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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
凍てつく地でも、採集を。
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冷たい、真夏の夜闇

ひとり、歩く。

ツンと冷えた、夜の闇を。

港に設けられた公衆便所、戸をがらりと開けると、ぱちん、と音を立てて暖色の灯が灯った。中は、温水循環でぽかぽかに温められている。

便器に座って、思う。

――悪いことをしたなぁ。

これから先、関係を修復できるか――悪手ばかり踏んでいる気がする。

旅は、まだ始まったばかりなのに。

身体の底が温まってくると、腹の具合もだいぶ、よくなってきた。

そうこうするうちに、服のほうも、だいぶ乾いてきていた。


よし、出るか。

戸を開けると、外の冷気が、顔に突き刺さる。

これで、真夏だという。

明け方には、霜でも降りてしまいそうだ。

石炭紀は、氷河期である。

ゴンドワナに発達した大陸氷河は、おおよそ屋久島に相当する北緯30度まで進出し、そして、地球史上まれにみるほど低緯度に、冬の時代がやってきた。

夏と言えど、日はそう長くない。

シベリアのような白夜は、ここにはない。

夏と言えど――長い夜は、あたりを冷たく、落とし込めてしまう。


息を白くしながら、懐中電灯で地面を照らす。

得られたものといえば、わずか数個の、ワレイタムシの死骸くらいにとどまった。

おそらくだが、気のぬるむ昼間に活動し、夜はどこかに隠れて、寒さをやり過ごしているのだろうか。

トイレの周りや暖房設備の周りを、よりよく探してみるべきだった。

どうせ夜通しライトラするし、明朝にでも見てみるか。

私は灯に戻ろうとして――ふと、向きを変えた。

川のほうは、どうだろうか。

昼でもひどく濁って、泡しか見えなかったくらいではあるにせよ。

堤防から、覗き込む。

褐色の水に、懐中電灯の灯が、くっきりとした直線を描いた。

すると、昼ではまるで見えなかった魚たちが、ぼんやりと浮かんでいるではないか。

皆、水面を緩く泳ぎながら、ほとんど動かない。

寝ている。

雷魚に似た、おそらく何かしらの肉鰭類と思われるものもまた、時折見られた。

そして、岸壁を見ながら歩くと、突然、にゅっと、伊勢海老のような足が、水面を貫く。そして、探るようにして、水面の小魚をあさり、抱え込んで口に運んだ。

大きさは――30㎝はあろうか。

しかしライトを当てると、ぱっと足を放して、濁った水の奥底へと沈んでいった。

網がないと、観察もできないな。


ライトトラップには、ひとまず採集器具が揃えてある。

息を切らして駆け込むと、アリアがハッと振り向いた。

「なんか凄いのがいる!」

私はつい、思ったままのことを叫んでいた。


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