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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
凍てつく地でも、採集を。
128/229

足跡 〈淡水のクルジアナとルゾフィカスは、誰がつけた?〉

その浅い水たまりにいたのは、やっぱりまた、カブトエビとホウネンエビ、カイエビ、そしてユーシカルシノイド類。

「湿原とおんなじじゃない」

そう、アリアは言うが、ケイは動かない。

「種類が違うよ。カブトエビはちょっと甲の幅が広いし、肛上板の形が少し幅広だし。ホウネンエビもさっきのやつよりずっと頭でっかちで寸詰まり。水温もほら、19度もある。それよりなにより、ここは浅いから、足跡がよく見える」

「足跡って、そんなにすごいの?」とリリィ。

しかし、アリアは「そっか!足跡!そりゃ撮らないと」

と、一気に燃え上がった。

「生痕化石と種類の対応をつけられるってことね!」

「うん。現生種ですら、足跡と生痕の対応が怪しいものもあるし。すごく重要な資料だよ。しかもここ、適度に柔らかくて沈みやすい泥質みたいで、水面からクッキリ見えてる」

水底には、掘られた痕が、あたかも線路かのように残っていた。

中央は少し盛り上がっていて、底には細かくひっかいたような跡が夥しくある。そして、ところどころ深く掘られていた。

「線状のところがクルジアナCruziana、深くなってるところがルゾフィカスRusophycusだね」

アリアは首をちょっと傾げた。

「でもそれって、三葉虫の足跡じゃない?」

「でもカタチは裏切らないよ、形態的には、ルゾフィカスとクルジアナ。カブトエビがつけてるけど」

「もしかして、大発見!?」

「いやー、残念ながら。前々から言われてたんだよねー、石炭紀からペルム紀のクルジアナは大部分がカブトエビなんじゃ?って」

「え、なんで?カブトエビと一緒に見つかったの?」

「いやそれが、淡水から出るから、カブトエビなんじゃない?って言われてたくらい。でも現生種のカブトエビを見てみても、たいていもう水が泥濁りがひどいし、そんなに掘削力もないし、そんなカブトエビの這い痕なんて残るのかな?って思ってたんだけど」

「くっきり、よね」

「そうそう!カブトエビのほうがずっとパワフルだったのかも、って今思った。まあ3億年前のカブトエビと同じなわけないもんね…。」

「なるほど、ね…」

「ユーシカルシノイド類も足跡つけてるよ、ディプリクニテスDiplichnites型。ヤスデの這い痕って言われてるけど」

「え!?じゃ、あのでっかいディプリクニテスってアースロプレウラじゃなくて巨大なユーシカルシノイド類⁉」

「いやいや、足跡化石と分類ってキレイに一致しないからね…だって恐竜もなんでもグラレーターGrallatorだったりするでしょ?」

「今じゃほぼ1:1で科までは同定できるけど、昔はそうよね。対応付けるまでに、だいぶ足跡集めたもん」


ごつごつとした溶岩質の岩肌を越えると、急に視界が開ける。

岩の隙間に白濁した湯がぼこぼこと沸き、黄白色の湯の華が岩肌に染み出していた。

なるほど。とケイは思う。

ここに来るために、木道が整備されていたのだ。


「せっかくだし、足湯だけでもどう?」

リリィは微笑みながら、湯煙に両手をかざす。


登山靴と靴下を脱いで、湯に浸す。

冷えた足が、じん、と少し、かじかんだ。

「いやー、いい湯!温泉ってホント、最高。寒い風もいいスパイスって、感じ?」

「アリア、ほんと温泉好きよね。温泉って、火星にもあるの?」

「ない!だからいいのよ」

「温泉以前に、そもそも水がないでしょ」

「そりゃそうね。火山は?」

「ある、でっかいやつ!一番でかいのはオリンポス、標高27キロメートルもあるわ!」

「カレドニア山脈の4.5倍もあるじゃない!」

ケイは思わず噴き出した。

「カレドニアって…。ヒマラヤは確かにできてないけど」

「火星じゃプレートも火口も動かないから、ずーっと同じってわけ。って…私、火星より東京にいた時間のほうが全然長いのよ?」

「ま、日本人の温泉好きは異常だからね…」

その瞬間。

「うわ!」

アリアは大げさにのけぞる。

話を聞いていたかのように、地面が揺れた。

「深度2くらいかな」

「今週3度目よ、地震」とリリィはいう。

澄ました顔である。石炭紀の南米では、天気みたいなものであるらしい。

「やっぱ、地面は動いてるんだなあって。フェニックスとファラロンの継ぎ目が南米に突き刺さってるんだもん、そりゃ揺れるよね」

「火星にはプレートって概念も大陸って概念もないもの」

「全部玄武岩なんだっけ」

「そう、プレートも動かないから、オリンポス山も延々高くなるだけ。地震も、ほとんどないわね!起きたら総員退避って習ったの。数百万年に一度の噴火かも!って」

「そりゃ地震のたびに「大丈夫⁉」ってヒステリックな電話がかかってくるわけだ」

「それはそれよ!だって日本って地震で大変なことになること、よくあるじゃない?」

「ま、そりゃそういう土地だもん。どこにでも断層があるって言っちゃ、過言だけど」

すると、アリアは怪訝な目で泉源を追った。

温泉があちこちから湧いていて、そこを境に岩肌が少しずれている。

「この温泉、突然現れたじゃない?もしかして、だけど…断層から湧いてる、んじゃない?」

「そもそもさっきまで湿地だったのにいきなり岩肌が出てくるあたりからして、怪しいでしょこれ」

するとリリィは

「ええ、勿論!最初、ここに町を発てるはずだったのよ。温泉もあって地盤もしっかりとした岩肌で。でも、活断層直上で危ないって中止になってね~」

「っていっても、2キロと離れてないじゃん…」

「ま、まぁ、ね???」

人類が過去の地球に植民を始めてから、52年。

植民市生まれは、しぶとくて、おおらからしい。


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