が怖くなって、結局出来上がったのは、随筆の朗読みたいな代物ばかりなのだった。


――あるいは、こういう心の声こそ動画に映すべきなのかもしれない、と思ったけれど、それはどうにも、心の中身を全世界放送しているようで、書き残すことはできても、映像とともに世界にばらまくことは、恐ろしくてできなかった。


結局、私にできることは、いつものように、随筆を書くことだけである。


少なくとも、退屈な宇宙船を過ごすのに、いい手段だとはわかった。

私は、ぱらぱらと、出来上がった原稿をめくって――さて、どうしたものか、と思う。

随筆やら旅行記やら小説やら自伝やら、いろいろなものが積み重なっていた。


そんな時、通信が届いた。

「どう?何かできた?」

アリアからだ――というまでもなく、いまここに連絡できる人間は、アリアしかいない。

ここは――体に触れることはできなくても、宇宙に二人きりなのだ。


「動画は取れなかったけど、こんなのが、できた」


一生封印するつもりだった、原稿も含まれていた。


「よくできてる。いいんじゃない?あなたらしくて」

「・・・そう」

「朗読して動画に使っても、いい?」

「うーん、ちょっと…恥ずかしい…かも」

私は赤面していた。

「なに赤くなってるの」

端末のカメラがここ数日ずっとONだったことに、気づく。


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