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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
新しい石炭紀-知られている様で、そうでない時代
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IV 「氷河が広がったから石炭林が絶滅した」わけではない

「ペルム紀前期に氷河が広がったために石炭林が壊滅した」

たぶんこの文章に接する人のほとんどがそう聞いたか読んだことがあるか、そう思ったことがあるでしょう。

現状、一般書にも、博物館の展示にも、こうした表現が溢れかえっているからです。


石炭紀の熱帯雨林崩壊はおおよそ、モスコビアンとカシモビアンの境界付近のころで、むしろ氷河最大どころか温暖化が進みつつある時代です。


この温暖化トレンドの中でリンボク類の湿地林から、シダ植物やシダ種子植物、コルダイテス類や原始的な針葉樹が優占する植生への転換…いわゆる"石炭紀の熱帯雨林崩壊”が起きたとする説が提示されています。

およそモスコビアン-カシモビアン境界、3億700万年前のことです。


しかしこれを寒冷化+乾燥化、と単純化するのは望ましくなく、かつ寒冷化と書くと、その後の後期石炭紀後期の(比較的)温暖な時期を無視していきなり石炭紀の終了にいたるように誤解を招きます。

両者の間には700万年ほどの違いがあります。

これは人類の進化とだいたい同じスケールです。


"石炭紀の熱帯雨林崩壊"から石炭紀の終了までの間に、カシモビアン、グゼリアンの2つの期と700万年の時間が経過しています。

グゼリアンの終わり(3億年前)から寒冷化が進行し、前期ペルム紀の氷河期ピークはおおよそアッセリアンからサクマリアン初期(2億9400-9300万年前)に相当します。


つまり石炭林の崩壊から石炭紀の終焉および氷河期の再開まで700万年もの差があります。「氷河期によって」というなら、ペルム紀の氷河期ピークとの間は1300-1400万年にもおよびます。


そもそも“石炭紀の熱帯雨林崩壊“が大規模な絶滅と生物相の入れ替わりを意味するのかにも疑問が呈されるようになっています。多くの生物が絶滅したのか、はたして「崩壊」と呼べる劇的なイベントかどうかすら疑義が呈されています。(Cleal et al., 2009)かわりに、「段階的な崩壊」「フローラの変化」などの用語が用いられるようになり、もはや「崩壊」という用語が用いられることすら減っています。

石炭紀の熱帯雨林と結び付けて語られる大型節足動物には、この”熱帯雨林崩壊”よりあとの時代の生き物が多く含まれています(メガネウラもそうですし、アースロプレウラも生き抜きました)。

石炭紀の熱帯雨林崩壊が四足動物の放散に関与したとする説もあります(Sahney et al., 2010)。この絶滅による四足動物の放散に関してもまた、批判と疑問が呈されています (Dunne et al., 2018)。

概観すれば、後期石炭紀の前半、とくにバシキーリアン~モスコビアンの氷河期ピークのもとでユーラメリカ熱帯域で泥炭が堆積し、カシモビアン~グゼリアンの後期石炭紀の後半に「温暖化」・乾燥化が進行して泥炭林が縮小して中心がカタイシアにうつり、グゼリアンの終わりからペルム紀前期にふたたび寒冷化が進行した、ということです。


余談ですが巨大昆虫ですと、アースロプレウラは前期ペルム紀のアッセリアン以降はほとんど知られておらず、"石炭紀の熱帯雨林崩壊"は生き抜いたものの、本当にペルム紀の氷河期の影響を受けたと言い張ることもできなくはないかもしれません…が、他の要因も考えるべきでしょう。

メガネウラなどのオオトンボ類はその後も繁栄を続け、後期古生代氷河期が終焉したアルティンスキアンには、最大種のメガネウロプシスを輩出しています。

さらに、ユーラメリカではカシモビアンにほとんど滅んでしまったリンボク類ですら、カタイシア(現在の中国にあたる古テチス海とパンサラッサを隔てる巨大な島々)では多様性を維持したまま、ペルム紀に入っても大規模な泥炭林を作り続けました。


さて、寒冷化が石炭林を終焉させたというデザインがいったいどこから来たのかは、とても興味深いところです。

時代的にも、気候的にも、状況証拠的にもずれていて、古い考えと断じるにも、歴史的にこのようなモデルと学説が支持された科学的文献を見つけにくいのです。

どこか、私の知らない文献が引用され続けたのでしょうか?


Cleal, C. J., Opluštil, S., Thomas, B. A., Tenchov, Y., Abbink, O. A., Bek, J., ... & Zodrow, E. L. (2009). Late Moscovian terrestrial biotas and palaeoenvironments of Variscan Euramerica. Netherlands Journal of Geosciences, 88(4), 181-278.

Dunne, E. M., Close, R. A., Button, D. J., Brocklehurst, N., Cashmore, D. D., Lloyd, G. T., & Butler, R. J. (2018). Diversity change during the rise of tetrapods and the impact of the ‘Carboniferous rainforest collapse’. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 285(1872), 20172730.

Sahney, S., Benton, M. J., & Falcon-Lang, H. J. (2010). Rainforest collapse triggered Carboniferous tetrapod diversification in Euramerica. Geology, 38(12), 1079.

Tabor, N. J., & Poulsen, C. J. (2008). Palaeoclimate across the Late Pennsylvanian–Early Permian tropical palaeolatitudes: a review of climate indicators, their distribution, and relation to palaeophysiographic climate factors. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 268(3-4), 293-310.


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