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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
海洋編(1)石炭紀で磯遊び
188/230

-描写を支える科学的背景-棘皮動物の初期進化について-

2025年12月現在、上野の国立科学博物館でとんでもない企画展がやっております。「大絶滅展」と題されているこれは、こと古生代の無脊椎動物に関しては世界的に類を見ない展示の完成度、標本の充実度を誇っております。


さて、展示の中でもとりわけ、マニアックでとっつきにくい、と感じがちなのが、棘皮動物の初期系統だったのではないかと思います。

本作でも原始的な棘皮動物を扱うので、次のエピソードに入る前にまずは棘皮動物を俯瞰してみます。展示を見るときの助けになれば幸いです。

なお、最初に書いておきますが、筆者は「大絶滅展」の展示企画にかかわっているわけではなく、また、利益相反もないことを最初に述べておきます。

「大絶滅展」のファンレターだと思っていただければ幸いです。


さて、棘皮動物の各グループの系統的な対応関係はかなり手を付けにくいのですが、まずは少しでもとっつきやすくするための解説を行ってみます。

棘皮動物はふつう、半索動物(ギボシムシや筆石など)に近縁とされ、両者をまとめて水腔動物Ambulaculariaということもあります。この両者は幼生の形態が似ていることや、3体腔性を特徴とします。


この水腔動物=(半索動物+棘皮動物)は、脊索動物(ナメクジウオやホヤや脊椎動物)の姉妹群と考えられています。両者を合わせて、後口動物 Deuterostomiaといいます。


いきなり少し脱線しますが、しばしばカンブリア紀の浮遊性ナマコとして紹介されるエルドニアなどのカンブロエルニダは水腔動物のステムグループにあたるので、脊索動物よりは(棘皮動物+半索動物)の系譜に属するものの、現存する棘皮動物および半索動物の系譜には属さない、ということになります。


では、棘皮動物の話にうつりましょう。

棘皮動物に最も近縁な半索動物は左右相称であり、また化石記録においても最初期の棘皮動物は五放射相称ではなく、左右相称にかなり近い形態が見られます。また、棘皮動物の幼生は左右相称で、半索動物によく似ています。

Rahman & Zamora(2024)の総説をみると、おおむね左右相称の祖先から、現代の棘皮動物にいたるまでの間に、大きく7つのステップがあったとしています。


これを順番に見ていきましょう。

① 網目状の構造(Stereom)をもつ、高マグネシウム方解石の骨片をもつ

―Ctenoimbricata

((ほぼ左右相称な体。前端に口の左右に並ぶ骨片、後端に肛門を構成する骨片)

―クテノシストイド類 

(ほぼ左右相称な体。前端に口を囲む骨片、後端に肛門を構成する骨片)

*「大絶滅展」にてクテノシスティス Ctenocystisが展示中!

② 左右の著しい非対称性(例:現生種では左側のみの第二胚葉から水管系が発達していることが知られている)

―Cinctans

(左右非対称、口は前端の右側、肛門を構成する骨片は前端付近の右側。左側優位の溝があり、そこに左側優位の水管系があったと考えられる。後部には尾状の器官をもつ。)

③ 蓋板および床板からなる、歩帯(水管の出る帯状の部分)の獲得

―ソルータSolutes 

(左右非対称、口は左側前方にあり、その基部に歩帯を備えた腕の基部、肛門は左後方、右後部には茎ないし尾状の器官をもつ。)

*「大絶滅展」にてデンドロシスティス Dendrocystisが展示中!

  ―スティロフォラStylophorans

  (左右非対称、後方から伸びる細長い付属器官の根元に口を持つ。)

  (ここではこの付属器官を、歩帯を備えた腕として解釈する見解をとる。)

  *「大絶滅展」にてソラリシスティス Thoralicystisが展示中!


④ らせん状に配置された、分岐した歩帯をもつ

  ―螺板類 

  *「大絶滅展」にてヘリコプラカスHelicoplacusが展示中!

⑤ らせん状に配置された、5放射様の歩帯をもつ 

  ―ヘリコシスティス Helicocystis

  *「大絶滅展」にてヘリコシスティス Helicocystisが展示中!

⑥ 五放射様(3放射のうち左右が2叉に分かれる)、前後軸の短縮

  ―エオクリノイド類、ウミユリ類など…

  (多くは柄で固着し、腕を持つ。腕はふつう、歩帯を持つとされる。)

  ―座ヒトデ類 

   (腕を持たず、饅頭状の殻の中心にある口を中心として、5放射様の歩帯が溝のように刻まれる。     

    柄ははっきりしないものが多いが、柄状の部分をもつものはいる。)

   *「大絶滅展」にてスピナディスカス Spinadiscusが展示中!

⑦真の五放射相称の獲得 (および上下の逆転と自由生活性への移行*筆者追記。)

  ―ウニ類・ナマコ類およびその類縁 

  *「大絶滅展」にてパレオククマリア Paleocucumariaが展示中!

  ―ヒトデ類・クモヒトデ類およびその類縁

  *「大絶滅展」にてLorioraster, Helianthaster, Cheiropterasterなど展示中!

といったところになります。

古生代によく見られるウミユリ、ウミツボミ、ウミリンゴなどのグループに関しては省略しました。

(これらに関してはウミユリ類などの解説編で紹介しましょう。)


さて、棘皮動物の初期系統においても、カンブリア紀前期の突如の多グループの化石出現とその後の淘汰というパターンが見られます。

カンブリア紀の時点でCtenoimbricata、クテノシストイド類、螺板類、Helicocystis、ソルータ類、スティロフォラ類、エオクリノイド類、座ヒトデ類が出そろっています。現時点で最古の棘皮動物は澄江生物群から知られる座ヒトデ類のSprinkleoglobus extenuatusです。

カンブリア紀シリーズ2ステージ3からは他にも、澄江生物群よりわずかに若いとみられるアメリカのPoleta formationから知られるヘリコプラコイド類、およびモロッコやスペインから知られるエオクリノイド類が知られています。

バージェス頁岩型生物群が見つかり始めるカンブリア紀シリーズ2ステージ3には上記に挙げた初期進化のうち、少なくともステップ⑥までは達成していたことがわかります。

(シリーズ1ステージ1-2には全く化石記録がないのにシリーズ2ステージ3になって突然多様なグループが産出しだすのは節足動物と同様です。)


左右対称のクテノシストイド類や、らせん状の螺板類といったグループは後期カンブリア紀には絶滅してしまったようで、前後軸がはっきりしたソルータ類やスティロフォラ類もデボン紀までにはほとんどの種が姿を消します。

例外的に、スティロフォラ類のJaekelocarpus oklahomensisが後期石炭紀にみられ、これが五放射相称および五放射相称らしきもの(分岐した3放射)を示さない棘皮動物の最後の例です。


したがって、時代ごとに見られるグループは概ね、以下のようになります。

カンブリア紀

Ctenoimbricata、クテノシストイド類、螺板類、Helicocystis、ソルータ類、スティロフォラ類、エオクリノイド類、座ヒトデ類


オルドビス紀

ソルータ類、スティロフォラ類、ウミユリ類様の諸群、座ヒトデ類、サイクロシストイド類、ヒトデ類、クモヒトデ類、ウニ類


シルル紀~デボン紀

ソルータ類、スティロフォラ類、ウミユリ類様の諸群、座ヒトデ類、サイクロシストイド類、ヒトデ類、クモヒトデ類、ウニ類、ナマコ類


石炭紀

スティロフォラ類、ウミユリ類様の諸群、座ヒトデ類、サイクロシストイド類(前期まで)、ヒトデ類、クモヒトデ類、ウニ類、ナマコ類


ペルム紀

ウミユリ類、座ヒトデ類、ヒトデ類、クモヒトデ類、ウニ類、ナマコ類


さて、少しは助けになりましたでしょうか…。

あくまで、非常にとっつきにくい棘皮動物を知るための補助としてお使いいただければ幸いです。


(って小説の作中解説から完全に乖離してるなこれ。)

つまり

後期石炭紀にみられる棘皮動物の中では、スティロフォラ類、座ヒトデ類、あとはウミユリ的なものが古生代らしいメンツで、ウニやヒトデやクモヒトデやナマコは既に出そろっている、ということです。


さて、現生棘皮動物の特徴として下記のようなものが挙げられます。

・左右相称の幼生から発生する五放射のボディプラン

・左側の第二体腔に由来する水管系

・神経刺激で硬さを急速に可変できるキャッチ結合組織の存在

・微細な網目構造(Stereom)をもつ高マグネシウム方解石からなる内骨格

作中ではこれらの達成を少なくともステージ⑥までに達成したと仮定しました。

螺板類の体制もキャッチ結合組織のようなものを考えたほうがよさそうに思いますし、左右相称の幼生から発生することも反復説的に納得がいきやすいです(反復説を妄信してはいけないのだけど)。


というわけでおまけ程度の作中要素解説でした、以上!

(次回、座ヒトデ解説回です。)

*ステムグループ・・・ある現生グループAと、それに最も近縁な現生グループBをあらわす、絶滅種を含んだ系統樹を考える。

このとき、現生グループAとBの共通祖先からAとBが分岐してから、現生グループAの現生する構成種の共通祖先が分岐する間に領域が存在する。ここにあたる種を、ステムグループという。

具体的には、最も近縁なグループBよりも、ある現生グループAの系譜に属するものの、現生するグループAの構成員の共通祖先を祖先に持たないものを指す。

ステムグループは、現生するあらゆる分類群に対して定義することができる。

例えば、トリケラトプスは鳥のステムグループであるし、ディメトロドンは哺乳類のステムグループということができる。トリケラトプスに翼が生えていないように、ステムグループには現生グループを定義づけるような形質を欠いていることも多い。なお、現生グループAの現生する構成員の共通祖先から分岐した群をクラウングループ、再近縁な現生グループBよりも現生グループAの系譜に属する群をトータルグループもしくはパングループと呼ぶ。

トータルグループークラウングループ=ステムグループの関係が成り立つ。


Rahman, I. A., & Zamora, S. (2024). Origin and early evolution of echinoderms. Annual Review of Earth and Planetary Sciences, 52.

Zhao, J., Rahman, I. A., Zamora, S., Chen, A., & Cong, P. (2022). The first edrioasteroid echinoderm from the lower Cambrian Chengjiang biota of Yunnan Province, China. Papers in Palaeontology, 8(4), e1465.

Kolata, D. R., Frest, T. J., & Mapes, R. H. (1991). The youngest carpoid: occurrence, affinities, and life mode of a Pennsylvanian (Morrowan) mitrate from Oklahoma. Journal of Paleontology, 65(5), 844-855.


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