描写を支える科学的背景 アカントーデス、あかんそーです。
Acanthodesの復元をガチったら、ChatGPT5.1 thinkingにダメ出しされました。
どうも、あかんそーです。
アカンソーデスだし、なんつって。
ラテン語的にはアカントーデスと読むべきですが、英語圏ではアカンソーデスって読みますよね。割と、どっちでもいいんですが。
というわけで意外に思われるかもしれない、Acanthodesの奇妙な特徴について、ChatGPTが騙された4点に絞って解説を行います。
まあ、ここおもしろいよね、というところすべてに引っかかってくれたので狙い通りではあるのですが…本当の間違いを1つくらい見つけ出してほしかったな。
やはりまだ、AIは常識を疑うことに弱いです。
この常識はずれな4点こそが棘魚類の中でAcanthodesをAcanthodesたらしめるのですが…。
1.なぜ棘魚類にもかかわらず、鰓蓋がなく鰓裂が並ぶように描いたのか
棘魚類は教科書的には、鰓蓋が鰓の全体を覆うように描かれ、多くの復元図がそれを踏襲しています。ところが筆者は、知ったうえで敢えてこれを外しました。ClimatiusやPtomacanthusなどの棘魚類ならともかく、ことAcanthodesについてこの解釈は状況証拠に合致しないうえに、ここ数年の情勢を見るとむしろAcanthodesに鰓蓋を描く方が危険な解釈であると判断したためです。
まず、棘魚類とはいったいなんぞやという話からすべきだと思います。
棘魚類は顎を持つ脊椎動物の極めて原始的なもので、非常に多系統なものと考えられています。どちらかといえば軟骨魚類に近いのではないかと言われていますが、本当にすべての棘魚類が硬骨魚類より軟骨魚類に近い系譜(つまりステム軟骨魚類)と言えるのかどうかには、やや疑問を挟む余地があるかもしれません。
しかしながら、どうもステム軟骨魚類である、と言っていいらしい――というのが2020年代の趨勢です。
さて、ステム軟骨魚類であるという説が一般化しながら、Acanthodesはじめ棘魚類の復元には大きな鰓蓋が描かれるのが常です。鰓蓋があるほうが原始的な形質である、とする説は有力ですし、少なくとも一部の棘魚類には鰓蓋のように見える構造があるというのもまたそうなのですが、Acanthodesに一般化できるかというと話は別なのです。
そもそも、数百点以上の全身を保存したAcanthodesの標本が知られる中で、自信をもってこれが鰓蓋であるといえる構造を図示した研究者が誰もいないことは、棘魚類の系統コーディングの上で問題になっています。(Davis et al., 2012 Supplementary materials)Acanthodesに骨性の鰓蓋があるということを示すにあたっても、Watson(1937)を引用したうえで(although much reduced)と書かざるを得ない状況にあります(Dearden et al., 2018)。
そもそも棘魚類に鰓蓋があるという出典の多くに挙げられているMiles (1973)を見てみると、クリマティウスClimatiusなどにおける皮骨状のタイル状構造(Mandibular raysやBranchiostegal raysと呼ばれる)を鰓蓋として復元するいっぽうで復元図ではその後方に続く鰓孔を描いており、単一の鰓蓋に鰓が覆われるように描いていません。さらに前、棘魚類に鰓蓋があるという認識を一般化させたWatson (1937)でもほかの棘魚類に関しては鰓蓋で全体が覆われると解釈していますが、Acanthodesに関してはMandibular raysは縮小していて、鰓弓の遥か前方を覆うのみとなっています。
さてこの組織がそもそも皮骨状なのか、という点に関しても疑問符がつくところで、先に挙げたDavisらはこの組織が実は内骨格性であるとしたものの明らかな証拠を示せているわけではありません。(Burrow et al., 2016 Supplementary materials)ただし、そもそも鰓蓋に相当するようなものを示すことができないということがDavisが示した問題です。すくなくともAcanthodesにおいては大きな一枚の、舌骨弓が支える鰓蓋を指示する証拠がそもそも見当たらず、軟部組織も各鰓裂ごとのフラップと解釈するべきだろう、ということになります。
さらに、2025年に入ってAcanthodes頭部の3DCTスキャンによる詳細な骨学記載がなされました。ここでは鰓蓋を支える細い構造とWatson, 1937以来長らくみなされていた構造を、Hyoid/Gular raysとみなしていて、下顎から喉にいたる口腔底~顎の底を裏打ちする細い条としています。
Acanthodesに少なくとも骨性の鰓蓋がないことは確定したとみなしていいでしょう。骨に裏打ちされない軟質の鰓蓋にしても、そもそも証拠がないものをあると仮定するほうが論理的でなく、軟質の広汎な鰓蓋の印象がAcanthodesおよび、ほかの棘魚類に見られたとする証拠も知る限りはありません。
2.斬新な変形について
Acanthodesの顎がダイナミックに変形する様子を作中で描きました。これはDearden et al. (2025)の復元および、3Dデータをもとに復元されたアニメーション(Dearden et al., 2025 Fig. 12)をもとにしています。この復元では開口時に下顎は単純に下に開くのではなく、顎全体が側方に広がります。神経頭蓋と2点で関節した口蓋方形軟骨(軟骨魚類で言う上顎に主に相当する軟骨)が外側に広がり、そのうえでメッケル軟骨(軟骨魚類でいう下顎に主に相当する軟骨)が側方に広がりながら開口します。
つまり上顎と下顎が同時に外転しながら口を開き、ただ下向きに開く構造ではないのです。結果として、まるでハンマーヘッドのように上から見た頭が側方に膨張、変形します。=が⇒になるような形です。そして各鰓弓に配置された鰓把が長い咽頭の全体にわたって延びます。(Dearden et al., 2025.)Fig.12では図示されていませんが、さらに配置からすればHyoid/Gular rays(かつて鰓蓋とみなされたもの)が蛇腹状に広がったと思われます。蛇腹状に広がるかどうかのみ、筆者の解釈ですが、Fig. 10を参照すればそのように考えざるを得ないです。
なお、この復元は軟骨の柔軟性による変形可能性を考慮していないので、可動域はさらに広い可能性もあることは論文中にも述べられています。
図示されたものでは側方での拡張は1.67倍。
小説中の目測なら2倍ほども、と言ってしまってもセーフな範囲だと判断しました。
3. 鱗が後方だけ?
つぎに、鱗が後方だけってどういうことよ、という話についてです。
作中で描いたAcanthodesが幼魚であることを象徴させるための描写でした。これはAcanthodesの幼体では前方の鱗が欠如し、成長とともに前方まで鱗が分布するようになるという観察をベースにしています(Beznosov, 2009; 2017)。さらに同様の鱗の発生パターンはデボン紀のTriazeugacanthusにもみられ、棘魚類で少なくとも一部には共有されていたようです。
内部まで見えていれば、脊柱の骨化の話などもできるのですが、外見から見て幼体か成体か判断できる特徴は、Acanthodesの非常においしいポイントといえます。
4.腹びれが一枚?
これはAcanthodesの極めて重要な特徴です。(Beznosov, 2009)腹びれに相当する棘がなぜか本当に一本しかないことはAcanthodidaeの極めて重要なポイントです。石炭紀のAcanthodidaeである→Acanthodesだよね、ということもまた言えます。
これら4点を間違いですと指摘されても困ってしまいます。
なにせ、棘魚類の中でAcanthodesの際立った特徴といえば、(あるかどうかすら怪しい)鰓蓋に覆えそうにないほどやたら長い咽頭(おそらく大胆な頭部の変形と濾過摂食に伴い進化したと考えられる)と、1枚しかない腹びれなのですから。
おまけ。
Acanthodesは海成層からもしばしば産出があり、淡水性と必ずしもは言えないです。
石炭紀の魚類は広塩性のものが多かったようで、同じく淡水性と語られがちなパレオニスクス類も海域からも出ています。石炭紀~ペルム紀の棘魚類の良好な化石記録が淡水に偏っているのは、サメやギンザメといった軟骨魚類の大きく頑丈な歯ほど良好な保存特性を備えていないことによる保存バイアスの面が大きいと思われます。(Schnetz et al., 2022)
引用文献
Beznosov, P. (2009). A redescription of the Early Carboniferous acanthodian Acanthodes lopatini Rohon, 1889. Acta Zoologica, 90, 183-193.
Beznosov, P. A. (2017). Ontogeny of the early Carboniferous acanthodian Acanthodes lopatini Rohon. Paleontological Journal, 51(7), 746-756.
Burrow, C., den Blaauwen, J., Newman, M., Lodge, V., & Davidson, R. (2016). The diplacanthid fishes (Acanthodii, Diplacanthiformes, Diplacanthidae) from the Middle Devonian of Scotland.
Davis, S. P., Finarelli, J. A., & Coates, M. I. (2012). Acanthodes and shark-like conditions in the last common ancestor of modern gnathostomes. Nature, 486(7402), 247-250.
Dearden, R. P., Stockey, C., & Brazeau, M. D. (2019). The pharynx of the stem-chondrichthyan Ptomacanthus and the early evolution of the gnathostome gill skeleton. Nature Communications, 10(1), 2050.
Dearden, R. P., Herrel, A., & Pradel, A. (2025). The pharynx of the iconic stem-group chondrichthyan Acanthodes Agassiz, 1833 revisited with micro-computed tomography. Zoological Journal of the Linnean Society, 203(2), zlae058.
Miles, R. S. in Interrelationships of fishes (eds Greenwood, P., Miles, R. S. & Patterson, C.) 63–103 (London, Zoological Journal of the Linnean Society, 1973).
Schnetz, L., Butler, R. J., Coates, M. I., & Sansom, I. J. (2022). Skeletal and soft tissue completeness of the acanthodian fossil record. Palaeontology, 65(4), e12616.
Watson, D. M. S. (1937). II-The acanthodian fishes. Philosophical Transactions of the Royal Society of London. Series B, Biological Sciences, 228(549), 49-146.




