メガラクネ
チリン。
鈴が一瞬鳴るとともに、私たちはもう、竿の先しか見ていなかった。
「…いま、鳴ったよね」
「…うん」
また、1分ほどが経つ。
チリン、チリン、チリン…
鈴は何度も、鳴り続けた。
アリアが竿をしっかり持って、いう。
「…合わせる?」
「いや…まだ、じゃないかな。あとカメラ、撮り始めるね」
「今の、撮ってなかったの⁉」
「うん、録画開始されてない」
「はぁ~…やらかした、私らしくもない…あと、なんかどんどん引いてきてるんだけど」
「竿曲がってる?」
「もう少し、ね…お、曲がった!」
ぐい、と大合わせする。
「なんか軽くなったけど…バレた?」
「いや…でもすっぽ抜けてないでしょ」
「そうね…なんかただ重い」
「上がってる?」
「上がってる」
私はネットを出して、堤防を覗き込んだ。
「まだ見えてない」
その瞬間、竿がまた大きくしなる。
「うわ、また重くなった!底にへばりついた?いったんアワせる!」
そう言ってまた竿が、ぐいとしなる。網を掲げたところに…見えてきた。
「OK、見えた。ネットイン…よし!」
ネット越しに、がさがさと動く何かを感じる。大きさは35㎝といったところだろうか?ごそごそと網の中を這いまわって、どんどん這い上がってくる。
しかしようやく・・・
「上がった!」
跳ねこそしないが、伊勢海老によく似ている。少し、ヤシガニを思わせるところもあった。大きめの亀くらいのサイズ感。
現生カブトガニと大きさはあまり変わらないが、よりずっと、足が長い。
突出した、台形の鼻面に、丈の高い前体…背中には、丸い甲羅のような。
それは――メガラクネMegarachneであった。
「うわ凄い!陸でもガサガサ這い回る!」
網から這い出してきたので、上からぎゅっと押さえつけると、驚くほど力強く足を動かして逃れようとする。網でもう一度くるむも、今度は網に穴をあけそうだ。
ひとまず、ライトトラップのあたりまで持っていく。
これで、すぐ川に戻ってしまうことは――ひとまずないだろう。
前方の脚には特殊な、剛毛の付いた棘が並んでいる。
「この脚で、魚掴んでたよね…でもこれ、そういう構造?むしろ、掬い取るみたいな…」
「うん、あまり、捕食者という感じでもないというか…日和見的に魚も食べる…とか?」
「うーん…やっぱり生きた姿を見ないと、形からは想像もつかないこと、あるよね」
「…見れば見るほど、わからないことが増える…陸のものか、水のものかもよくわからない。」
体を引きずって歩く姿は、やや、ヤドカリにも似ていた。
「案外、昼間は陸に上がってたりして。」
「明日の昼までに、見つけられるかな…」
気づけば、空の向こう側が、うっすら紺色に染まり始めていた。
そして、紫色へと、徐々に色味を変えていった。




