―描写を支える科学的背景― 南米産の鱗木もどきのこと
石炭紀の南米は、氷河期の真っ只中であった。
しかしながら、間氷期には湿地が広がり、ノトラコプテリスなどのシダ種子植物や、今回取り上げるようなリンボク類に酷似した植物が群生するようになったのである。
南米のリンボク類のような植物は、少なくとも石炭紀前期からペルム紀前期にかけてほとんど姿を変えていなかったようである。熱帯域では、ユーラメリカのリンボク類が石炭紀後期カシモビアンに壊滅的な打撃を受け(“石炭紀の熱帯雨林崩壊“)、カタイシアに残るのみとなったのとは対照的だろう。むしろペルム紀前期にゴンドワナ氷床の融解によって広がった大湿地帯は、リンボク類に似た巨大小葉植物の楽園になったのだった。
さて、石炭紀における南米の鱗木「のような」植物は、ブンブデンドロンBumbudendronとブラジロデンドロンBrasilodendronの2属が代表的で、ペルム紀にはこれに加えてリコポディオプシスLycopodiopsisが加わる。
キクロスティグマCyclostigmaなども報告があるのだが、ここでは石炭紀に絞って、ブンブデンドロンとブラジロデンドロンについて扱う。
まず、鱗木「もどき」と私が何度も何度も呼んでいるのは、なぜか。
これらのリンボクの「ような」植物は、いったい小葉植物のどのグループに属するのかよくわかっていない。
小葉植物を「ヒカゲノカズラの仲間」と言いたくない理由や、「シダ」と呼ぶものを許すべきでないということに関してはもう、何度と知れず語ってきたけれど、復習する。
現在の理解では、現存する植物はおおきくわけると、このように進化してきた。
―コケ植物(維管束を持たない)
―維管束植物(維管束をもつ)―――小葉植物
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―大葉植物―――大葉シダ植物
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――種子植物――裸子植物
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―被子植物
ここで小葉植物には大きく分けて、
「ヒカゲノカズラの仲間・・・小舌がないグループ(無舌類)」
と、
「ミズニラ+イワヒバの仲間・・・小舌があるグループ(有舌類)」
に分けられる。
そして、石炭紀の化石記録にあるのはほぼすべて、後者だ。
リンボク(レピドデンドロン Lepidodendron)もシギラリアSigillariaも、オムファロフロイオスOmphalophloiosもその他もろもろ、みんな後者のグループである。
例外的にスペンセリテスSpenceritesは、大胞子と小胞子の区別がなく葉舌も見当たらないので、無舌類である可能性がある。
しかしながら、ゴンドワナの「鱗木もどき」には、小舌の痕跡が長らく見つかってこなかった。
そのため、もしかすると無舌類の巨大化したものではないか?とする考えもあったし、そうだとするとリンボク類との外見的・サイズ的な著しい類似性は全て他人の空似ということになってしまう。
ようやくブンブデンドロンに小舌が報告されたのが2025年であって、ブラジロデンドロンとリコポディオプシスに関しては、いまだにどちらなのか確証がない。
さて、植物学の素養がある方なら
「え、有舌類って大胞子と小胞子の2タイプあるから、そこで見分ければいいんじゃない?」と思われるだろうか。
その観点から言えば、ブラジロデンドロンもリコポディオプシスも大胞子と小胞子の2タイプがあるので、小舌の痕跡が見当たらないけれど有舌類なのだろう、と結論付けられるかもしれない。
しかし、それが正しい保証がどの程度あるか。
蓋を開けるまでは慎重になるべきだろう。
ただ私は研究者ではないので、(ここ重要!)、有舌類と仮定しよう。
仮定すると今度は、「リンボクってなんだ?」
という話になってくる。
レピドデンドロンなどの典型的なリンボク類と比較すると、ブラジロデンドロンやブンブデンドロンははっきりとした胞子嚢穂を持たず、スティグマリアとよばれる放射状の担根体を持たない、パリクノス(特徴的な通気構造)の痕跡を持たないという点で大きく異なっている。
これらの特徴はむしろ、大型で幹をもつミズニラ目として解釈されるシャロネリアChaloneria(Polysporiaということもある)やオムファロフロイオスOmphalophloiosに似ている。
――というわけで、いかんにもつかみにくい。




