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シンモリウム類の一種A 

巻き上げられた網が、甲板に広げられていた。

そのあちこちに、魚らしき銀色や、いぶし銀が光り、中にはビトビトと跳ねているものもある。

甲板は大騒ぎだ。

漁師たちは粗目の袖網の上を歩きながら、そこに引っかかった魚を見つけては、何やら高枝切ばさみみたいなものを持って、絡まったひれはバキバキと切ってしまう。

「おらよ」

一本受け取ってみたが、クラッチつきの高枝切ばさみそのものだ。

太めの枝を切るときに使うやつ。しかし、刃がとんでもなくなまくらになっている。

「どうやって使うんですか、これ!」

「くず魚をみつけたらなぁ、こいつをこうやって、バキッとだ。網切んなよ!おめえらの旅費位すっからな。」

そういいながら、船員は魚をもぎ取るように引きちぎっては、コンテナに粗雑に放り込む。


絶対、鰭とかいろいろ、切断されてるよね。

と思ったら、真っ二つになったアカントデスの生首が転がっていて、踏んづけそうになった。

やっぱりじゃないか!


真っ二つと言っても、断面は噛み潰されたみたいに、くしゃっとなっている。

「どうせ網を切るほど切れねぇから、あんま気にせんでいいぞー、魚踏むなよ!棘が多いかんな」

という声が、背後から聞こえた。


さて、もうコンテナは満杯で、水が張られていない箱やコンテナにも平積みになっていた。

大きめの、肉付きがいいエウゲネオドゥス類などを見つけると、目の色が変わる。

たいそうなものかのように拾っては、出荷用の冷凍ラインに恭しく入れるのだった。


「…アレでいいの?」

とアリアにそっと耳打ちする。

「だって私、「1網あたり、最低コンテナ1個はサンプルにもらう」って約束したもん。それより多いし。」

「あ、なるほど」

――いや、あのぎゅうぎゅうコンテナ、絶対中身酷いことになってるでしょ。


彼らにとって混獲された魚は、あくまでゴミの一種も同然だろうし、扱いが雑なのもまあ、仕方ない。


とりわけ、コッドエンド(漁獲された魚が入る袋)の手前に設けられたネットが、すごい。

あまり気にしていなかったが、この網が2重構造になっているのだとこの時初めて気づいた。


黒々とした影が、一視界あたり何十個と引っかかっている。

30センチは軽く超えていそうな、大きめのサバくらいの魚もいた。

あれが漁獲物に混じったらと考えれば、前にネットが設けられているのは納得だ。

いわば、プロテクターとでもいえようか。


もし混入したとしたら、本来の獲物である小さな「えび」やコノドントはぐちゃぐちゃのミンチになって、商品価値を失ってしまうだろう。

さながら、ごみ受け。

くず魚に高価値の漁獲物を潰されないための。


アリアはかっかと靴音を立てながら、ぐいぐいと魚だらけの甲板を突っ込んでいく。


そして、一匹の黒いかたまりをつかみ取って、尾と首をもって、自慢げに突き出した。


「ねぇちょっとカメラカメラ!こいつ、初めて見た!」


挿絵(By みてみん)


そいつはすごく、かっこいい「さめ」だった!

黒光りするその姿は、まさに深海から抜け出してきたかのよう。

不思議なことに、黒いながらもいぶし銀のような、鈍い金属光沢を放っている。

そして、厚ぼったい眼瞼の向こうで、大きな緑色の目が爛々と輝いていた。


40,50センチくらいだろうか。

巨大なV字型の尾びれが、じつにかっこいい。


口を開けるとびっしりと、「山」の字にも似た細長い咬頭をもつ歯が、多数の列をなして並んでいた。

「たしかに、ラブカに似てる」

そう漏らすと、

「そうそう、違うグループだって言われてもやっぱり似てるよね、歯だけ!」

そうアリアは口を開けた形で、カメラの前に突き出す。

「クラドドント」

「それそれ。デナエア Denaea型っぽい。ね?」

「ね、って言われても、生で並んでる歯を見せられてもなんとも言えないよ」

「そっかー。サメは専門外だもんね」

「せ、専門外っていっても、いや、その…脊椎動物まで詳しかったら、アリアの立場ないじゃん」

「ま、そうかもだけど!」

「あーごめんごめん、所詮私は古代サメの歯を一瞥で見分けられない、現代に縛られた無脊椎動物屋ですよ」

「何言ってんの、だってこれ以外みーんな、私より強いじゃない」

「…認めなくもない、まあ。」

「また謙遜して。あー、触ってみる?」

「じゃ…お言葉に甘えて」

ぬめっとした肌。逆なでしても、一切ざらつかなかったので、一瞬どきっとした。

なんというか、遊泳性のナマズを触っているような気がしてしまったから。

「ふふーん、驚いた?驚いたでしょ?いま。そういう顔してたもん」


「えっ、いや、初めて見るグループを触って驚かないわけないでしょ、あ、あと皮歯、退化的なんだ」

「ふふーん、いい顔してた。サメっぽいけど、ツルツルのすべっすべ。サメっていうには、色々違う生き物だもの」


「ま、まあ、ギンザメの系譜だって話だっけ。クラドセラケとかもシンモリウム類だよね、昔はサメの始祖とか言われてたけど」

「あ、それね…そうかもー、って感じ。わりと解析法によって違いが出るし」

「…実物採集してきてるのに?」

「実物あるからこそよ。あっちこっちの時代からとってきてるから分子時計があんまりあてにならなかったり」

「…確かにぐちゃぐちゃになりそう。…ところでそれ、雌だよね。第一背びれも、尻びれのクラスパーもないし」

「そう。雄探さないと。でもこの網には、こいつ一匹しかいないみたい」

「ファルカトゥスに似た顔つきだし、雄の頭にはすごいフックついてたりしないかなあ」

「そうそうそれ、思ってたとこ!でも胸鰭の後端に長い突起があるでしょ?すっごく、変!」

「ヘン?」

「普通は雄にあるもの。」


引き上げられた網には、まだまだたくさんの魚が引っかかっている。

しかしその中に、同じような漆黒の「さめ」は見あたらなかった。


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