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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
海洋編(1)石炭紀で磯遊び
182/226

―描写を支える科学的背景― 石炭紀の熱帯域における沿岸植生は?

沿岸植生、とくに海浜植生のたぐいは、化石に残ることが極めてまれと言えます。

海岸というとなんとなく乾いていてよく保存されそうですが、しかし地質学的スケールにおいては有機物はいずれ分解され、化石に残ることは湿潤な泥沼に急速に埋葬されるような場合に比べてはるかに少ないのです。

したがって、石炭紀の海を描くことは容易でも(いや容易ではありませんが)、その周囲の植生を描くことは困難を極めます。

そこで本作では、既存の石炭紀植生からイレギュラーとされる植生分画を取り出すことによって、当たらずも遠からずな石炭紀の海浜植生を考えることとしました。

海浜性植物はとくに乾燥地適応が強い、沈み込み埋もれたような気孔や分厚い葉を持つことが多いので、ある程度の見当はつけられるはずです。


石炭紀の植生を大きく分けると、小葉植物(リンボク類など)、コルダイテス類、ワルキア類の原始的な針葉樹、一般的なシダ種子植物、トクサ類、リュウビンタイ類、ジゴプテリス類、そして謎めいた“謎の乾地植生”です。

このうち最も乾燥地に出現すると考えられているのはのは謎の乾地植生とワルキア類、ときにコルダイテス類です。沿岸の海浜植物として出現しうるのは、このグループであろうと考えました。


“謎の乾地植生”を代表し、とくに乾地性の形質をもつものはメガロプテリスMegalopterisとレスレヤLesleyaで、ともに分厚い葉などの乾燥地適応を示し、石炭層からはあまり産出せず、主に泥炭層の間に出現します (DiMichele et al., 2010) 。これは石炭紀に繰り返し出現した乾燥した期間に堆積したと考えられています。さらに、盆地辺縁部の石灰岩質のあいだの古水路から産出することが多く、栄養に乏しいアルカリ土壌に適応していたと考えられています。 (DiMichele et al., 2010, Bashforth et al., 2016) 。

このことから、メガロプテリスやレスレヤが沿岸林を構成していたとしてもおかしくはありません。

ただし、少なくともレスレヤは乾燥地適応を示したものの沿岸地に限った存在ではなく、内陸部に堆積した地層からも知られています(Correia et al., 2023)。いっぽうでメガロプテリスは北米東北部、当時の大陸中央海の周辺からしか産出がなく、当時の内陸部であったヨーロッパからは産出がありません。これは生育に石灰岩質が必要であったからだとする説があります(Leary, 1980)。

さらに、後期石炭紀後期に乾燥化が進行してもレスレヤが分布を拡大する一方で、メガロプテリスの分布拡大は起きず、むしろ化石記録が消失します。


もう一つの候補で、より確実な証拠があるのはワルキア類の、極めて原始的な針葉樹です。このグループはイリノイ盆地のアトカン(バシキーリアン後期~モスコビアン前期)の石灰岩カルストに育っていたようで(Plotnick et al., 2009)、時代的にもまさに合致します。ワルキア類の針葉樹林というと後期石炭紀後期(カシモビアン以降、いわゆる”石炭紀の熱帯雨林崩壊”以降)のイメージが強いですが、出現自体は前期石炭紀にまで遡り、保存される可能性の低い環境に長らく生育していたようです。


こうしたワルキア類、メガロプテリス、レスレヤなどの植生は後期石炭紀前期(バシキーリアン~モスコビアン)の乾燥した地域(降水量が蒸発量を上回る月が年に1~2か月と推定)の植生として解釈されており(Bashforth et al., 2014)、化石の保存に乏しい石炭紀熱帯~亜熱帯域の半砂漠地帯に広く見られたのかもしれません。


さて、この謎めいたフローラですが、レスレヤやメガロプテリスはのちのソテツ類との関連が、ワルキア類はのちの針葉樹との関連が非常に深いと考えられています。

ワルキア類は現在のシマナンヨウスギの幼木に極めて似た姿であったと考えられており、描写にあたって考える上ではそれほど困らない代物です。Thucydiaの復元が参考になります(Hernandez-Castillo et al., 2003)。


本作で描いたメガロプテリスは主に、形態及び構造がよく似ており、近縁と見做されるレスレヤの復元をもとにしています。レスレヤとメガロプテリスの区別は3つ以上の裂片を持つか否かです(1回羽状複葉がメガロプテリス、単葉がレスレヤ)。

レスレヤの”枝”ないし幹は少なくともかなり太かったようで、大型の樹木であったとみなされています。(Bashforth et al., 2016)メガロプテリスの茎自体とみられる化石も知られているのですが、肝心のこれについて触れている文献が形態について何も書いていないので、仕方なくレスレヤのものを代用することとしました。

乾燥地に生育していた当時としては大型の葉を持つ植物ということで、椰子のような真っ直ぐな幹に、単葉レスレヤおよび1回羽状複葉メガロプテリスがつくように復元する方針としました。

メガロプテリスは種によっては羽片の長さが15㎝を越えてくるので、サイズ感としては比較的、ヤシに近いものになってきます。

こうして浮かび上がるのが、松原ならぬ“杉原”と、トロピカルな石炭紀版ヤシの木です。


DiMichele, W. A., Cecil, C. B., Montañez, I. P., & Falcon-Lang, H. J. (2010). Cyclic changes in Pennsylvanian paleoclimate and effects on floristic dynamics in tropical Pangaea. International Journal of Coal Geology, 83(2-3), 329-344.

Plotnick, R. E., Kenig, F., Scott, A. C., Glasspool, I. J., Eble, C. F., & Lang, W. J. (2009). Pennsylvanian paleokarst and cave fills from northern Illinois, USA: a window into late Carboniferous environments and landscapes. Palaios, 24(10), 627-637.

Bashforth, A. R., Cleal, C. J., Gibling, M. R., Falcon-Lang, H. J., & Miller, R. F. (2014). Paleoecology of early Pennsylvanian vegetation on a seasonally dry tropical landscape (Tynemouth Creek Formation, New Brunswick, Canada). Review of Palaeobotany and Palynology, 200, 229-263.

Bashforth, A. R., DiMichele, W. A., Eble, C. F., & Nelson, W. J. (2016). Dryland vegetation from the Middle Pennsylvanian of Indiana (Illinois Basin): the dryland biome in glacioeustatic, paleobiogeographic, and paleoecologic context. Journal of Paleontology, 90(5), 785-814.

Leary, R. L., & Pfefferkorn, H. W. (1977). An Early Pennsylvanian flora with Megalopteris and Noeggerathiales from west-central Illinois. Circular no. 500.

Leary, R. L. (1980). Reclassification of Megalopteris sp.? Arber (1904) from the Culm Measures of northwest Devon as Lesleya sp. Review of Palaeobotany and Palynology, 30, 27-32.

Hernandez-Castillo, G. R., Rothwell, G. W., Stockey, R. A., & Mapes, G. (2003). Growth architecture of Thucydia mahoningensis, a model for primitive walchian conifer plants. International Journal of Plant Sciences, 164(3), 443-452.

Correia, P., Barbosa, C., Šimůnek, Z., Muchagata, J., & Sá, A. A. (2023). A new species of Lesleya (Spermatopsida) from the Carboniferous of Iberia and its palaeoecological and evolutionary significance. Historical Biology, 35(2), 185-196.


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