ー描写を支える科学的背景ー座ヒトデ類(Edrioasteroid)、とくにイソロフィダ目についてー
古生代の棘皮動物というと、どうしてもウミユリ類を想像される方が多いかと思われます。その時代の広汎さ、産出数の多さ、その大きさからして、そのような評価になることも仕方ないことでしょう。しかし、古生代には現代のどの棘皮動物にも当てはまらない棘皮動物のグループがありました。そうしたグループの多くはカンブリア紀後期やオルドビス紀末などの絶滅イベントで姿を消していましたが、石炭紀にいたるまでそれなりの存在感を持っていたものもありました。
それが今回紹介する、座ヒトデ類(Edrioasteroid)です。
あくまで個人の意見ですが、座ヒトデ類は古生代の海産動物の中でも、屈指のかわいらしい生き物であると思います。骨片が集まって饅頭状の殻をなした上に、五芒星様の歩帯が裏返しにしたヒトデを載せたように見られるさまは、まさにお菓子のような愛らしさとデザインセンスを感じます。
この通常はドーム状の殻はその底面に見られる大型の骨片である周辺帯を介して石や殻などにくっついていたようですが、これがいったいどのようにくっついていたのかはいまひとつはっきりしません。ただし、保存されている化石の多くは基質にくっついたまま保存されています。というよりも、座ヒトデは骨片が関節した状態でないと同定することができず、骨片が関節した状態で保存されるためには急速な埋没が必要
ということのようです。その数は過小評価されているかもしれません。
体の大部分を占める殻は、多数の骨片からなるドーム状の鎧をなしています。
作中でも述べましたが、その様子は一見すると現生のジンガサウニにやや似ています。デボン紀からは潮間帯において座ヒトデ類が優占する産状を示す例があり、古生代の生物で潮間帯からの明らかな記録があるごくわずかな例の一つと言えるでしょう(Cornell et al., 2003)。石炭紀~ペルム紀にかけて座ヒトデ類は衰退していったようですが、後期石炭紀の時点では座ヒトデ類ばかり見つかる産地もあるなど、一概に衰退していたというわけでもありません(Sumrall et al., 2006)。
石炭紀~ペルム紀から知られている座ヒトデ類はいまのところ、すべてイソロフィダ目Isorophidaに属するようです。本稿では主に、イソロフィダ目について扱います。
これらは、大きく3つの形態に集約されます。(Sumrall, 1993; 1996)
①低いドーム状の殻をもつもの
②高いドーム状の殻および、短く、引き伸ばし可能な(pyrgate)基部を持つもの
③ディスク状の殻とこん棒状の長く引き伸ばし可能な(clavate)基部をもつもの
の3つです(Sumrall, 1990; 1996)。
(*Peduncleという表現をSumrallは用いていますが、殻の基部に相当する構造であり、ウミユリ類などの柄部と混同を招くためにここでは基部と訳しました。)
この3つの形態は、ドーム状の殻の基部がどれだけ引き延ばされているかによります。②は基部が拡大せず、上部だけが大きくなったような形態、③は②の基部が伸長した形態と言えるでしょう。
座ヒトデ類はどうやら一度固着すると、ほとんど自力では動くことができない生物であったようです。但し、基部がある程度伸縮したようであることや、イソロフィダ目Isorophidaでは骨板が屋根瓦のように重なることから、くっついたままある程度の変形はできたのかもしれません。
固着構造について。
イソロフィダ目 Isorophidaにおいては大型の骨板によって囲まれた周辺帯(Marginal rim)が吸着構造として知られています。これらの吸着構造がどのようにくっついていたかはよくわかっていません。少なくとも、岩石などとの間に石灰化した固着が見られないことから、接着剤のような、保存に残りにくい物質でくっついていたのかもしれません(Parsley& Prokop, 2004)。殻の底部ではふつう骨片を欠いていますが、これももしかすると関与しているのかもしれません。
但し、本当にまったく動けなかったのかについては議論もあります。
さて、殻を真上から見ると、円形の殻の中央に口があり、そこから放射状に5本の溝が走っています。この溝の底をFlooring plates、蓋をするように左右からCover platesが覆っており、その間から孔を介して管足が出る構造となっています。この歩帯は一見するとヒトデ類をちょうど逆さまにして括りつけたような恰好になっており、かつてはヒトデ類の祖先であるとの説が提唱されていたものの(Smith et al., 1990)、現在ではあまり支持されていないようです。
さて、この5本の歩帯はよく見ると5放射構造にはなっておらず、以下に描くような形態になっています。A~Eは各歩帯をあらわします。
A
|
D,E >― 口 ―<B, C
(肛門・水孔・生殖孔)
つまり、口―肛門を軸にすると3放射状になっており、左右の枝が基部で分岐することで疑似的な5放射構造をなしています。この放射構造は種類によって湾曲に差があり、Giganticlavusのような見事な渦巻き状を示すものから、まっすぐなものまであります。また、イソロフィダ目においては蓋板が互い違いにジッパーのように向き合う構造となっています。これは歩帯を開閉する構造であったとみなされます。
―作中での描写への反映―
潮間帯の岩場は保存されにくい環境のため、どのような生物が確認されるかはかなり想像を巡らせる必要があります。潮間帯の確実な化石証拠のあるイソロフィダ目の歩帯を閉鎖する能力は、乾燥耐性をある程度もたらしたことと思われます。固着性のプランクトンフィーダーとしては、現生の蔓脚類に似たニッチを占めていたはずです。よって、柄付きのようにみえるタイプはカメノテのようなもの、柄なしタイプはフジツボのようなものを現在の類似物として仮定しました。
そして、乾燥耐性のためであるならばできるだけ表面積が小さいほうが適応しやすいだろう、ということで柄のないドーム状の群を選定しました。
次に、柔軟性について、瓦状の骨片やファスナーを思わせる蓋板は柔軟に動かねばならず、キャッチ結合組織による可動性と硬化性により駆動されたと仮定しました。現在の棘皮動物を見る限りではかなり無難な類推であろうと思います。歩帯をオレンジ色としたのは、現生棘皮動物においてはヒトデ類をはじめとしてカロテノイドによるオレンジ色を帯びるものが多いためです。
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