島へ
目下に広がるは、青い輝き。
機体は大きくロールして、視界一杯にその青が押し寄せた。
海の底に何かいるかは――海上からでは、とてもわかるわけがない。
しかし、礁の色の濃淡や、少し紫がかったり、青みがかったりする色調の変化が、そこに住まう命の存在をよくあらわしていた。時には、海の表面がキラキラと、ラメみたいに輝くところすらある。
あの色は――何の色だろう?石灰藻類?ウミユリ?それとも、石灰海綿?あるいは。。。
そう思いつつも腰をひねって窓を覗き込むと、まだ動きの悪い足が、上半身にひきずられた。
視界の隅をゆく白い舟が、この近くに少なくとも人が住んでいることを物語っていた。
そして、陸が見えてくる。
白く輝く砂浜の向こうにはすこし灰色がかった緑がちらつき、”サンゴ”礁があちこちに、リング状の小島を作ったり、海岸線に沿って帯状に隆起していた。
そんな小島のうち一つに、真っ白い直線が、シュッと突き出して、青く輝く浅いサンゴ礁を直線で仕切っていた。小島から突き出した滑走路の姿は、ちょっと戦車の砲塔にも似ていた。
そんな小島に向かって、ちょうど対岸には、小さな港町がつくられている。
機体はその、まっすぐに仕切られた、人工の直線に向かって降りていき――ザシュッという振動とともに、降着装置が、砂を噛む。
窓越しにも、とんだ砂が少し、煙った。
轟轟と押し寄せる振動と、滑走路に降りたとたんに訪れる加速度と、風切り音。
それを私の足が、確かに感じているのに気づいて――私は少し、嬉しくなった。
太ももを少し振り上げて、足踏みする――
間に合うかも、知れない。
扉が開くとともに、もわっとした暑さと湿気が、ざっと押し寄せた。
タラップに立ったとたん、照り付ける、さんさんとした太陽。
なまあたたかく、しかし心地よい、潮の風。
そして、エメラルドグリーンの海。
肺いっぱいに、熱帯の豊かな、海の味がした――と、私は感じた。
――しかし、たいていの人間にとっては違うだろう。
強烈な磯臭さが、滑走路の上にも朦々と立ち込めていたのである。
さきに降りた乗客の一人が、真っ白に曇ってしまった眼鏡を、シャツで繰り返し拭っていた。
足元を見下ろして、手すりを伝いながら、慎重に、一歩ずつ。
脚の感覚は、まだなんとも、もぞもぞしている。
しばらく通電しなかった電気回路に通電して、あちこちで微細なスパークが起きているような、そんな感覚。足が、粘土づくりのような気がした。
粗大な位置感覚は微かにある。
しかし、どうにも両足に義足をはめて歩こうとしているような感じがして――肌に感じるものはといえば、じんわりと広がる温かい感触と、チクチクとした電気の発火しか、なかった。
降り切った瞬間、一瞬ふらついた。
咄嗟に腕をとられる。
「まったく、聞いてるのと全然違う!全然大丈夫じゃないじゃない!」
そう叫ぶと、アリアは躊躇いもなく私の脇に腕を入れ、ひょいと持ち上げておんぶした。
その背中は大きくて、温かくて、太陽のいい匂いがした気がした。
その柔らかさの下に動く筋肉を、肌で感じる。
ベンチに私をおろすと、
「ほんっと、ごめん!!」
アリアは手を合わせて、深く頭を下げた。
「お互い様だよ」
もういい、白状しよう。
膝の上に乗せるには、大きすぎた。――私と違って。
痺れた足に、じわじわと、砂嵐のように感覚が戻ってくる。
管制室から、手提げ袋を携えて、がっくりとうな垂れた影が出てきた。
リリィだった。
目にくまは目立ち、肩はだらりとすくめられて、よろよろと扉をしめた。
そして、私たちの姿を見るなり、ハッと気づいたかのように姿勢を正すと、すたすたと歩み寄る。
「足、まだ動かない?触った感じはどう、大丈夫??」
リリィはそう言って、私の足首を、やさしく触れた。
さっきと違って――わずかな電気感に修飾されているとはいえ、確かな触覚が戻っていた。
「ありがと。でも…もう、大丈夫。大丈夫じゃないのはむしろ、そっちでしょ」
すると、リリィはわざとらしく元気にいう。
「ぜんっぜん平気!」
しかし、半拍遅れて
「でも、叱られちゃった…『機内で騒ぐな』ってきつめに。」
と、ふくれっ面で、口を尖らせた。
あぁ、私たちがやかましかったのは、これはもう認めざるをえまい。
――正直に白状していれば。
私はつい、うつむいていると、
「ま、パーになった単位なんて、また取り直せばいいのよ」
なんともないようにリリィは言った。
もしその通りなら、あんなにげっそりして管制室から出てくることもなかっただろうに、と邪推してしまって、余計に申し訳なく思えてならなかった。
蒸し暑い熱帯の空の下。
「二人とも、ほんっとごめん…」
すっかりしょげて丸まりこんだアリアが、叱られた大型犬みたいだった。




