ペタロドゥス類(ペタロダス目)のこと
前回は、奇怪な魚を紹介しました。
見るからに異常な軟骨魚類である、ペタロドゥス類です。
見るものをギョッとさせるその形態は、代表的な種で多くの標本が知られているベラントセアBelantseaをもとによく知られており、一般向けの図鑑にもしばしば掲載されています。今回は、この奇妙な軟骨魚類であるペタロドゥス類について解説していこうと思います。
ペタロドゥス類は、現在のサメやエイよりもギンザメに近縁な魚であったと考えられています。現在生きている軟骨魚類では、サメやエイの仲間を板鰓亜綱(Elasmobranchii)といい、ギンザメの仲間を全頭亜綱(Holocephali)といいますが、ペタロドゥス類は(サメやエイより)ギンザメに繋がる系譜から枝分かれした絶滅グループ、つまりステムグループ全頭類ということです。これをステム全頭類と本文では書きます。なお、トータル全頭類(ステム全頭類+ギンザメ類)の同義語は真軟頭亜綱Euchondrocephali、および全頭類(広義)です。全頭類の定義や内部での系統関係は未解明な部分が多く、非常にややこしいので、ペタロドゥス類は現生全頭類のステムグループである、という形で理解するのが最もすっきりした形でしょう。
広義全頭類にはギンザメ類Chimeriiformesのほかにもペタロドゥス類Petalodontiformes、ヘロドゥス類Helodontiformes、オロドゥス類Orodontiformes、デベーリウス類Debeeriiformes、イニオプテリクス類 Iniopterygiformes、コンドレンケリス類Chondrenchelyiformes、コクリオドゥス類Cochliodontiformes、メナスピス類Menaspiformes、エウゲネオドゥス類Eugeneodontiformesなどが含まれます。
さらに、シンモリウム類Symmoriiformesなどを含むとする見解もあります。
そして重要なことに、こうしたステム全頭類の多くが、現在のギンザメとは似ても似つかない姿をしていました。オロドゥス類やエウゲネオドゥス類(ヘリコプリオンなどで有名)はサメのような流線形ですし、コンドレンケリス類はウナギやギンポに似た細長い形態です。メナスピス類やイニオプテリクス類、ペタロドゥス類などは、なかなか形容が難しい、珍妙な姿をしています。これらのグループの多くが、石炭紀からペルム紀からしか知られていません。デボン紀にまたがるコクリオドゥス類や、前期三畳紀にまたがるエウゲネオドゥス類などの例外もありますが、多様性の中心は石炭紀~ペルム紀、とくに石炭紀にあったことは疑いようがありません。石炭紀はステム全頭類の時代、といっても過言ではないほどです。
サメやエイの仲間などの板鰓類と比べたとき、全頭類において特に目立つ特徴として、歯の更新が少ないことが挙げられます。現生のサメ類は歯を頻回に交換することで知られていますが、全頭類においては生え変わりが通常遅く、ヘリコプリオンではロール状に巻いたまま保持されますし、現生のギンザメにいたっては一枚の板のように癒合した歯板が上顎に2対、下顎に1対並んでいるだけで、一生歯が生え変わりません。歯の交換がみられる種もありますが、そうしたものでもその回数は減少していたようです。そのため、長く使い続けられるように特殊な象牙質およびエナメロイドを発達させた例が多く見られます。歯の交換回数だけでなく、個数が著しく減少するものが多いことも特徴的と言えるでしょう。歯の根元が癒合して歯輪を作ったり、生える部位によって歯の形態が変化する場合もあります。生え変わりがほとんどない歯を大事に使う、というのがこのグループの性質で、異歯性が発達することからは、少し哺乳類の歯を思わせる面もあります。
なお、現生全頭類にみられる鰓蓋や、「全頭類」の所以となっている神経頭蓋に癒合した口蓋方形骨(軟骨魚類で言うところの「上顎」)は、必ずしもすべてのステム全頭類に当てはまるわけでもないようです。(諸説あります。)
さて、そろそろステム全頭類の概観から、今回紹介するペタロドゥス類に焦点をうつしていきましょう。
ペタロドゥス類はもともと、先が切れ込んだしゃもじのようで、独特な、横から見るとS字型の形態をもつ歯から知られるようになったグループです。その結果、歯の概形はスプーンに似ています。歯は体に対して比較的大きめで、口の中の位置によって歯の形が異なる異歯性を持つものも知られています。たとえばNetsepoyeなどでは上顎の3本、下顎の正中の歯が1本だけ極端に大きくなり、後方の歯は噛み砕く用途に特化しています。Fissodopsisでは上下の正中1本のみが発達し、残りは噛み砕く用途に特化しています。こうしたペタロドゥス類の歯は、石炭紀からペルム紀にかけては比較的ありふれたものでした。
日本からも産出があり、2025年12月現在国立科学博物館で開催中の「大絶滅展」にも岐阜県高山市から産出した標本が展示され、ヒトの前歯にもほんの少し似た、奇妙な形態を見ることができます。
ペタロドゥス類はこの歯で硬い餌をかみ砕いていたと考えられています。このことは石炭紀がウミユリ類に棘状の武装が発達したものが増えた時代であることや、二枚貝の産出が段々と増えていく時代であることとも、ある程度の関係があるかもしれません。
さて、全身に目を移しましょう。
現在、日本では非常に幸いなことに、東京の国立科学博物館にヤナッサJanassaが、同じく東京の城西大学水田記念博物館大石化石ギャラリーにベラントセアBelantseaの全身を保存した標本が展示されています。
現在、全身を保存したペタロドゥス類の化石は(複数個体が知られているものだと)JanassaとBelantseaくらいしか見つかっていないので、東京23区内でその代表例の両方を、全身を保存した形で観察できるいまの日本の状況は、ものすごく恵まれています。
目はかなり大きかったようです。顎はギンザメによく似た、全頭類らしい単純化したもので、口蓋方形骨と癒合した神経頭蓋、および下顎、顎の両側にあるLabial cartilageからなります。頭部の下、非常に発達した胸鰭のあいだには鰓がありました。ペタロドゥス類は鰓が縮小して神経頭蓋の下に入り、鰓蓋に囲まれた構造になっていたようです。この状態は現生のギンザメに見られるものとよく似ています。
背鰭は第一背鰭と第二背鰭からなり、いずれも棘を持ちません。
ペタロドゥス類の非常に印象的な特徴として、丸く巨大な胸鰭が挙げられます。この胸鰭は波状に動かして海底を這い回るために用いられたようです(Lund et al., 2014)。いっぽうで、広域に分布することから少なくともPetalodusに関しては活発に遊泳できたのではないかとする説もあります(Gai et al., 2021)。
Belantsea、Netsepoye、Obruchevodusなどでは体は比較的縦に平たく、胸鰭で“歩いて”いたと考えられていますが、Janassaではエイのように全体がやや平たくなっていたようです。腹鰭も発達しており、一部の種では後方に細長く伸長する部分を持つものもあります。尾鰭はありますが退化的です。
これらのことから、ペタロドゥス類は遊泳するというよりも発達した胸鰭で海底を這い回り、硬い獲物をかみ砕いていたと考えられています。歯列にはかなりの多様性があることからして、種類によって餌を食べ分けていた可能性もあります(Hodnett et al., 2024)。現在のカサゴ類の一部やカエルアンコウの仲間が胸鰭と腹びれを使って体を引きずるように動くことや、生態としてはモンガラカワハギやブダイ類などのかみ砕く歯を持つ魚に少し似ているかもしれませんが、このような匍匐しながら生活する破砕型の歯を持つ魚は、現生種ではぱっとは思い当たりません。
Lund, R., Grogan, E. D., & Fath, M. (2014). On the relationships of the Petalodontiformes (Chondrichthyes). Paleontological Journal, 48(9), 1015-1029.
Hodnett, J. P. M., Egli, H. C., Toomey, R., Olson, R., Tolleson, K., Boldon, R., ... & Santucci, V. L. (2024). Obruchevodid petalodonts (Chondrichthyes, Petalodontiformes, Obruchevodidae) from the Middle Mississippian (Viséan) Joppa Member of the Ste. Genevieve Formation at Mammoth Cave National Park, Kentucky USA. Journal of Paleontology, 98(6), 1087-1097.
Gai, Z., Bai, Z., Lin, X., Meng, X., & Zhang, J. (2021). First Record of Petalodus Owen, 1840 (Chondrichthyes, Petalodontidae) in the Lower Permian (Cisuralian) of China. Acta Geologica Sinica‐English Edition, 95(4), 1057-1064.




