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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
海洋編(1)石炭紀で磯遊び
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浜辺、”椰子”、海浜生物(2)

砂浜に、大きな茶色い、棒きれのようなものが落ちているのが目についた。

拾い上げてみれば、まさしくさっきの“椰子”の枯れ葉である。

かっちりと、革のようなクチクラに覆われ、ずっしりと重いその葉は、椰子のものとは似ても似つかなかった。ちょうど、とても大きく、また乾燥にも耐えるようごつくなった、シダのそれであった。中肋からあたかも平行かのように出た葉脈が、薄い線としてかろうじて見え、表面は艶やかな光沢に覆われている。

基部でやや掌状になること、また羽片の基部がなだらかに流れることをのぞけば、見た目も大きさも少し、イワガネソウに似ていた。

胞子は、ない。

シダ種子植物の一種であろうか、それとも、胞子葉と栄養葉がわかれているのか。

よくわかっていない、メガロプテリス Megalopterisとよばれるものなのであろう。


浜辺には、腕足動物の貝殻やウミユリの破片に紛れて、手のひらはおろか、前腕ほどの長さがあるコルダイテスの葉が、やたらと目についた。このべらぼうに厚い、半ば木質化したような葉は、特に大きい物などはまるで、靴べらである。

そんな中には軟骨魚類の、石器時代の縫い針みたいな、特徴的な背びれの棘なども転がっていたが――完全な形の魚がごろごろと転がっているのではないか、といった甘くて磯臭い期待はさんざんに打ち砕かれた。

それにしても、いったいこの時代、何が海浜に漂着した生き物を、骨や破片だけにしているのだろう。

ここになにか、すごい発見が見込めるように思った。

海岸には、流木や丸太も多くあった。

そのほとんどが中心部に草の髄のような柔らかい部位を持ち、ゆえに腐りかけるとそこに穴が開く、コルダイテス類のものであって、意外にも、リンボク類の板材のような樹皮――鱗木にはっきりした“材“はない――などは、2.3枚を見つけたのみである。

ひっくり返して回れば、夥しいまでの収穫があった。

過去にも今にも見たこともない土壌動物が、いっぱいなのである。

――が、論文にする前に、ここに書くわけにもいくまい。

そもそも形容するにも、私が語彙を持ち合わせてはいなかった。

名前がつくようなもののみ、紹介しておこう。

イシノミの祖先すじにあたるDasyleptusの仲間は最も多くて、漂着物をひっくり返すとほぼ必ず、跳ね回っているのが見られる。また、シミの仲間も多く、滑るように駆け抜けていく。ゴキブリに似た昆虫も多い――中には、前翅が甲虫のように固まりかけたものもあってとても興味深い。現在のドミノローチなども似たような傾向を示すけれど、はたして真の甲虫のようにまで至ったゴキブリが見つかりやしないか、と探す手が捗った。

やや湿った漂着物では、ヤスデの仲間もまた、ありふれたメンツであった。

いっぽうで、現在の砂浜ではまず大量にみられる陸性甲殻類――とくにフナムシやワラジムシ、ハマトビムシのたぐいは、まるでいない。ダンゴムシなどのなかまである等脚類は石炭紀の時点では海洋で出現し始めたばかりでまだ多様化しておらず、ヨコエビの仲間である端脚類にいたっては白亜紀頃になってようやく多様化する、と分かっていても、やっぱり少し、寂しい。

それに比べて、ばかみたいに多いものがある。サソリだ。

もう勘弁してくれというくらいに見当たり、漂着物を捲ると必ずかのように、その細長い鋏を前に伸ばして、かさかさと駆け抜けていく。浜がサソリだらけというのはなんとも慣れないし物騒だけれど、どうもハサミムシのようなニッチをそのままサソリが独占しているようなのだ。ほかにも、マルワレイタムシの仲間などは、現在に似たものがいない、まさに石炭紀ならではの海岸生物といえるだろう。


かくして、私はまた、海へと向かう。

岩陰からリュックサックを持ち上げれば、端末の潮位予測表がちょうど、干潮を示すアラームをならし始めた。



海浜植生に関しては次回参照。

マルワレイタムシを入れたのは海成層からの産出例があるのが元ネタ。特に海浜性生物としてのアイデンティティが確立されているわけではない。

Hyžný, M., Józsa, Š., Dunlop, J. A., & Seiden, P. A. (2013). A fossil arachnid from Slovakia: the Carboniferous trigonotarbid Anthracomartus voelkelianus Karsch, 1882. Arachnology, 16(1), 21-26.


Dasyleptusに関してはTonganoxichnusを根拠としており、少なくとも海岸の泥干潟には出現していたと考えられる。

イシノミ類は現生種にもヤマトイシノミモドキなど多くの海浜性種がいるが、直系というわけではないと思われる。

シミ類は化石記録が少ないが、この時期にはすでに出現していなければならない。石炭紀から記録がある(疑わしいが)ものはRamsdelepidionでメゾンクリークの汽水〜海成層。現生シミにもヤマトミナミシミはじめ、海浜性(とはいえ潮上帯だが)なものが多く知られる。

サソリ類はなぜか海成層から算出することがシルル紀〜デボン紀を中心にあり、もしこれが陸生であれば海浜性のものを含む可能性はあるかもしれない。


…というわけで海浜生物の保存可能性はきわめて低く、ブラックボックスになりがちなのですが何とかできるだけの復元を試みました。

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