表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
凍てつく地でも、採集を。
140/229

未知を釣る

クラーケン、という化け物がある。

イカのお化け、という印象が強いが、伝承としてはイカやタコといった分類学的ニュアンスより、水底から突き出して、船を沈めてしまう、得体のしれないものである。

それに、似ていた。

濁った水に佇み、根惚けて漂うパレオニスクス類の魚が、水中から伸びた腕によって、突然水中に引き込まれる。

何か、30㎝ほどの大きさがありそうな影が水中をよぎるのだが、その正体がいまいち、つかめない。


「網届くかな、あれ」

「距離的に、虫網しかないけど…ヘッド交換でいけるいける」

アリアはネット入れからさっと目の粗い網を取りだすが、

網の部分をねじ込む手が震えて、3度、うまくはまらなかった。

「らしくもない。大丈夫?」

「え、ええ、大丈夫よ、ちょっと寒くて焦っただけ。よし!照らすと逃げるんでしょ?今まだいる?」

ちらりとだが、見える。

「まだいる」

アリアがようやくネットをねじ込むと、ヘッドランプをつけてするすると網を伸ばしていく。

網に入ろうとした瞬間…

ひらひらと足を広げて、落下していった。白っぽい腹がよく目立つ。

「でかいでかいでかい、思ったよりでかい!」

逃がしたのに、アリアは大興奮である。

そのとき、気づいた。

船着き場のロープの影から今、足が何本か飛び出し、驚いた小魚が波紋を立てている。

「また見つけた」

「えっどこ!?」

「あそこの船着き場のロープの間」

「えーどれどれ」

「いた!」

その瞬間、ヘッドランプに照らされたそれは、ざばり、とまた沈んでいく。

「らちがあかない」

「釣れないかな、あれ」

「うーん、ちょうどいい釣り糸が必要ね…宿にはあるわ」

そう言って、アリアは何匹かのパレオニスクス類を掬って、袋の口を縛った。


夜の宿は冷たくて、どんどん、と戸を叩いてようやく、フロントでうたた寝していた宿の主人が目を覚ました。ほぼ、締め出された格好である。

「おう、こんな寒い夜中に」

「釣り道具使いたくて。ちょっと荷物あけさせて!」

「ってあの大荷物を今から開けるのかい?釣り道具ったら、あれでいいんじゃねえか?」

そう言って、彼は無造作に立てかけられていた竿を出した。

先端には、ルアーがついている。

「ありがとっ!ほんと助かる!」アリアはにっこりと笑みを浮かべると、「じゃあ行くよ!」とまた走っていく。

何とか遅れながらもついていくと、アリアはさっき釣ったパレオニスクス類を、針金でぐるぐるとルアーに巻き付けている。

「釣れるかなあ、こんなので」

「いけるってたぶん。多分傷ついた魚のにおいに反応するんじゃない?だからこう」

そう言って、竿先に鈴をつけて餌を放り投げた。


静寂。


普段なら耐えられ、寧ろ好むくらいの静寂が、今日は何か、気まずかった。

「さっきは、せっかくのプレゼントだったのに…ごめん」

そう、改めて口に出た。

「いいって。だってこう、髪飾りとかついてたら、こういう時不便でしょ?」

そう言って、アリアは頭につけたヘッドランプを指さした。

「まぁ、それもそうだね」

そして、ちらりと見えた表情は――あれ、全然落ち込んでない。

寧ろ、なにか幸せそう…?

それがかえって、不安にさせた。


その時、鈴が鳴った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ