Supplementary materials 「植民計画 / 人の住める、惑星」
ーSupplementary materialsで扱う内容についてー
このコーナーでは、情報量や要求される知識量が多いために作中で<中略>とされてしまった部分や、作中で書かれたエッセイなどを掲載します。
SF考証や設定が好きな方や、石炭紀についてもっと知りたい方に向けての内容となっております。
ストーリーを早く進行させたい方は、次の話にお進みください。
その時書いた、本文を見てみよう。
過去数世紀にわたり、人類は地球圏に“閉じ込められて”きた。
火星植民までは、一応成功した。
しかし――火星は、地球生まれの人類にとって、満足できる第二の故郷にはなりえなかった。
重力は地球の0.38G、大気圧は地球の0.6%程度しかなく、宇宙線被曝量は地表でも地球の数百倍。火星のどこにも、自由で開かれた土地などなかった。
テラフォーミングには気の遠くなるほどの年月がかかるとわかった。
居住できるのは、分厚い遮蔽板に囲まれた地下都市だけ。
息をするにも空気税がかかり、一見フレンドリーなAIが言論統制する世界。
火星には、自然がない。
いくら鉱産資源の輸出で火星が富み栄えても、そこにあるのは人の作ったものだけである。
その外に、人の住める場も、自由も、なかった。
――そんな火星植民者たちにとって、望遠鏡で見える地球は、「資源こそないが、自由な青い星」であり、憧れの的となり、次第に国力を増すにつれ、領土的野心の対象となった。
彼ら火星人<Martian>が、次第に戦闘的な<Martial>存在になっていったのは、決して歴史の偶然ではない。
火星はかつてから争いを象徴する地として描かれてきた――それは、遥か未来を予言していたのかもしれない。火星宇宙艦隊、さらには誘星爆弾(IPGM:InterPlanetary Guided Meteor)の配備は、火星資源に頼るほかない地球との長い冷戦状態を引き起こした。
この冷戦は、そもそもをただすと火星が地球の代わりとなるような人類の安住の地になりえなかったことに原因がある。火星は――人の住む場所ではなかったのだ。
太陽系に、人類の安住できる惑星は――ついぞ、なかった。
それは、わかりきった事実でありながら、極めて残酷である。
人は、見えたものを、うらやましく思い、欲しがるらしい。
観測法の進化により地球型の居住可能な系外惑星がいくつも見つかるようになると、それを目指す有人探査計画が幾度となくたてられた。
しかし――光速の数%にすら到達できない現行の推進機関では、最寄りの恒星系までも数千年以上を要する。内部で世代交代を繰り返しながら航行する案が立てられたが、スペースコロニー内ですら平和を維持できなかった人類に、それが不可能であることは自明である。
人類の遺伝子データを搭載した自己増殖型播種船“Sperma Prolifera”――資源採掘可能な小惑星を自動探索して船体を増やしながら宇宙の彼方へと地球型惑星を求めて旅立っていく、機械生命体的播種船――が送り出されて、もう2世紀ほどが経つ。
しかし、太陽系を離れるまでに数億個まで増殖した“種”がどこかに根付く日がくるとしても――それは、おそらく地球の人類が滅んだ後になるだろう。
人は、太陽系から出ることができない。
この閉塞に対し、まさに人類の存亡をかけた「地球脱出」のための大事業が始まった。
超時空ゲートの建設にかけられた時間は、ゆうに千年以上。
数多の人が、その実現を信じられないまま、生き、働かされ、そして、死んでいった。




