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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
さぁ、宇宙に出よう―超時空ゲートは軌道上―
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フライトデッキで、切るシャッター 〈宇宙旅客機が実現されるとしたら、どんな前提がいるだろう?〉

宇宙に行く手段というのは、古くより軍事と結びついてきた。

宇宙開発が軍事に悪用されたのだ、という人もいる。

しかし、軍事から宇宙への応用が始まることの方が、はるかに多かった。

私たちを宇宙の旅に送り出す宇宙旅客機もまた、宇宙規模の冷戦の産物であった。

ガラス越しの巨大な機影が、整備灯に照らされて青白く光っていた。

「宇宙旅客機『ストラトソアラー』」──戦闘機を何倍にも拡張したような姿だ。

鶴の首のようにせり出した機首と、大面積のデルタ翼。

整備ロボたちがせわしなく動き、動翼をひとつずつ点検していく。

「すっごい…」

身を乗り出した私の額に、ひんやりとした感触が触れる。

フライトデッキに身を乗り出しすぎて、ガラスに額を擦り付けていた。


純白に淡い青色のラインが入ったその機体は、じつに巨大だ。

全長が85mもある、そう、数字では聞いていた。

実際に目にすると、別格である。

ただ圧倒されるしかなかった。


主翼の基部に収められた、2つのエンジンポッド。

サメの頭を思わせる可変インテークがゆっくりと、パクパクと顎を動かしている。

中には、8つ並んだ、推力224kNの低バイパスターボファンエンジンが覗いた。

旅客機だが、見た目はむしろ、戦闘爆撃機に近い。

飛ぶことに洗練された結果の収斂、あるいは戦争のための技術の応用だった。

事実、火星連邦の隕石爆撃に対抗するための迎撃機として開発された、という。

客席のかわりに、核弾頭を積むために。


――しかし、それは宇宙航空需要がまだそれほどなく、火星が本気で地球侵略をもくろんでいたころの話。

ここ20年ほどは火星連邦が財政破綻状態になって脅威が減少し、しこたま作られたストラトソアラーは、旅客機へと改造された。

軌道エレベーターでは数週間かかるところを、宇宙旅客機ならたった数時間。

ロケットと違って、天候にあまり左右されず、異常発生時の引き上げもしやすい。

宇宙の彼方に超時空ゲートが開通し、そこに人々を送り込まなければならない時代において、これほど適した乗り物はなかった。


しかし、目の前にあるのは、違う。

転用機じゃない。新造品だ。

「翼の付け根、LERXのラインどりが少し違う。──あれ、最新ロットだ。初めて見た。」

シャッターを切りながらつい、声が上ずっていた。

アリアは指でなぞりながら、うーん、と首を傾げる。

「…いわれてもわからない。えーっと、翼の付け根のカーブ、ってこと?」

「ほんのちょっとの違いだけど、大違いだよ。とくに、機首分離時の迎え角が変化する。多分、分離後の後部スラスター制御応答が改善されてる。それに合わせた微調整だと思う。──多分だけど。」

「……私にはさっぱりだけど、要するに改善されてるってことね?」

「そ。ちょっとした姿勢制御スラスタでも、変えるってのは簡単じゃないんだよ。」

「こういうときのケイ、本当に楽しそうよね」

「こんなの見せられたら、当然だよ」

ふと見れば、アリアはカメラを構えていた。

それに気づいた私は、ふいに言葉が出なくなって、顔に血がのぼるのを感じた。

多分傍から見たら、真っ赤だったに違いない。

「ごめんね、いい表情してたからつい…」

アリアは申し訳なさそうに笑いながら、そっとカメラの削除ボタンに指を添える。

「い、いいよ!消さなくて!」

「どうせ顔出しするんだし…その…別に撮られるの、嫌じゃないから…」

私は思う。

もうどうなってもいいや。

動画企画に乗った時点で、私のプライベートは死んだのだ。

――そう、この石炭紀への旅で、アリアは私を案内人に、石炭紀の自然を撮るつもりらしいのだ。


そのとき。アナウンスが、流れた。

「サイド4宇宙ステーション行き、C-12便。最終搭乗案内です。乗客の方は搭乗通路へお進みください」

興奮で感覚がいかれてしまったのだろうか、声というよりも、遠くの鐘のようだった。

前方の乗客たちがゆっくりと動き出す。

鼓動が、遅くなった気がした。


フライトデッキへの通路に立ったとき、ふと足が止まる。

透明な隔壁越しに、搭乗ゲートへと伸びる渡り廊下が見えた。


その奥で、ストラトソアラーのエアロックが静かに、息をひそめていた。


「…行こう」

一言だけ言って、私は一歩、踏み出した。


考察ノート

宇宙旅客機は乗員数を増やそうとするとなかなか難しい。離陸重量と降着装置の問題がある。

商業的な目的で最初から宇宙旅客機が設計されるというのは、ちょっと難しい面があるかもしれない。載せられる人数は10人前後が、大気圏離脱に必要なロケット燃料の量からして限界であり、これは技術の進歩によって埋められそうにない。

ロケットを直接打ち上げる方式では天候などに問題があり、今のソユーズのように長らく発射を待つ必要が出てきたりするだろう。発射を途中で取り止めたり、

また発射地点を天候の適した場所に選べる空中発射のほうが、いつでも発射できるという条件には適している。

が、これは民生用の要件にはあまり向いていない。

こうした機体が重視されるのはまず、宇宙空間の何かに対して要撃する、もしくは大陸間弾道弾の空中発射という目的においてであろう。

そして、それらが民生に応用されたり、民生に転用される方向であれば、宇宙旅客機が実現しうるのではないだろうか。

となれば、宇宙旅客機のある世界には、宇宙規模の冷戦を想定せねばなるまい。


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