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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
さぁ、宇宙に出よう―超時空ゲートは軌道上―
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チェックイン 〈旅は「便が多いほど安く・快適に」問題〉

過去の世界に行けます、いつに行きたい?


そう聞かれたら、ほとんどの人は「恐竜に会いたい」と、白亜紀かジュラ紀を目指すだろう。


恐竜は古生物のスターで、中生代ツーリズムは富裕層の間で流行にまでなっている。なぜなら旅は「便が多いほど安く・快適に」という鉄則があるからだ。


しかし私の最初の時空旅行は、石炭紀を目指すものだった。長く、快適でなく、法外に高額だった。

チェックインゲートは、いくつかの区分に分かれていた。

「学術関係者」「報道関係」「商用技術者」「観光」「一般」──

アリアは迷いなく「学術関係者レーン」へと進んだ。

私はそのまま彼女についていこうとしたが、手前で係官に制止された。

「そちらのレーンは、教育機関に所属中の方または研究機関登録者に限られます」

「……えっと、一応、学籍は3年前までありました。生物系の学位は取ってます」

「ですが、現在は所属が確認できません。失礼ですが、一般レーンをご利用ください」

静かな口調だったが、石のように揺るがない。

私は小さくため息をついて、隣の「一般」レーンへ足を向けた。

──ああ、そうか。私はもう、どこにも所属していないんだ。

どこにも、というのは正確じゃない。

でもこの世界において、“個人”というだけでは、何の資格にもならないのだ。


アリアのほうを見ると、やはりというか、彼女も止められていた。

「火星圏出身の方は、追加照合が必要になります。申し訳ありませんが、出生記録とDNA登録コードを提示願えますか」

「またそれ? いいけど、何回出せば済むのよ……」

そう言いながらも、アリアは端末を操作してコードを表示した。

係官がそれを読み取って、照合。

数秒の静寂のあと、青く灯る。

「ありがとうございます。つぎに、火星圏ご出身の方は、地球渡航規制と生体識別照合の二重確認が必要となりますので……」

「わかってる。いつものことだもの」

彼女はそう言って、ちらりと私の方を見た。

結局、ゲートを通ったのは、止められていた私と同じタイミングだった。

アリアは学術枠、私は一般枠。

──ああ、変な話だけど、悔しいけど、ちょっと嬉しい。

止められたのが、私だけじゃなくて。


それでも、彼女の足取りは軽かった。

正面ロビーで合流すると、アリアはまるで何事もなかったかのように言う。

「やっぱり、ケイも引っかかった?」

「うん。学生証、期限切れてた」

「わたしはDNA照合で待たされた。地球ってほんとに面倒よね」

「……火星人がいう?」

アリアは笑う。

「ま、そうね。火星なら今頃銃口突き付けられてるわ」

「冗談?」

「半分だけね。──もう半分は、回想」


そう言ってアリアは視線を逸らした。

彼女の表情は変わらなかったが、その声の温度が一瞬だけ下がった気がした。


残念ながら、石炭紀への直行便はない。

直行便があるのはジュラ紀と白亜紀への数航路のみである。

「石炭紀は需要が少ないからね」とアリアは苦笑した。

私たちの行き先は石炭紀後期、モスコビアン期。

そこへ行くには、まず中軌道を回るサイド4宇宙ステーションに立ち寄り、2日後の超空間ゲート便に乗り継ぐしかない。

2日も前から出張るのは、宇宙ステーションから月に1度しか出ない「モスコビアン第1ゲート便」を逃すわけにはいかないからだ。


目当てのサイド4便の出発情報が聞こえてきた。

「前便の遅延によりサイド4宇宙ステーション便、ゲートC-12に変更」

はっと気づいてC-12へと足を速めたが、同時に「離陸準備まであと約一時間」と聞いてほっと息をついた。


「こういう遅延があるから直行便は流行らないのよ」

アリアは腰に手を当て、首を振って笑った。

「ゲートの開口なんて数時間ぽっきり。逃したら、宇宙港のカフェで何日も「バカンス」だもの」

彼女は両手を広げておどけ、目だけで私を見てウインクする。

「ね、ケイ、いま、「これって旅っていうよりギャンブルだよね」、とか思ってるでしょ」

__ごもっともである。



古生物の代表として、恐竜は最も人気である。

中生代は人間が暮らすにも比較的制約が少なく(二酸化炭素が濃くて息苦しくなるが)、タイムトラベルが可能になれば人気になることだろう。

当たり前のことだが、たくさん便が飛べば、旅費が安くなり、良い機材が入る、という好循環にはいる。


ハワイ旅行やグアム旅行は比較的安価で行きやすいが、これがたとえば小笠原に行くとなると、ハワイに行くよりよっぽど近くて国境も跨がないのに行きづらい(船便で片道24時間かかる上に、ほぼ週1便のみ!)という様なものである。


本作で描く石炭紀への旅は、この小笠原への長々しい旅を、さらに時空スケールに拡大したようなものとなる。


※※

ケイ・ヤマナカ・・・社会人女性だが、小柄な体格から男の子と勘違いされる。かつては大学で研究していたが、いまでは社会人3年目のアマチュア博物学者(Naturalist)。

アリア・エンバートン・・・ケイの大学時代の友人。恐竜研究者、動画配信者。中生代のフィールドワークを、そのまま荒々しく映した冒険動画は、恐竜を「博物館の古びた骨」から「会いに行けるサファリ」へと押し上げた。世間的にはスターだが、大学時代はケイにノートをせびっていた。火星出身で母国語は英語。実家はエンバートン財団。月面上の鉱山経営にかかわる有力者。


場所;東京国際空港「宇宙線ターミナル」

宇宙線とは、地球から宇宙旅客機により大気圏を離脱する便のこと。

高速だが非常にコストが高く、1便あたり10~15名しか乗ることができない。



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