表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/230

Boarding

ぎしり、と、そのプロペラ機のタラップを踏みしめれば、撓んだような気がした。

機内に明かりはない。

窓から差し込む、細く弱弱しい、高緯度の陽光。

町工場の片隅に、迷い込んだようだった。

青白く、ぼんやりとした散乱光のなかで、煤があちこちに黒い点をつけ、錆びやオイルの染みがあちこちで揺らめく。

機械油が混じりあった、ヤニ臭い、工業のにおい。

冷えたオイルと、古びた金属、そして微かに灯油のような。

ネジとリベットの篆刻。

油ののった金属が、鈍い、飴色の光を放つ。

フレームがむき出しの外板には、蔦のように頭上を配管がのたうっていた。

べたつく金属に、頬刷りしたくなって、つい肌を近づければ、一瞬の冷たさと共に、微細な埃や、使い込まれた合金そのものの香りの違いが、鼻腔の上端に位置する嗅細胞が感じとられて、脳に伝わった。

うっとりとするようなノスタルジアを感じた。

――いや、もっと煽情的なものかもしれない。


腰掛ければ、少しきしんだ音がした。

武骨な、折りたたみ式の座席。

それが、窓際に取り付けられていた。

進行方向に対して横向きに並んでいて、アームレストはない。

座席というより、ベンチを思わせた。

旅客機としては、最低だった。

外が見える、手のひらほどもない小さな窓は、背中あわせに、並んでいる。

戦争映画だと、ここに兵隊が並んでいたっけ。

ふと見れば、破れたベンチのスポンジが、ぽっと、黄土色の花を咲かせていた。

シートベルトは一応あるが、なんともいい加減で頼りない。

ただの紐もいいところ。

私の小柄な体躯では、目いっぱい金具を締めてすら、腰が遊んで心許ない。

ずっしりとした、落下傘の入った袋を渡されたのが、すべてを物語っていた。

背嚢のように背負ってもたれかかれば、しっとりとした布の柔らかさを感じて、頼りなく冷たい“ベンチ”の背も気にならなかった。

振り向けば、客席を隔てるパンチ板の仕切りの向こうに、燃料タンクが積み込まれている。タンクを隔てて機体の後部に貨物積載スペースがあり、高額なものを含む私たちの撮影機材はそこに集められ、鍵を掛けられていた。

――重心に燃料タンクを乗せたいのはよくわかるけど、機内から丸見えとは。

本来あった貨物庫のかなりの容積が、これに費やされてしまったに違いない。

翼下の増槽は、窓から見ればでかでかと張り出していた。

航続距離を伸ばすための、必死の努力なのだろう。


アリアが肩をこん、と小突く。

「ケイ、初めての石炭紀調査、どうだった?」


――あらためて、返す言葉に困ってしまった。

「情報量が多かった…頭が痛い」

出てきた言葉に、自分でもそりゃないだろ、と思って、私は目を窓枠に滑らせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ