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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
海洋編(1)石炭紀で磯遊び
176/229

回廊

大陸中央海。


この北米の広範囲を覆い、ときにパンゲアを横断せんとするかの様に内陸に食い込んだ巨大な海は、いくつかの山々に囲まれている。


ベンチには、リリィと二人きり。


「いやぁー、疲れた。深夜の山越えって、めっちゃ緊張するのよ!」


そう言って、リリィは大きく伸びをした。

輝く海を、その曲線がぬるりと切り取った。

私には、ないものだった。


「飛行機なのに?」


「そうよ?あのオンボロに貨物と燃料をどっさり積めば、高くは飛べないわ。どこにだって飛んでいけるなんて、都合良くもないのよ。」


「もしもがあったときも、中央パンゲア造山帯のど真ん中はゴメンだよ」


「やなこと言わないで!」


そう言った直後、彼女はグッと親指を立てた。


「でも今回はバッチリ。You have control.って機長に渡したら、Excellent, Perfect work!って」


そう、彼女は笑った。

「お疲れ様。もしかして、ここに基地が建てられたのも、そのせい?」


「ええ、おおありね!Itaituba-Piaui Seaの北岸にあるパラー第一空港から出発するでしょ?」


「うん」


「北上すると、ひたすら砂漠ね。鉄道のほぼ上を飛んでくのよ。中央パンゲア造山帯も一枚岩じゃなくて、ブラジル北部からイリノイ盆地まで、山がさほど険しくない回廊が繋がってるのよね」


「…アレガーニー造山帯と、ワチタ-マラソン造山帯の間?」


「そう!さすがよく知ってるわね。試験にも頻出な、重要な回廊よ」


「まぁ、古地理がわかってくると化石も見えてくるから、多少は。」


ただ、よくは知らない__この時代における、カイバル峠みたいなもんなんだろうか。


「せっかくなら、昼間見せたかったのよ。ズーーっと続く山と山の間がふわっと開けて、熱帯が向こうに広がって。」


「あれ、結構幅広?」


「そう!私たちなんてちっぽけだって感じさせられちゃう。ほんと、熱帯への巨大なゲートって感じかしら」


と言ったとたん、はっと口を押さえた。


「あっ、でもコクピットからじゃないと、綺麗には見えないかも…」


海を見やる。


地平線の向こうに山脈は、見えなかった。


ただ、思いを馳せるほかなかった。


ふと目をそらすと、リリィはあくびをしかけていた。

ふと振り返すと、ばしっと一瞬で何もなかったかのように取り繕っているのが、どうにもおかしかった。

なにせ――あくびが止まらないせいで、だるまさんがころんだ、みたいなことになっているのだ。


――ようやく、ピリピリした感覚も落ち着いた。

私は座ったまま、足踏みをした。

膝の自動運動、問題なし。足関節背屈、よし。底屈、よし。足趾、左右ともI,II-Vまでよし。

うん、いける。

始動チェックみたいだな、と思いながら、私はすっと立ち上がる。

踵をつけて目を瞑っても、身体はふらつかなかった。

深部感覚、よし。

少し歩いて、始動テスト。

「足、大丈夫そう?」

と聞かれたので、

「うん。あと――仮眠は大事だよ」

と伝えた。

するとリリィは、「お言葉に甘えるわ・・・」と、ふらふらと管制室に歩いていった。


「もう、大丈夫」

一人きりになった私に、宣告する。

今日の、旅が始まる。




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